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十三月の聖戦  作者: 宗谷雅近
第1章 出逢い
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現在

エアルが消息を絶ってから5年がたった。

エアルの12人の仲間、通称『ピース・オブ・ピース』の1人である、エイプは大陸ワテルのセラスス王国にいた。

セラスス王国にはピース・オブ・ピースの拠点があったが、今ではエイプとメイだけが住んでいる。

メイも、ピース・オブ・ピースの一員であり、彼女のアームズリングはチョーカーの形をしており武器は枕である。夢の中で作ったものを具現化することができる。

ただし、1度の睡眠で1つのものしか具現化できない。もちろん、アームズリングの枕で寝なければ具現化しない。

エイプのアームズリングは指輪の形をしており、中指に付いている。武器はサーベルであり、服装は常に白いワイシャツに黒いネクタイを締め黒いズボンに膝上まである黒いジャケットを着てその上からベルトを締めるといういわゆる軍服のような格好をしている。

そして、イェアルとエイプとメイは古くからの親友でピース・オブ・ピースはこの三人から始まった。


「ふぁ~、おはよう~。」

扉を開けて出てきた髪がぼさぼさの女がメイである。いつでも、気の抜けたようなしゃべり方である。

「ああ、おはよう。今日も国王からの依頼で俺はフリティラリアとの国境を越えた奴らがいるらしいから懲らしめてくる。」

きれいな金髪をオールバックにまとめ、ネクタイを固く締めたエイプが言った。国境に流れる大河には一本だけ橋がかけられていて門で固く閉ざされてはいるもののエイプが呼ばれることは多い。

「ありがとね~、いつも朝ごはん作ってくれて~、ングッ。料理上手な男はモテるよ~、モグモグ。」

きれいに焼かれた鮭からきれいに骨を取りながら、口からこぼれるお米が机を汚した

「今さらモテても仕方ないだろ。っておい!食べ物をこぼすなっていつも言ってんだろ。お前ももう子供じゃねぇんだからもっときれいに食えよな。はぁ~、俺はもう出掛けるからその食べこぼしはちゃんと掃除しとけよ。」

そして、エイプは家を出た。

「おっけ~。」

そう言いながら、また食べ物がこぼれ落ちる。

今日もピース・オブ・ピースは平和である。


エアルが消息を絶ってから、ピース・オブ・ピースは事実上の解散となり、メンバーは島々に散らばっていった。

ただ、エイプとメイは大陸に残りエアルを待つと決めた。

そして、二人だけでは大陸全土までは監視できなかったため、規模を小さくしてセラスス王国だけの監視を続けた。

その結果、もともと影で強奪や暴力の横行していた国フリティラリアではそれらの行為が表面化した。そして、その余波がセラスス王国にも及びフリティラリアの国境付近では度々騒動が起こっている。

貿易大国であるトリフォリウムレペンズでは、貿易によって潤っていった富裕層と貧困層との貧富の差がなくなるようにピース・オブ・ピースが作った法が撤廃された。それによって、今まで以上に大きくなった経済格差により、中心街はさらなる発展を遂げたが、中心街から少し離れた街はごみ溜めのようなスラム街となってしまった。

もともと、仲間意識が強すぎて外国との関わりを持たなかったコロコニは、隣国のこのような変化によってさらに孤立化している。


「ふぅ、やっと着いたか。」

家を出たときにはまだ低かった太陽は頂点を通りすぎている。

エイプが車から降りて街を見回していると1人の少年につまずいた。

「どうしたんだ?こんなところで」

道片隅でうずくまる少年に言った。

「姉ちゃんが…姉ちゃんがアイツらに…」

少年は泣きながら答えた。

「そうか。そのアイツらってのはどこにいるんだ?」

「向こう…橋の向こう側」

「ありがとう。君はもう帰りな。あとは俺に任せろ。」


エイプが橋の向こう側へと足を進めると、騒がしい声が聞こえてくる廃屋を見つけた。

「よし、ここだな。」

相手を殺すという強い意志を持って、

“解放”

