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十三月の聖戦  作者: 宗谷雅近
第1章 出逢い
3/6

少年時代と少年

「おはよう~。今日も依頼~?」

相変わらずボサボサの髪に寝間着姿のメイが部屋から出てきた。

しかし、食卓にご飯と書き置きがあるだけで誰もいなかった。

「朝ごはんを置いておく。今日は、トリフォリウムとの国境付近に行ってくる。」

メモ程度の簡単な書き置きだった。

「う~ん。いってらっしゃ~い。」

大きなあくびをしてメイはご飯を食べ始めた。


エイプは、まだ暗いうちに拠点を出ていた。

トリフォリウムレペンズとの国境はフリティラリアとの国境よりもさらに北にある。そのため、いつもより早くに出る必要があった。

そして、賑わっている街に到着したのは次の日の昼だった。

「ふーっ、やっとついたか。」

車の中で大きな伸びをすると、近くのパン屋が目に付いた。

「はーい、らっしゃいらっしゃい!安いよー!」

「うちのパンは世界一だよー!」

エイプは平和そうな街を見て、とりあえずパンとコーンスープを買って、犯人が現れるのを待つことにした。

今回の依頼はこの市場街を襲う泥棒を捕まえることである

数時間が経って夕暮れに街が染まってきた頃。

「泥棒だー!そいつは泥棒だ!誰か捕まえてくれ!」

それを聞いて、エイプはすぐに飛び出した。そして、声のした方にはフードをしたパンを抱えた青年が走っていくのが見えた。

急いで取り押さえたが、

「え、な、何だよ!?」

「お前が泥棒だな!」

「ち、違うよ俺はしっかりと買ったぞ」

「本当に申し訳なかった。」

「別にいいけどさ、気をつけてくれよな」

青年は服についた汚れをはたきながら立ち上がると走って帰って行った。

落ち着いて話を聞くと、彼には結婚したての奥さんがいて、料理ができたあとでパンを買い忘れていたことに気付き、急いでパンを買ってくるように頼まれたということだった。さらに、持っていたパンは盗まれた店のパンではなかったのだ。

「ご迷惑をお掛けしました。」

エイプは、盗まれたお店の人にも謝罪をした。

「いつもこうなんだ。犯人を捕まえたと思うと人違いなんだよ。毎日という程ではないけど油断をしていると狙ったように来るんだ。」

「そうですか。少しこの周りを調べさせて貰ってもいいですか。」

「はい。よろしくお願いします。」

そして、エイプは周りを調べ始めた。

数時間が過ぎ、辺りが夜の闇に包まれる頃、路地裏のゴミ箱の下に子供が入れるくらいの穴を見つけた。

「なんだこれは、あー」

穴の中に向かって声を掛けた。

「なかなか広いみたいだな。しかし、俺の体じゃ入れそうにはないな。」

“開放”

「本当は嫌だが、サーベルで削って広げるか。コントロールが使えればもっと楽なんだがな」

掘り進めていくと、道はいくつにも枝分かれしていて迷路のように複雑になっていた。

「お、やっと外に出れたか。」

そこは入ったところとは違う路地裏だった。

「もしかすると」

すべての路地裏を調べてみると、ほとんどの路地裏に同じような穴があった。

「おそらくはこれを使っていたんだろう。少し疲れたな。」

エイプは1度車に戻った。

そして、考えていた。

俺は勝手に犯人は大人だと思っていた。でも、あの穴を犯行に利用していたなら、犯人は子供だ。盗みという行為は許していい行為ではない、しかし、それは子供が生きるために必要な行為になることもある。俺もそうだったからよく分かるんだ。エアルとともに食べ物を盗んで食いつないでいた。この犯人を捕まえるということは俺やエアルを否定することになる。もちろん間違っているのは分かっているが、俺は犯人を助けたいんだ。俺たちがシェパーズさんに救われたように。

エイプは、そんなことを考えるうちに眠ってしまった。


目を覚ますとエイプは昨晩見つけた穴から入り、穴を掘り進めた。そして、路地裏以外に繋がる穴はトリフォリウムレペンズへと繋がっていた。

「やはり、犯人はトリフォリウムレペンズの人間か」

辺りにはゴミで作られた家が並んでいた。

人の気配はあるもののエイプから隠れているかのように姿は見当たらない。

“封輪”

「ここに我が国セラスス王国でパンを盗んでいる者がいるはずだ!そいつと話がしたい!出てきてくれないか!」

エイプはサーベルをリングに戻して叫んだ。

しかし、誰も出ては来ない。

そして、出てくるまで待つという意思を示すために穴の前であぐらをかいて座った。

30分程経った後、5歳くらいの少年が現れた。少年はひどく痩せている。

「君が盗んだのか?」

優しくきいた。

「は、はい。捕まえるなら僕を捕まえて下さい。悪いのは、僕だけです。」

少年は震える声で弱々しく答えた。

「待って下さい。その子は悪くないんです。全部私がやらせた事です。その子のことはどうか見逃してあげて下さい。」

少年の隣の家から杖をつきながらゆっくりと65歳程度の片脚のないおばあさんが出てきた。

「まぁ、落ち着いて下さい。俺は犯人を捕まえに来たわけではありません。どうしてパンを盗んだのかそれをききに来ました。そして、俺に救えることはないかということも。」

「た、助けてくれるの?」

少年は目に涙を浮かべている。

「あ、ありがとうございます。」

おばあさんは倒れ込んでまで頭を深く下げている。

「それで、どのくらいの食料が必要なんだい?」

「贅沢は言いません。1日にパン1つ頂ければ十分です。」

おばあさんが答えた。

「それだけで本当にいいのかい?」

「多く貰いすぎれば、ここの人間で奪い合いが起きます。そうなれば、私達は失うことになる。だから、それでいいんです。」

「なるほど。分かりました。では、君が盗んだお店に話を通しておくから、次からは盗まずに貰うんだぞ。」

「分かりました!ありがとうございます!これで弟と妹も助かります!」

少年は、涙を流しながら笑った。

「そうか、弟と妹がいるのか。じゃあ少年、パン屋には2つ貰えるように話しておくから弟と妹にも食わしてやれ。」

エイプは少年の頭を撫でると立ち上がり、穴の中に戻った。

「アンデシム!僕の名前!」

少年はエイプの背中に叫んだ。

「俺はエイプだ。頑張れよアンデシム。」

エイプは振り返らずに答えた。


街に戻ったエイプは、パン屋の店主にアンデシムという少年が来たらパンを2つ渡すように頼み、代金はピース・オブ・ピースに請求するように頼んだ。

そして、夕暮れの中を車で帰っていった。


拠点についたのはそれからさらに2日後の朝だった。

エイプがドアを開けるとそこには、

「ただいま。ってなんだこれは。」

エイプの目に映ったのは、パジャマ姿で倒れているメイの姿だった。

「お、お、お腹減ったよー。エイプー、死にそうー。」

「す、すまん。忘れてた。こんなに遅くなる予定じゃなかったからな。昨日の朝までしかご飯は置いてなかったな。今すぐ作るから待ってろ。」

「ううー。」

こうしてまた、平和な1日が始まるのであった。

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