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騙る者ども11

 アロは俺といて幸福なのだろうか。と、女々しいことを何度も考えてしまう。

 彼女は一人では生きていけないという免罪符も、父母の友人が出てきたことでなくなってしまった。


 アロが俺のことを好いていて共にいたいから、あるいはその反対に俺がアロを好いているから、それ以上の理由はない。


 安心しきったぽやっとした表情で、すやすやと眠っているアロの頰を指先でついた。

 柔らかい。可愛い。

 同じベッドで寝ているせいで必要以上にかけ布団が暑く、寝汗をかいていて、俺の物かアロのものか分からないぐらいだ。


 少女の匂い。薄手の寝間着が肌にひっつき、幼く細い少女の線が露わになっている光景。


「……朝っぱらから、どうしようもない。俺は」


 10歳やそこらの少女に欲情するなど良いわけがない。今更である。

 めくられている寝間着から、指先ほど覗く白い肌。じっと見てしまえば堪え難く、寝間着を直接触れるのも無意味に緊張してしまうため、布団を彼女にかけてベッドから起き上がる。


 食事を摂る前に、素振りでもしてアロへの欲望を追い払おう。


 いつものように、家の前で剣を振るって獣欲を思考の外に追い出していく。

 やはり、アロと寝床を共にするのは良くないだろう。夜に目が覚めてしまったときには葛藤して眠れなくなってしまう。


 だが、なんて説得すればいいのか。欲情してしまうから、と言っても伝わらないだろう。襲いたくなる、と言えばアロは暴力の方の襲うと勘違いしてしまう。

 下手なことを言っても、アロに受け入れられてしまうだろう。


 目が覚めたアロとシチの二人と朝食を食べてから、いつものように教会の前でクリスと落ち合う。


「ん、おはよう。フランくん、元気ない?」


 むしろ元気だから困っている。とは言えるはずもなく、首を横に振って否定して終わる。

 いや……男の俺から性的なことをアロに教えるのは難しいが、同性のクリスからなら教えることも出来るのではないだろうか。


 アロにお菓子を買い与えて、そちらに意識を持っていかせたところでクリスに話しかける。


「少しいいか?」

「うん? いいけど、どうしたの?」


 こてんと首を傾げたクリスに話す。


「いや、アロとのことなんだが……。少し、俺との距離が近すぎてな。寝るときも一緒に寝ていて」


 クリスが俺の言葉を聞いて、ものすごく表情を歪める。


「結婚しているとは言えど……。こ、こんな小さい子を相手に……」

「していない。が、問題だとは思ってなんとかしようと思っている。……だが、理由も言わずに無理矢理引き離すとアロを傷つけてしまいそうだし、理由を説明するのも……なぁ」

「なんとかしようと思っている!?」

「いや、別の場所で寝るって意味だからな」


 クリスにじとりとした視線を向けられ、気まずさに目を逸らす。

 手は出してないから問題ない。 そう言い切るには、少しばかり俺とアロの距離は近すぎる。


 幸せそうに菓子を頬張るアロの頭を軽く撫でた。


「まぁ、言いたいことは分かったけど……。 私が言うことなのかな」

「同性の方が教えやすいかと思った。ニムには頼れないしな」

「ニム?」

「……頼めないか?」

「うーん。 普通に反感買われるかな、と、女の子同士で男の人から離れるように言うと。 ほら、私がフランくんに好意を抱いてると勘違いされそう」


 アロは聖職者が好きだから問題がない気がする。 なんだかんだと悩んではいたが、割り切ったのか、毎日教会に来たら祈りを捧げるし、俺は聞き流している教会の教えを熱心に聞いている。


