騙る者ども10
常識で考えれば、アロと子を成すのは数年後……十歳と聞いているので……早くとも五、六年後だろうか。
いや、歳の割に身体が小さいことを思えば……もう少し後か。
村では俺やニムと同じぐらいの歳で、既に子を作っているやつもいたが……同じようにとはいかないだろう。 あいつ、女のくせにめちゃくちゃ体格よかったから別枠で考えよう。
俺より縦にも横にも大きかったぐらいだ。 まぁ……俺は体格が良い方でもないが。
実際、どの程度の体格なら問題ないのだろうか? クリスなら分かるだろうし、後で聞いてみるか。
「……そろそろ行くか」
「は、はい。 ……いつのまにか、話が凄いことになってる気がしますね」
「勇者二人相手にごちゃごちゃしてるからな。 まぁ、ニムの方は引きずり下ろすつもりだが」
「……ツヴァイさんの味方をするんですか?」
「当たり前だろ。 ニム自身は権力に興味がないし、魔物との戦闘をするに当たって代替するものがあれば国に所属する意味もないしな」
どれほど後になるかは分からないが……ツヴァイの口ぶりから推測するにかなりの急進派だ。 どれほどの政治力があるのかは分からないが、少なくとも傭兵ギルドにはある程度話を付けていることから、最低限以上の力はあるのだと思う。
割と都合がいい人物だ。
「……ベルクさんって、人の下につけるんです?」
「お前は俺をなんだと思ってるんだよ」
「いえ、人付き合いとか苦手そうだなぁって……」
「お前には言われたくない」
荷物を整えて、武器を手に取りやすいところに付ける。
アロの手を引いて外に出た。
まぁ、村の若者の中でも浮いていたし、対人関係……特に友人やらを作るのは苦手だ。 そもそも話が出来ないアロよりかは遥かにマシだが。
「まぁ、苦手でもやるさ。 お前とニムを守るためなら、なんでも」
「んぅ……すぐに僕を口説きます」
「大人しく口説かれておいてくれ。 回りくどい言い方は出来ない」
約束通り近くに移動して、揉め事があった場合にすぐ駆けつけられるような場所に陣取る。
ツヴァイの部下らしいクラスは忙しなさそうに色々なところを移動していて、途中で俺たちを見つけたのか、こちらに向かってきた。
「あっ、さっきぶりだね」
「ああ、忙しいのか?」
「いやー、私はフランくんと同じで警戒と、何かあった時用の余剰要員だからあんまりかな」
「余剰に配置しているのか、慎重だな」
「何があるかは分からないけど、何かはあるからね。 ほら、あそこの屋台とかも許可取ってないし。 ちょっと注意してくるね」
肉の串焼きの屋台を指差したクリスがそちらに向かおうとしたので、細い腕を掴んで止める。
「えっ、あっ、ど、どうしたの?」
「注意するなら、隣に男がいた方が舐められないだろ。 口出しはしないが、連れて行け」
手を掴んだだけなのにあたふたとしたクリスは普段の様子と違うように見える。 少し顔を赤らめたまま、俺とアロより二、三歩先を進んでいく。
「どうしたんだ?」
「……修道女さんですから、男の人と触れ合ったりしないんですよ。 みだりに触ったりしちゃダメです」
「服の上からだぞ?」
「ダメです。 正直、僕もちょっと苛立ってます」
独占欲が強い。
その屋台の前までいき、クリスが店主に許可を得ているか、許可証はあるか、と丁寧に尋ねていく。
チラチラと俺を見てくる店主を見つめ返す。 すぐに店主が折れて、屋台をたたみはじめる。
「いつもより、早い。 ありがとう」
クリスは不満げに口を開く。
「まぁ、分かってることだけど」
「……筋肉付けたら舐められないが」
「いや、私魔法使いだし……。 それに、教会の人が筋肉モリモリだったら嫌でしょ?」
「俺は気にしないが」
「僕はちょっと……嫌ではないけど、落ち着かないかもです」
適当な椅子に腰をかけて、周りに集まっている人を見る。 わざわざ許可のない屋台を出すほどには人が集まっていて、当然のことながら目当ては教会らしい。
昨日の事を聞きつけたのか、あるいはツヴァイが今日も行うと噂でも流したのかは分からないが、治癒の神法目当てなのか怪我人や病人らしき人が多く見える。
クリスはまた色々なところに行っているようで、忙しくないと言っていたわりには忙しそうである。
しばらく時間が経てば教会から光が漏れ出して、教会の敷地に入れなかった人もまとめて治癒の光を受ける。 跪いて祈りを捧げる人々をよそに……アロは少し複雑そうな表情だ。
彼女の身体を抱き寄せる。
「別にいいんじゃないか。 思惑があるにせよ、人を救っている」
「……はい。 そうですよね。 ……いいことです」
「まぁ気持ちは分からなくもないけどな。 アロは潔癖過ぎる。 人を助けることに、人を助けたい以上の思惑があるのは嫌か?」
「……はい」
アロの頭をゴシゴシと撫でると、彼女は恥ずかしそうにして逃げる。
「アロも俺に好かれたいから優しくするとかあるだろ。 俺もアロに好かれたいから優しくするし、惚れられたいから格好つけて人を助ける。 多少の下心はあるものだろ。 ……まぁ、アロは人に比べると少なそうだが」
何せ、行き倒れていた酔っ払いを飼い出すぐらいだ。 人よりもよほど優しく……その分、人の思惑が理解しにくいのだろう。
本当にどういう風に育ったらこういう子になるのだろうか。 理解出来ない。
それから何度か教会が光り、最後の光から少しして人が解散していく。
少しでもと寄付していく人は多いが、治癒の費用に比べると遥かに安いものだろう。
「……いいこと、だと思います。 みんな喜んでますから」
「安易でいいな」
「……馬鹿にしてます?」
「いや、お前が正しいと思う。 みんなが喜ぶこと以上にいいことなんてないだろ」
俺も喜ばせてほしい。 手を繋いでくれないだろうかと思ったか、やはり人前では恥ずかしいのか、手を伸ばしても引っ込められて拒否される。
「あっ、フランくん。 お疲れ様」
「何もしてないけどな」
「まぁ……幸いなことに何もなかったからね。 ……今更だけど本当に戦えるの?」
「世界最強だが」
「そういうのいいから」
「まぁ……そこいらの連中なら、何人かかってきても余裕だろうってぐらいだ」
クリスは怪しそうに俺を見る。
口だけでも信用ならないだろうし、腕を披露するような場所もないので仕方ないだろう。
「まぁ、腕に覚えはある。 ……ツヴァイの部下なんだろ。 多少は信じろ」
特に用もなくなったのでクリスと別れて家に戻り、シチを迎えに行ってから、倉庫に向かう。
特に何事も起こることがなかったので、そのまま家に帰って、シチとアロの二人で作った料理を食べる。
それからしばらくは、魔道具の開発と修行、それに教会の見張りをする日々が続いた。




