第11話 新人狩り
数日後俺は冒険者ギルドに来ていた。
「ゴブリン五体の討伐依頼の報告ですね。それではゴブリンの耳か魔石を納品して下さい。」
「はい。あ、あとこの間狩ってきた他の魔物の分も精算してもらえますか?」
俺はスナイマ草の依頼の報告が終わったあと、三つほど依頼を受けた。
現在、三つ目に受けたゴブリンの討伐の報告にきている。
前に森で狩った魔物達もどうせならまとめて納品した方がいいだろうと思いまだ精算していない。
「なんの魔物の精算でしょうか?」
「ゴブリン四体とキラーベア一体です。」
「き、キラーベア!?」
受付嬢も驚きを隠せないように目を大きく開いている。
―――キラーベアですって?
―――Eランクでもかなり強い魔物じゃないか。
―――あの子、確かこの間冒険者になった子よね。
―――しかも外れスキルとか言ってなかったか?
他の冒険者達からも驚きや疑問の声が上がっている。
それはそうだ。
普通はキラーベアなんてEランク冒険者からDランク冒険者になる為の絶対条件のようなものだ。
そんな魔物を冒険者になって間もない、外れスキルと思われていた奴が倒すなんて誰も信じるわけが無い。
「と、討伐部位か魔石の納品をお願いします。」
受付嬢も半信半疑な様子で続けた。
俺は討伐部位であるキラーベアの爪とゴブリンの耳四つをカウンターに置いた。
「これで大丈夫ですか?」
「なっ、ほ、本物.........。」
―――まじかよ。
―――どうせ誰かに手伝ってもらったんだろ。
受付カウンターの周りでは疑いの声が上がっている。
まあ、俺がもし逆の立場だったらそう思っているかもしれないし当然の反応のと言っていいだろう。
「こ、これがゴブリン四体とキラーベア一体の討伐報酬の96000Lです。」
俺は報酬を受け取って新たな依頼を探そうとしていると声がかかった。
「ガメオく~ん、嘘はいけないな~。」
「はぁ、またお前か。俺は自分の力でキラーベアを倒したんだ。嘘はついてない。」
コイツは俺がスナイマ草の報告に来た時から妙に俺につっかかってくるDランク冒険者の名前は確かスラプだったか?
かなり筋肉質な体をしており、俺の主観だがすごくガラが悪い。
「あ?おいおい、スキルも使えないやつがどうやってキラーベアに勝ったって言うんだ?その嘘は流石に無理があるぜ。」
スラプは俺が反論してきたのが気にくわないのか先程の茶化すような口調が消える。
「だから、何回も言ってるだろ。俺はスキルが使えるようになったんだって。」
「な~に言ってんだ。王都中でもっぱらの噂だぜ。今年の鑑定の儀では未確認のスキルがでたが何回試しても何も起きない外れスキルだってな。それってお前の事だろ?」
王都中で噂になっていたのか。
それは冒険者ギルドの連中が白い目で見てくるのも頷けるな。
一週間弱でここまで話が広がるとは、噂とは本当に怖いものだな。
「ああ、それは恐らく俺のことだな。だが、その後俺のスキルは使えた。これは紛れもない事実だ。信じられないかもしれないがな。」
「はっ!たまたま使えたスキルでキラーベアを倒せましたってか?笑わせるぜ。」
いや、そんなこと言われてもそれが事実なのだからしょうがないだろう。
自分でも思うよ。とんだご都合主義だなってな。
「そうだって言ってんだろ?早いとこ依頼を探したいからどいてくれ。」
「あ?Dランク冒険者の俺様にFランク冒険者のお前がどけだと?喧嘩売ってんのか?ああ?」
めんどくせぇ、いちいち新人に絡んでくるガラの悪い奴って本当にいるんだな。
なろう小説の中だけだと思ってたぜ。
え?ブーメラン?知らねぇよそんなもん。
「めんどくせぇなぁほんとに、お前は俺がなんて答えたら気が済むんだよ。」
「大先輩に向かってその口のきき方はなんだ?てめぇ!表に出やがれ!冒険者の厳しさってもんを教えてやるよ!」
そう言って俺は強制的に冒険者ギルドの外に追いやられた。
―――お?スラプの新人狩りがまた始まったか?
