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とりかへばや姫君外伝〜三の君の恋〜

作者: 美湖都

私は左大臣家の三の姫。近頃、都で評判のお妃候補。書道も和歌も音楽もお香も、私はなんでも秀でていると評判で、若い公達たちから、ひっきりなしに恋文がくる。東宮に入内するかもしれないとの噂もある。


なのに、私の心は憂鬱だった。


みんな私のことをほめそやしてくれる。けれども、それは本当の私ではないから。


私は、楽器は全部苦手だし、お香を作ったときは、臭すぎてみんな逃げ出した。恋文に書いている返事は全部、従姉妹の芙蓉が代筆している。


私が小さいころは、芙蓉の母親で、亡きお母さまの妹でもある中将の御方が私と芙蓉にいろんな教養を身につけさせようとした。あのころは二人とも一生懸命頑張って勉強したものだ。


私だって、手習いとか頑張ってるのにな。そう思って、溜め息をついた。

目の前には、ミミズがのたくったような字が踊っている。練習しても練習しても、上手くはならない。


こんな私が入内したって、お父さまやお姉さまが恥をかくだけ…


そんな思いが、私の憂鬱を深くする。


私は、芙蓉のことを思った。何でも出来ちゃう芙蓉。美しくて、優しい芙蓉。


私は、芙蓉のことが大好きで、ちょっぴり嫌いだった。


私が六歳の時に芙蓉がやってきた。母を亡くした私と父を亡くした芙蓉。私たちはすぐに仲良くなった。何でも芙蓉と二人でした。なのに大きくなるにつれて、私と芙蓉の立場は徐々に変わっていった。


左大臣家の三の君として、御簾の中から出してももらえない。いつも女房たちからは、あれをしてはいけません、これをしてはいけませんと叱られてばかり。


芙蓉といえば、御簾から出て、自由で楽しそう。


私は、羨ましくて仕方なかった。私は、何をやっても上手くいかないというのに。


芙蓉が外を飛び回る美しい蝶ならば、私は地面をはっているイモムシみたい。そんなことを考えてしまう自分が嫌いだった。東宮になんて入内したくない。女御になんてなりたくない。


そんなある日、私は思いついてしまった…


そうだ、私と芙蓉が入れ替わればいいんだ。


でも、どうやって??




ある夜、男の人がやってきた。優しそうなその人は、帝と東宮の異母兄弟である式部卿宮。


一目惚れだった。


私は、後先考えずに、連れて逃げてと頼んだ。式部卿宮は、困っていた。そりゃあそうだろう。東宮に頼まれて私を見に来たというのに、私と駆け落ちなんてことになったら、どんな咎めがあるか。


それでも、式部卿宮は何度となく密かに私に会いにきてくれた。私は、芙蓉のことを話した。


式部卿宮は、興味をもったようだった。


次に来た時。


彼は私を連れて逃げてくれると言った。東宮のお許しが出たんだと笑っていた。


私は、差し出されたその手をとった。


ごめんなさい、芙蓉。あなたにいっぱい迷惑をかけてしまうわね。


…でも、あなたなら大丈夫。


私は、振り返らなかった。式部卿宮の子供を妊娠して、後戻り出来なくなってから、私はお父さまに会いに行った。


お父さまは怒らなかった。父親として、娘に幸せになって欲しいという思いと、政治家としての計算。


二つが合致したのだろう。


中将の御方には、こっぴどく叱られた。本当に心配してくれていたのだろう。芙蓉は、入れ替わらされたことを窮屈に思っているようだったけど、私には恨み言は言わなかった。ただ、私に会えたことを喜んでくれた。


二人とも、迷惑かけてごめんなさい。でも、大好きよ。二人のことを思うと、そんな思いでいっぱいになる。

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