 今、教会は人に溢れているが、そのほとんどはツヴァイの治癒魔法が目当てで、アロのように説法を聞いている人はほとんどいない。


「……まぁ、アロちゃんなら大丈夫そうな感じするけど」


 クリスはアロを一瞥して頷く。


「簡単にだけだよ?」

「助かる。 ……と、揉め事があったみたいだな」


 頰に刺さるようなピリついた空気。 振り返って見ると、遠くで数人の男が何かを言い合っていた。


 すぐに介入しようと歩き出そうとすると、クリスに手を掴まれる。


「……あの人、見たことある。 あれ、協会の手駒で、揉め事を起こすためにいちゃもんをつける人だ」


 大きな揉め事を起こさせて、自分の勢力で揉め事を止めさせて、ドサクサに紛れて色々と介入してくるつもりだろうか。


 あるいは、表立って「治癒魔法をやめろ」と言うと、問題があるから「こういった揉め事をなくすためにやめろ」と言うためか。


 どちらにせよ、面倒くさい相手だ。

 揉め事を起こすために揉め事を起こすのだから、何を言おうと仕方なく、かと言って殴り合いにでもなったら相手の思う壺だ。


 ふっ、と息を吐き出す。


 要は相手に「関わりたくない」と思わせるほどビビらせればいいだけだ。


 魔術【隠形】とは逆に、吐き出す魔力を意図的に増やす。 イメージするのは、ニムが戦闘を行うときの呼吸だ。

 溢れる魔力だけで、相手を威圧するような。


 これで、俺を見る人にとって、俺は「とんでもない魔力量を持った人間」に見えるだろう。

 ただのハッタリに過ぎないが、それで十分だ。


 歩くだけで、周りの声が沈んでいく。 騒がしかった場所が静かになり、自然と俺に視線が向く。


「……揉め事か?」


 顔をしかめながら男達に視線を向けて尋ねると、彼等は無言で首を横に振る。


「なら、構わないが」


 そのまま歩き、アロとクリスの元に戻る。

 若干、俺から距離を置いているクリスに言う。


「ただ大量に魔力を吐き出しただけのハッタリだ。 気にするな」

「ま、魔法?」

「似たようなものだ。 まぁ、魔力を使うから連発は出来ないし、そもそもハッタリ以外には意味がないしな」


 ハッタリ以外だと、俺が疲れるぐらいだ。 いや、魔物が多いところなら魔物が寄ってくるのもあるか。


 アロはべったりと俺にくっつきながら、小首を傾げて俺に尋ねる。


「魔力、使ったんですか?」

「ああ、少しな」


 彼女は少し顔を赤らめて、俺の服に埋めるようにして顔を隠す。

 ふたりきりになったら、と、想像をしたのだろうか。


 そんなアロの頭を撫でていると、クリスが困ったように言う。


「うーん、本格的に動き出すだろうなぁ」

「普通にぶん殴って済むなら、俺がやるが」

「それはダメだよ。 揉め事が大きくなったら困るからね。 まぁ、他の人に危害が出そうなら仕方ないけど」


 とりあえず、ツヴァイが仕切っているのだから、彼に報告するしかないか。

 日課となっている教会での広範囲治癒魔法が終わり、人がはけていく中、流れに逆らって歩いてツヴァイの元に行く。


 彼は疲れたように椅子に座っていて、俺を見て軽く手を挙げた。


「あっ、そろそろかと思ったけど、出たの? クロード派」

「……クロード派?」

「旧体制側ね。 クロードって大司祭がいて、それが仕切ってるの」


 ああ、ツヴァイとは敵対してる教会の人間か。 クリスが簡単に説明をして、ツヴァイはそれを聞いて頷く。


「じゃあ、やめよっか」

「……は?」

「いや、この人気取りもそろそろ潮時かなって。 そりゃあ続けれるなら続けるけど、妨害されてこっちの評判落とされても困るしね。 それなら素直に『クロード大司祭に止められたのでやめます』って本当のことを言ってやめたらいいんだよ。 それなら、あっちの人気が落ちるだけだし」

「……それでいいのか?」

「普通に政治力で負けてるから、引かないとダメなのは仕方ないね。 資金はある程度集まったから、それを元手にやれることをやっていくよ。 総合ギルドも進めないとだしね」


 ちゃんと考えているならいいか。


「資金が集まったって、無償でやってただろ」

「無償で施しても、寄付してくれる人はいるよ」


 アロを一瞥してから、軽く頷く。


「ああ、ベルク=フラン。 予言の方の勇者に動きがあってね。 今度は古い遺跡に行くらしいよ。 とは言っても、数ヶ月後だけど」


 その言葉に目を開く。

 俺とニムの関係は話したことはないはずだ。 アロから漏れたのかとも思ったが、彼女は俺とずっと一緒にいる。


 ……まぁ、数は少ないとは言えど、知っている人は他にもいて、それに国は隠すかもしれないがニムは隠さずに話すだろう。

 組織力があれば、簡単に知れる程度の情報である。


 少しばかりツヴァイのことを舐めすぎていた。 ということだろう。


「……感謝はする」

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