―――あいつかよ。今回は骨のある新人期待してたのになぁ。
―――スラプ、やっちまぇ!
他の冒険者達はそれを止めるでもなく、また始まったかと当然ことのようにむしろ楽しみにしていたとばかりに野次を飛ばしてくる。
なんだよここ思ってたよりも腐ってるな。
★
冒険者ギルドの裏にある広場に出ると、俺と対峙するスラプを囲うようにして野次馬が集まってくる。
―――今回はどっちに賭ける?
―――スラプに1000だな。
―――あ、俺もスラプに1000で!
野次馬たちはどちらが勝つかという賭け事まで始めてしまった。まじで悪しき風習だなこれ。
まぁ、俺がここでスラプを倒せば少しは収まるかもしれないな。
俺はこの数日間、依頼を受けると同時に俺のスキル『因数分解』を応用した技の練習をしていた。
そこで分かったことだが、このスキルかなり強い。
前々から分かっていたことではあるが、応用法を試すうちにこのスキルの幅広さに驚かされる。
これで俺の身体能力を上げたりすれば本当に冒険者として上り詰めることもできるだろう。
「さぁ、始めようか!冒険者同士の決闘は相手を殺さなければ何をしてもいいって暗黙の了解だからなぁ!俺に楯突いてきたことを後悔させてやるよ!」
スラプはのそのガラの悪い顔にニヤぁっと気持ちの悪い笑みを浮かべてハンマーを構えた。
大抵の戦闘職はその戦闘方法にスキルが顕著に現れる。
そもそも、特殊系のスキル自体が珍しくそのほとんどが冒険者にはならないため、冒険者のスキルはほぼその武器や戦闘スタイルで判断できる。
スラプのスキルは恐らく『槌使い』か『剛腕』と言ったところだろう。
そのどちらも戦闘に向いており、冒険者として成り上がるには十分だ。
「いくぜぇ、新人!」
そう言ってスラプはハンマーを構えまま俺に走り込んでくる。
速い、やはり流石はDランク冒険者なだけはあるってことか。
今の俺の身体能力では完全に避けきることは出来ないだろう。
「ウオらァ!」
スラプが俺に向かってハンマーを振ってくる。
俺は大きく後ろにジャンプしようとするが、
「そんなので俺の『剛腕』のハンマーを避けられるか!」
スラプはハンマーのスイングスピードを大幅に上げて俺を避けさせまいとしてきた。
「避けようなんて始めから思ってないさ。」
俺はそう言ってスラプが振っ来ているハンマーに手を当てた。
―――『因数分解』!
ハンマーの先端部分が一瞬にして消えてしまった。
「なに!?な、グガァ!」
次の瞬間、ハンマーの先端部が突如スラプの頭上に落下してきた。
スラプはハンマーの落下を頭に直で受け、倒れそうになっているところで俺は自らの短剣をスラプの喉元に向けた。
「これで俺の勝ちってことでいいよな?」
―――なっ、なっ、あの新人スラプに勝っちまったぞ?
―――しかもなんだ?あ、あのスキルは?
―――キラーベアの話はマジだったのか.........
―――大穴だったな。オッズ何倍だ?
野次馬たちは驚きの声を上げている。
誰も俺が勝つなんて予想できなかっただろうな。
俺は唖然としている野次馬たちを残してギルドへと戻るのだった。
一応説明しとくと、俺は因数分解を使ううちにある事に気がついた。
それは、目で見るよりも対象を肌で感じたほうがイメージの時間が圧倒的に減るという事と、分解した要素を展開できるという事だ。
今回俺はハンマーの先端の金属部分を分解してスラプの頭上で展開した。
以前、鉄鉱石の時は自分の手のひらで展開していたということだ。
このテクニックを使えばかなり戦闘が効率的になりそうだ。
ちなみに今回はかなり強引に触ってしまったので手がまっかに腫れ上がってしまったのは別の話。
today's summarize
「決闘勝った。」