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第8話 魔毒病






「この、子が例の少女なの、か?」



俺は、思わず言葉に詰まってしまった。


別に強いスキルが使えるようになったからといって自分の力を過信していたわけでも、フェンリルの目と知識さえあれば大丈夫だろうと高を括っていたわけなもない。


ただ、なんというかこの流れに乗って少女くらい救えてしまえればと少し期待をしてしまっていた自分がいたのだ。


ああ、俺は何を期待していたのだろう。

今になって思えばあのフェンリルですら救えない少女なのだ。

それを俺がなど.........。



『ああ。この子をお前のスキルで治してやってくれ。』



―――苦しみながら眠っているその少女、身体中が禍々しい痣のようなものに蝕まれもともと真っ白で綺麗であったであろう肌もほとんど分からない。―――



おそらく俺の二つか三つ年下であろう少女はこの楽園のような場所とは対照的に見ていられないほど凄惨な状態だ。



「クッ、俺は、何をすればいい?」



『彼女の病気の名は『魔毒病』だ。それもかなり末期のな。今は何とかユグドラシルの力で進行を食い止めてはいるが、かなり瀬戸際だ。』



―――『魔毒病』数億人に一人が発症するというかなり珍しい病気である。原因不明の『魔毒』と呼ばれる物質が体内に発生しその数を増やしながら身体を蝕んでゆくというものだ。原因不明のため効果的な治療法がなく世界でも完治したという実例はない。



『貴様のスキルで彼女の体内の魔毒を全て取り除いてほしい。』



魔毒は時間と共にどんどん増えていく。

俺がやらないといけない、自分で分かってはいる。

だが、もしこの少女を救えなければそれは俺が人を殺したも同然なのじゃないだろうか。


果たして俺にそんな覚悟はあるのか。



『今まで、数えきれないほどの方法を試したが助けられなかった。おそらくこれは貴様にしか出来ないことだ。』



俺にしか、できない。

やるしかないんだ。俺は恐怖を押し殺して覚悟を決めた。



「やってやるよ、俺が救ってみせる。」



俺のスキルが使えなかったあの時、トールが手を差し伸べてくれた。

誰にだって手は差し伸べられてもいいはずだ。

今度は俺が救える位置にいるんだ。

ここで何もしない理由なんてない。




俺は苦しそうに悶えている少女に意識を集中させていく。


深く、もっと深く、俺はどんどん意識を落とし込んでいく。




「うっ!?なんだ.........これは。」



彼女の体内には何千、何万もの魔毒が根をはっていた。

しかも、一口に魔毒と言っても一種類だけではない。

形が異なるもの、大きさが違うもの、はたまた色の違うものまでがある。


クソッこれは一回の『因数分解』では無理だ。

それこそ何千回もスキルを使わなければならないだろう。


長い戦いになりそうだな。





―――『因数分解』!!




俺はスキルを使った。


しかし、彼女の状態は変わらない。

当然だ。何種類もある魔毒の一つを外に出しただけだかならな。



俺はもう一度意識を集中させる。

今度は先程よりも明らかにイメージまでのプロセスが速くなっていた。



もう一度だ。




―――『因数分解』!!






やはり、まだ彼女の状態は変わらない。


また俺は意識を集中させる。





―――『因数分解』!!




―――『因数分解』!!




―――『因数分解』!


『因数分解』『因数分解』『因数分解』『因数分解』

『因数分解』!!!





十回ほど因数分解をした所でやっと彼女の左手の痣が薄くなってきた。

少し、息遣いも落ち着いたような気がする。



だが、まだまだ魔毒は彼女の中で暴れ回っている。


俺はまた、意識を落とし込んでいく。




―――『因数分解』『因数分解』『因数分解』『因数分解』『因数分解』『因数分解』『因数分解』『因数分解』『因数分解』『因数分解』『因数分解』『因数分解』




少しずつ彼女の体から痣が引いて言っているのが分かる。

まだ、まだだ。

少し痣が引いたからといって油断をすると魔毒はすぐにその数を増やしてしまう。


俺は間髪入れずにまた、スキル使い始める。





―――『因数分解』『因数分解』『因数分解』『因数分解』『因数分解』『因数分解』『因数分解』『因数分解』『因数分解』『因数分解』『因数分解』『因数分解』.........................










あれから何時間がたっただろう。

気が狂うほどに魔毒を分解し続けていた。

もう、俺は意識を保っているのがやっとの状態だ。

何時間も超集中状態でスキルを使い続けていたのだ。もう頭が限界に近い。



「これ、で、最後だ!!」



あと、残っている魔毒は一つだけだ。


俺はガンガンと揺らされるような頭痛を我慢しながら最後のスキルを使う。





―――『いん、すう、ぶんか、い』!






もう、彼女に痣はなく肩で息をするほどに荒らげていた呼吸ももう落ち着いていた。



「終わっ、たぞ。フェンリル。」



俺は今ある全力で、弱々しい笑みを浮かべながらフェンリルに言い放った。


「あっ.........。」





―――バタン!



俺の意識はそこで途切れた。



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