第三話 演劇部 2
「えー、俺が顧問の皆川弥彦だ。よろしく」
僕が教室に入るとみんなが机を寄せて、顔合わせを行った。最初挙動不審な俺に、弘人が席を勧めてくれて、俺の隣に座った。皆川先生が自己紹介をし終わると、次に右側に座る鏡也さんに自己紹介を促した。
「俺は堺鏡也だ。さっきも言ったが一応部長だよ。 あぁ、こんな肩書あってないようなもんなんだけどな。趣味は真紀ちゃんを観察すること」
「黙れストーカー」
鏡也さんの自己紹介に間髪入れずツッコミを入れる翡翠さん。この流れはいつも恒例の様で、演劇部の皆は大声で楽しそうに笑った。
「えー、このストーカーは置いておいて。私は熊埜御堂翡翠。趣味はゲームだな。この部の副部長をやってる。」
翡翠さんはそう言うと、軽く頭を下げた。後ろで括っている長髪の黒髪が揺れるその姿は只頭を下げているだけなのにどこか凛々しい印象を受ける。
「えぇ、ひーちゃん早すぎだよ…。えーっと、私は桜美里、趣味は洋画を見ることです」
とてもおっとりとした口調で美里さんはそう言った。勝手なイメージだが、京都の人という感じ。もしかしたらそうなのだろうか。
「あ、虫が苦手です!」
美里さんは最後にそう付け加えると、軽く肩をすくめた。脳裏に虫がよぎったのだろうか、すこし顔をしかめた。
「俺は、佐々木雲雀。音照いじるのとか、インパクトみたいな工具触るんが好き」
雲雀さんはしかつめらしい顔をしてそう言った。どうも、あまり歓迎をしてはくれていない様子だ。
「バリィくんはいつもこんな感じだから、気にしないであげて。昨日弘人くんから君の事を聞いた時、一番喜んでたのバリィくんだから」
翡翠さんがそう言うと、雲雀さんは首に手を当て、少し目を逸らした。どうやら本当らしい。
「はーい!次私ね。丸野彼方です。趣味はアイドル!最近は関東シニアっていうグループがあってね!」
彼方さんがそこまで言うと、雲雀さんが手で強引に彼方さんの口をふさいだ。
「彼方がコレ始まると長いから。真尋自己紹介始めて」
「あ、はい。えと、私は山中真尋。趣味はアニメを見ることかな?立ち眩みはもう大丈夫?」
どういうことかと思考を巡らせると、思い出した。昨日、下駄箱で僕に声をかけてくれた人だ。同輩だったのか。
「あ、うん。何とか」
俺がそう言ってぺこりとお辞儀をすると、真尋さんはにこりと笑いかけてくれた。優しそうな子だ。
「私、桜東花です!よろしく!」
東花さんは元気一杯に自己紹介をすると、ぺこりとお辞儀をした。勢いをつけすぎたようで、目の前の机に額をぶつけた。
「ありゃ、またやっちゃった~。あ、東花はね、私の妹なんだ~」
美里さんは相変わらずおっとりとした口調でそう言った。桜という名字が同じだから、おや?とは思ったが、どうやら本当に姉妹だったようだ。
「じゃあ次私ね。八島真紀です。好きな物は…あ、今ね、歴史上の偉人を集めて戦う偉人猫ってゲームがあるんだけど、今朝織田信長が当たったの!」
真紀さんはそう言うと満面の笑みを浮かべた。
「最後は僕だな。西片弘人だ。何か知りたいことある?」
弘人はおどけてそう言った。
「無いよ。―――えっと、冴島悠也です。趣味は特に無いんですけど、これから見つけていきたいです」
俺がそう言うと、皆川先生が思い切り膝を叩いた。
「良いね、それ。不確定要素が多いってことは、未来がまだ決まってないってことだ。しかも、高校生の君たちが行う行動の一つ一つが未来へまさにバタフライエフェクトみたいに大きく影響することもある」
皆川先生はそう言うと立ち上がり、俺の方までやってきて右手を差し出してきた。
「演劇部との“出逢い”が君にとって良いものになることを願ってるよ」
俺はおずおずと右手を重ねた。ぎゅっと強く握られた右手に伝わる暖かさが、どこか優しかった。
「とにかく、菓子パ始めない?美里お腹すいちゃったよ~」
俺と皆川先生が握手をしていると、不意に美里先輩がお腹に手を当てながらそう言った。
「そうだな。取り敢えず、親睦を深めるとしようか」
鏡也さんはそう言うと、立ち上がって教室の外へ出て行った。
「あの、何処へ行かれたんですか?」
「あぁ、ガラテヤ館にお菓子箱取りにいったんだよ。ガラテヤ館ってのは、入学して最初の校内見学の時に藤里先生がすっころんだ所な」
成程。僕たちが授業を受けている本館からほど近い別館のようなところだった。二階建ての古い建物で、ダクトがむき出しになっており工場のような印象を受けたことを思い出す。
「でも、大丈夫?」
「何が?悠也は心配性だな、そんなに遠くないから一人で十分だよ」
弘人はそう言って笑い、立ち上がると長机を一つの大きな机にするために移動させ始めた。弘人がそれを始めると、みんなそれに倣い机やいすをまとめ始めた。
「いや。あの」
「なんだよ」
全員の視線が俺に集まる。
「鏡也さん…甲冑着けたまま…ですけど」
俺がそう言うと、全員作業の手を止め、口をぽっかりと開けた。
「マズい…ですよね?」
俺がそう聞くと、全員が赤べこのように首を振った。
「俺、行ってきます!」
口に出すが早いか、俺は教室を飛び出していた。
すっごい久しぶりの投稿ですね。
先日、質問箱で続編を待っているとの言葉を頂いたので続編?次話?投稿させていただきました。
終了までの漠然とした構想は頭の中にあるのですが、それが中々形になってくれなくてもどかしい気持ちでいっぱいです。
これからできるだけ早いペースで投稿していきたいと思いますので、ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告等々していただけると幸いです。
特に、感想や評価などは更新ペース及びやる気に直結いたしますのでいただけますと幸いです。