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騙る者ども9

 金髪の男、ツヴァイはアロから受け取ったお茶を飲み「美味しいね」と口にする。


「……何か策はあるのか?」

「いや、ないね。 敵である魔物のことも分かってないからね。 大目標としては人類を守ること、当面の目標としては……敵の把握と人員集めかなぁ」

「……総合ギルドの考案はお前か?」

「あ、クリスから聞いたんだ。 いや、僕は話を聞いて了承しただけだよ」


 一応、既に水面下では動き出しているのか。

 ……悪くはないか。 だが、成り上がるにはまだ足りない。


「アロ、あっちにいる俺の妻が、魔道具の研究をしてくれている。 非常に便利なものが多いが資金と人手が足りないことで、多少の行き詰まりがある」

「つまり、お金とか人材を寄越せってこと?」

「いや、名前を貸せ。 ある程度軌道に乗ればそれだけで十分いけるだろう」

「自由に動ける立場で、名前だけ寄越せ……か。 都合いいね」

「あと、神法の研究もしたい。色々と教えろ」

「無茶苦茶言うね」


 アロが近くに来たので椅子を引いて座らせる。


「そちらの話も聞く。 戦力を期待しているなら、人並み以上の働きぐらいはしてやる」

「じゃあ、しばらくお昼過ぎに教会の近くにいてもらってもいい? 昨日みたいな奇跡のお披露目を毎日するつもりなんだよね」

「……治癒費もなしにか? そんなのお前はよくとも、ほかの教会の奴は堪ったものではないだろう」

「うん。 でも、表立っては文句言えないでしょ? 治癒費の名目としては、治癒に必要だからって取ってるわけで、商売として儲からなくなるから止めろとは言えなくなるわけで」


 教会の近くにいろというのは、つまりは護衛をしろということか。


「表立ってはこないってことは、別に理由を付けるか、名前としては教会に所属していない人が襲ってくるか。 それで護衛か。 そこまでして無償で治癒をする意味はなんだ? まさか慈善活動とは言わないだろ」

「慈善活動だけど? まぁついでに邪魔な奴の資金源も断ちたいな、程度には思ってるよ」

「……全面対決になるだろう」

「そうだね。 流石に勝つことは出来ないかなぁ。 ほぼ全員を敵にするわけだしね」


 なら何故……と考えて、すぐに思い至る。


「……お前の受け皿としての総合ギルドか。 ……だが、聖職者が味方に付かないなら意味が欠けているだろう」

「聖職者じゃなくて神法を……治癒魔法が使えたらいいだけだからね」

「……は?」


 治癒魔法。 とこいつは今……口にしたのか。

 魔法と神法は別のものであるというのが当然の知識である。 神の力を入れて使った神法と人の力を使った魔法は別物であるはずで……。 聖職者の使う治癒魔法という言葉は、神法の否定である。


