弐
「ニャハハ、珍しいネ」
「コネはどうした『ネコ』、あのロリ、全然受け入れてもらえなかったぞ」
「いや〜、わたしもまさか断るとは思ってなかったから驚きだヨー」
中学からの付き合いの『霧山 美音子』と始業式をサボり屋上で、オレは文句をいくつも連ねた。
「だいたいあの女何歳だ? どう見たって年下にしか見えなかったが?」
「ああ、あの子今十三歳ヨ」
「……まて、それじゃあいつ中坊だろ?」
「中坊って……言ったじゃない? あの子はわたしの妹で、三兄弟の末っ子にして天才なノ。なんたって九歳でハーバードまで飛び級、翌年に『物質曲解転送理論』なんてよくわからない論文作ったり、その頭脳でそれから三年で大金持ちの仲間入り。ま、今のあの子に金は興味ないみたいだけどネ。現にこうして父の後継いであの学校守っているんだから」
「経歴が途方もないな。そんな妹がどうしてその学校の理事長やってるんだ?」
実際ここまでの少女が理事長で収まるとは到底思えない。しかしネコは肩をすくめながら「単純よ」と言いたげな笑みをした。
「あの子に、あの土地が必要だったの。大木を見た?」
「ああ、かなりでっかいのがポツンと」
「それ、『神樹』って呼んでるのよ、ウチでは。それこそオカルトクラスだけど、あれには言葉通り『神聖な力』が宿っているの」
「『言い伝えて』じゃなく?」
「ええ、現在進行形よ」
確かに不思議な力を感じなかったわけじゃ無い。しかしそこまでとも思っていなかった。
「あの子、魔法とか非科学が大好きなの。いえ、多分すがりたいんだと思う……」
なんとなくだが、オレはこれ以上聞いてはいけない気がしていた。彼女の目はどこか遠くを見ていたように見えたからだろうか?
「さ、もどろ。あまり長いと勘違いされるからねー」
「……そうだな」
程よくチャイムが鳴り、オレたちは教室へと足を進めた。
私立木咲高校
三年の葉坂高校繁栄の実績を持って、とある規格外少女が建てた新設校。とはいえ、各地から『学校に進学できなかった者たち』も受け入れるほどで、最年長でも七十の生徒もいるほどだ。それも珍しくないほどにだ。
「だが実際、全学校総称しての『二軍』学校だって話だよな。仕事と兼業多数、訳あり多数、特に厳しいわけではなくむしろ単位が温い……お前の妹は何考えているんだ?」
「さあね。わたしには探れないけど、まあ深く考えたって仕方ないヨ」
「その通りさ。ウチの末っ子は本当に有能すぎて読めないから考えるべきではないと思うよ」
廊下の向こう側から懐かしい声は聞こえ、思わず顔を向けた。
「カガリさん! 生きていたんですね」
「勝手に殺さないでほしいね」
と苦笑いを浮かべた『霧山 日駆』がすれ違うもの全てを魅了しながら近づいてきた。
名字から予想できないだろうが、カガリはロリ理事『葉坂 ミサ《ハサカ ミサ》』と、横の『ミネコ』の姉、それもかなり顔が整った美人ではあり、そして一歳年上で………
「『昨年行方不明』だった人だんだから仕方ないでしょネーサン」
「まあそうね、心配させてごめんなさい。ちょっと海外に飛んでいたのよ」
そして一見おしとやかそうなイメージが壊れるほどのアウトドア派で、中学のオカルト研究部のOB。
「いや、まさか南半球まで『トイレの花子さん』が熱かったからつい行ってきちゃったらね、まさかそこからパチモン臭漂う『インドのカツオさん』とか派生が多くて楽しかったわ。あなたたちもついてくれば楽しかったかもね!」
「その結果こうして同学年なのですが……」
「うん、願ったり叶ったりだ。……して今回も『例の奴』を追うんだろ? なら三年間一緒の方がいいだろう」
「いや、すっげー複雑ですが……」
「ま、気楽にためで話そうじゃねーか!」
とバシバシと背中をたたかれる。最もそんなに筋力がないため痛くはないが、これが絞め技などの、筋力だけではない技術的ワザならカガリの右に出るものはそうそう居ない。
「……で、早速今日から部活をするが、大丈夫だよな?」
まるでガキ大将みたいな若干強引さのある確認に、こうして今ここに彼女がいるのを実感して心が少し温かくなった。この強引さが俺を救ってくれたのだから。
「……今日はクラス交流を優先します。浮きたくないから」
「ハハハ、それもそっか!」
何事もポジティブな彼女にため息をつきながら、俺と目が合ったミネコは互いに苦笑した。