そう念じるとリングは一瞬にしてサーベルへと形を変えた。

そして、勢いよく扉を蹴破った。

中では15人ぐらいの男たちが酒を飲んでいた。

「お前らか。ここら辺を騒がしてるってのは。」

「お前の方こそ何者だ?俺たちの楽しみを邪魔するのか?」

奥の方でソファーに座っている男が言った。おそらくは彼がリーダーなのだろう。

首から血を流している女性が3人転がっている。その奥で数人の女性が恐怖に震えているのが見えた。

「お前らこの人たちに何をしたんだ。」

エイプは冷静口調で話しているものの激しい憤りに震えを抑えられなかった。

「さっさと出てけよ!」

エイプから1番近くにいた男が近づこうと足を出した瞬間、1本のサーベルがその男の喉元を貫いた。

「俺はセラスス国王の依頼を受けてきた者だ。お前らが依頼のゴロツキで間違いないようだな。我が国に今後足を踏み入れるな。」

首から血を流し1人の男が倒れ込んだとき、止まっていた時間が動き出したように一斉に他の男たちも襲いかかってきた。

「どうやら、こちらの要求をのむ気はないようだな。それじゃあ仕方ない。制裁を始める!」

エイプの振るうサーベルは次々と不良たちの急所を的確に貫いていく。

「な、何だこいつ。セラススにこんなに強いやつがいるなんて聞いてねぇぞ!」

リーダーは焦りの表情を見せて武器を開放した。

「はぁ~、5年も経つとこのマークが分からない人間もいるのか。」

鳩の翼を後ろから鉤爪のように尖った指が鷲掴みしている絵のついたワッペンを見せながら、あきれたようにエイプが言う。

「そ、そのエンブレムはもしかしてピース・オブ・ピース!まさか、本物なのか?」

「本物かどうかは言うまでもないだろ。」

「た、頼む!止めてくれ!助けてく…れ」

「命を奪うぐらいの覚悟がなきゃアームズリングは開放できねぇ。そして、奪う覚悟は奪われる覚悟と表裏一体だ。制裁完了。」

リーダーは、胸から血を流し倒れた。

“封輪”

そう念じてサーベルを指輪のかたちに戻した。

「君たちはみんなセラスス王国の人かな?」

未だに震える女性たちに優しく言った。

誰からも答えは帰ってこなかったが、とりあえずすべての女性を街へと送った。死んでしまった3名の亡骸も抱えて。街につくと、女性たちの家族が駆け寄ってきた。女性たちは皆家族と共に家へと帰っていった。先程の少年も姉とともに笑顔で帰って行った。

しかし、数人の人たちは呆然と立ち尽くしていた。

「本当に申し訳ございませんでした。自分が到着したときにはすでに3名の命が奪われていました。」

立ち尽くす彼らは何も言わずただ涙を流していた。

エイプは、深く頭を下げ、車へと向かった。


車につくと携帯電話を取り出して電話をかけた。

「はい、こちらはセラスス王国の王宮でございます。エイプ様ですね。」

電話に出たこの落ち着き払った年老いた紳士は王宮召し使いのトップである執事シェパーズポーズである。

「エイプ様はやめてください。師匠。」

シェパーズはまだ幼かったエアル、エイプ、メイの3人にアームズリングの使い方を教えてくれた人だ。

「まぁ、今はお仕事中ですから。きちんと呼ばなければなりません。」

「そうですか。僕は呼び捨てのほうがしっくりくるんですがね。依頼は完了しました。その連絡です。」

「承知しました。毎度毎度ありがとうございます。それでは、報奨金はのちほどお送り致します。」

「こちらこそありがとうございます。報奨金さえいただければ、またいつでもやりますよ。それでは。」

「また、依頼を出すと思いますので、そのときはよろしくお願いします。それでは、失礼します。」

「また、遊びに行きますね。」

「いつでもいらして下さい。王子も喜びます。」

エイプは携帯電話をしまうと車に乗って家に向かった。

家についた頃には、もう太陽は沈んでいた。

「ただいま。」

と言ってもリビングには誰もいない。

メイは部屋で執筆活動中だ。

メイの仕事は、小説家である。

エアルの伝記のようなものを書いている。やや、誇張されてはいるが、そのたぐいまれなる表現力によってたくさんの人の心をつかんでいる。ただ、エイプは自分の性格がひねくれて書かれすぎているので、少々不満に思っている。

「あ、お帰り~。晩ごはんは~。」

自分の部屋の扉から顔だけだしてメイが言う。

「とりあえず、このお前の朝の食べこぼしを早く片付けろ。作るのはそれからだ。」

「えぇ~、晩ごはんのあとに片付けるから~。早く作ってよ~。」

「だめだ。今、片付けろ。」

「分かったよ~。めんどくさ~。」

そう言って、部屋から出てきたメイは朝と同じパジャマを着ている。

「お前、朝から着替えてないのか。」

「う~ん。」

「じゃあ、風呂も入ってないのか。」

「う~ん。」

「な、お前いったい何日風呂に入ってないんだ。」

「7日ぐらいかな~。」

「な、1週間も!?

 片付けは俺がやっとくから早く風呂に入ってこい!」

「片付けなくて良いの~。やった~、じゃあ、お風呂入ってくるね~。」

「はぁ、汚い女だ。」

そう呟いて、エプロンをつけてエイプは片付けを始めた。


「はぁ~、いい湯だった~。あ、美味しそ~。」

タオルを巻いて出てきたメイは晩ごはんの並んだ食卓を見つめている。

「早く服を着てこい。」

「キャッ、見られちゃった~。エイプのエッチ~。」

そこそこ大きな胸を手で隠している。

「お前みたいな、がさつな女に興奮するか。清潔感が無さすぎる。」

エイプは真顔で言った。

「うふふっ、照れちゃって~。」

そんなことを言っているメイの手は先ほどまで着ていたパジャマに手を伸ばしている。

「おい、新しい服を着ろ。どうせ、こぼすからパジャマもやめろ。」

「めんどくさ~。」

そんな文句をぶつぶつ良いながら着替えているが、エイプはもうご飯を食べ始めている。

「あ、ずる~い。先に食べないでよ~。」

そんな言葉を無視してエイプは食べ続けている。


「いただきま~す。」

Tシャツに着替えたメイはハンバーグにナイフを入れた。

「そう言えば、『エアル伝説』は相変わらず人気だな。」

ご飯を食べ終え、食器を洗っているエイプが言う。

「うん~、どこかでイェアルも読んでると良いな~。」

と言ってる口から米粒がこぼれ落ちる。

「ああ、そうだな。」

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