 頭を抱えたクリスを見て、それが真実であることを知る。


「治癒魔法って呼び方だとありがたみないでしょ? まぁいわゆる魔法とは違うところもあるから、同じものとも言えないけどね」

「……正気か?」

「当然。 むしろ、人類の窮地で自分の利権を守ろうとしている人の正気を疑いたいぐらいだよ」


 狂人だ。 ニムと同じように人類を守りたいと言っているが、ニムと違って人を良いものと思っていないように見えた。


「協力してもいいが、お前に巻き込まれて共倒れは出来ない。 所属はしない」

「まぁそれでもいいけど……結婚式はどうするの?」

「……挙げたいが、明らかに関係者であると吹聴していることになるからな。 自分で金を稼いでからにする」

「りょーかい。 仲良くやっていこうね、ベルク=フラン」


 爽やかな笑顔が不気味な奴だ。 不吉な雰囲気に顔をしかめれば、となりのクリスに頭を下げられる。


「ごめんね、フランくん。 こんな急に」

「……いや、そう悪い話でもなかった。 クリスも気をつけろよ」

「あー、うん。 ありがと」

「あっ、ベルク=フラン、今は人集めで忙しいから神法を教えるのはまた後でね」


 立ち上がった二人を見送って玄関まで向かう。 扉を開けたクリスと、その後ろに立っていたツヴァイを見て、短剣が腹にあることを確認してから口にする。


「……ツヴァイ=ベンダレード、お前は……本当に勇者なのか?」


 彼は振り返り、笑みを浮かべた。


「勇気はあるよ。 人類のためなら、人類を敵に回しても構わないと思ってる」


 曖昧な答えに顔を顰め、出ていった扉を閉める。 振り返ればアロがオロオロとしていて……少しばかり困ってしまう。

 目の前で教会の権力者に教会のいざこざを聞かされ、ましてや神の奇跡である神法の否定までされた。


 何て声をかけるべきか迷いながら頭をなでる。


「……あれだ。 アロ、信心のない聖職者もいる」

「……はい」


 リビングに戻ればアロがべたりと俺に張り付く。

 普段よりも甘えたがっていて、不安がっていることがよく分かってしまう。


 村で口が上手い奴がいたことを思い出す。 俺は……必要なことばかりしか話せない。

 気の利いた話も、落ち着くような言葉も出ない。


「ベルクさん。 ……良いことをしたら、良いことが返ってくるって習ってました。 悪いことをしたら、悪いことが返ってくるって」

「……そうか。 俺もそう聞いたことがあるな」

「……お母さんとお父さん、悪いこと、してないです」

「……無理をしすぎだ。 疲れているんだろう」


 アロは俺に張り付いたまま、首を横に振る。


「それも、僕が子供だからですか?」

「……お前が大切だからだ」

「……もういいです」


 アロはそう言うが離れようとはしない。 寄る辺がないから、俺を逃がさないようにしているのだろう。

 不快な思いもしているというのに。 それを吐き出すことも出来ないというのは歪で、彼女の負担となっている。


「……悪い。 ちゃんと話す」

「……無理にとは、言いません。 ワガママはいっぱい聞いてもらってます。 結婚してもらいました、式も考えてくれていて、一緒に寝てほしいとか、頭撫でてほしいとか」

「俺もアロを好いている。 ……だから、ワガママではない」


 何の話をすべきか、難しい。 どれだけ教会が本当のことを言っているのか分からない。

 こくりと頷いたアロと二人で隣り合う椅子に座り、見つめる。 不安げに揺れる黒い目を見て抱きしめたい衝動に駆られる。


「……まず、俺の認識があっているのは限らない。 今から否定するのは神の存在ではなく、子供騙しの教義だけだ」

「子供騙し……ですか?」

「……さっきの良いことをしたら自分にも返ってくるというやつだな。 そういうことはない。 神法も嘘らしいな。 治癒費も必要経費だけではなく取っているとの話だが、具体的な内訳は分からない。 ……あと、教会に行けば子供が授かるというのも嘘だ」

「……えっ、じゃあ、こ、子供作れないじゃないですか」


 焦ったようなアロは自分の腹を少し触り……昨日から頻繁にしていたその仕草に疑問を覚える。


「アロ……昨日、教会で「子供をください」と願ったのか?」

「えっ、あっ……いえ、勝手にそんなことは……! ……すみません、お祈りのときに……」

「……怒るに怒りにくいし、叱るのも難しいな」


 勝手なことをするなと怒るべきなのか、子供を産み育てることを軽く見るなと叱るべきなのか……。 そもそも子供らしい勘違いだったから不問にすべきなのか……。 いや、真剣にそうしようと考えていたのなら不問にしてはダメか。


 アロの考えが分からないうえに、下手に言えば酷く傷ついてしまいそうだ。


「……まず、それで子供は出来ない。 それにそういうことの相談はしろ。 色々危険だ」

「……はい。 ごめんなさい」


 控えめな少女だと思っていたが……思い返せば、ものすごく押しが強いような気がする。 細かい行動や仕草はお淑やかなのに……結婚の時といい……本当は気が強いのか?


 申し訳なさそうに俯いているアロを見て、すこし怯えてしまう。


「……なら、子供って、どうやったら出来るんですか?」

「……教えれば、ニムに嫌われそうだから言いたくない。 お前にも」

「何で嫌われるんですか? 多分ニムさんもですけど、僕がベルクさんを嫌いになることはないですよ?」

「とりあえず、勘弁してくれ。 ……ニムなら分かると思うから、ニムに聞いてくれ」

「……分かりました」


 アロは不満げに俺を見る。


「教会の奴が言うことが正しいかは、分からない。 正しいことを言っているやつがいて、多くの奴がそれが正しいのだと思うようになったら、中に入って利用しようとする奴も出る。

 どの程度の割合で間違っているのかは分からないが、どんな組織であろうと全て正しいということはない。 分かるな」

「……はい」

「アロが尊敬するのは間違っていないし、信じるのも決して悪いことではない。 ……それにツヴァイ=ベンダレードが言ってるのが真実とも限らないしな」


 溜息を吐き出す。 何とか誤魔化せただろうか。

 アロは俺を見て、小さく口を開く。


「僕、ベルクさんの子供がほしいです」

「……今は無理だ。 金銭やら余裕やらの話ではなくな」


 少し俺への依存が過ぎるように思える。

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