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魔王を殺す方法3

 少女の要望もあり、実験を行うことになった。

 俺が聞き齧りの知識から符術を再現した時と同じように色々と比較して性質を比べるものだ。


 少女の血液を使うことから、札一枚の量を容易は出来ないと思い、札の4分の1のサイズの、札と同じ素材のトレント紙を用意し、それに少女から採取した血を塗っていく。


 二人の間で齟齬が出ないように、あとは紋様を描くだけで使えるようになる無印の紅い札を紅札と呼ぶことに決まった。


 少女札と同量の4分の1サイズの紅札を二つ同じように机の上に並べ、16分の1サイズの紅札を大量に用意する。


 先ほどと同じように16分の1サイズの紅札から比較用の紅札に魔力が流れるようにし、1枚1枚魔力を移し切ってから爆発するまで魔力を流し続ける。


 7枚目の始めで紅札が爆ぜ、それをメモに取る。


 続いて同じように少女の血液で染めた札にも16分の1サイズの紅札から魔力を注ぎ続け、7枚目を注ぎ終えても爆ぜていないことを確認し、思わず柄にもなく喜んでしまう。


 8枚、9枚、と続きいていき、12枚目をほとんど注ぎ終えたところで少女札が爆ぜる。


「これは……思ったよりも差があるな」

「染めてないトレント紙も試した方がいいですね。 そこから引き算で血の効果が分かりやすいので」


 少女の言葉に頷き、染めていないトレント紙で試したところ5枚の終わりまでは耐えることが出来ていた。


「ブレードウルフの血は+2、僕の血は+7ですね」

「……いや、よく考えると、元々魔力が宿っている量が少ないという可能性があるから魔力を抜いてからするべきだったな」

「あっ、そうですね。 じゃあまた切って……」


 今度は一度紅札と少女札から魔力を全て抜き切ってから開始する。

 結果、紅札の16分の1サイズにある魔力を1として、トレント紙は7、紅札の方は11、少女札の方は18まで耐えることが出来た。


「トレント紙の最大魔力保有量は7で、元々は2持っていたってことですね」

「紅札は最大魔力保有量が11で自然状態なら4持っているのか。

お前のは最大魔力保有量が18で自然状態なら5か」


 計算すれば、少女札に最大まで魔力を込めておけば、普段の札の4.5倍の出力が出ることになる。

 まだ試していないが、これだけあれば攻撃魔法の使用にも耐えられそうな最大魔力保有量だ。


「……攻撃魔法も使えるな」

「中級の魔物を倒せますか?」

「それにはまだまだ足りないな。 低級の中位の相手に使える程度か」


 まだこれがあるから強い敵を倒せるというレベルには達していない大量に用意出来れば、俺の独力では勝てない低級の上位も倒せるかもしれないが。


「っと、今更だが、戦い方を教えるというのからはズレたか?」

「いえ……跳んだり跳ねたりするよりかは、こちらの方が繋がっている気がします」


 まぁ正攻法よりかは幾らか可能性はあるか。

 少女が納得したならばそれでも構わない。


 続いて俺の血でも試したところ、12と微妙な結果に終わった。


「……あ、熱中してしまいましたね」

「もう昼時か。 ……手持ちの紅札も尽きてきているな。 宿から持ってくるか」

「えっ、宿取ってたんですね」

「……酔っ払って倒れていただけで浮浪者ではないな」


 どちらがマシかは分からないが。

 少女からこの家の位置を聞き、宿からは結構離れていたので宿を引き払ってこの家に世話になることになった。


 異性というほどの年齢でもないので問題もないだろう。 どうせ金がないだろうから世話をすることになるだろうし、ついでに宿代も浮く。


 少女が部屋の片付けや料理、俺が住む部屋の用意をしている間に宿に行き、荷物を持って少女の家に戻る。


 手作りの美味くない飯を食べ終えたところで、また実験を再開する。


「……当面の目標は最大魔力保有量の増加でいいですか?」

「いや、俺もお前も金がないからな。 実験に使っている紅札の代用になるものを作りたい。

魔物を狩って稼ぐにもそれが必要だから、安く大量に手に入る代用品がほしい」

「……遠回りじゃないですか? 僕達が目指しているのは強力な魔道具ですよね。 たくさん作れるものではないです」

「金がないんだよ」

「強い魔物を倒せばお金も入るようになります。 せこせこ安いのを探すよりもそちらが効率いいです」

「倒せながらば丸損だろ」

「作らなければ丸損です」


 意外なところで少女と意見が食い違う。 どちらもリスクがあり、リターンもある。

 結局、当面の金銭が足りないことだけは一致していたので、近いうちに俺が近場の魔物を狩りに行くことだけが決まり、目指す方向性はその場時々の実験結果によるという雑な結論で終わった。


 俺がいない間にただ待っているのよりかは、少女も術式が書ける方が時間短縮になると思い、少女に【魔力移譲】の術式を教える。

 これで一人でも簡単な実験は出来るだろう。


 幾らか実験をし直したところ、やはり魔物の素材の方が多くの魔力を持つことと、同じ魔物でも部位によって最大魔力保有量に差があることが判明し、それについても少女と話し合う。


「よくいるブレードウルフだと、最大魔力保有量は血液が4、肉が6、骨が3……内臓が7、爪が10、毛皮が9、牙が16……。 かなりの差がありますね」


「最大魔力保有量じゃなくて、自然状態での魔力保有量は一括して2か。 どこによって多いとかはないな……。 これ、多分人間でも同じだよな」


「試してないから分からないですね。 牙が多いのは、剣のような牙で斬るって行動と影響してそうですね」

「魔法を使っていないように見えたが、使っているのか。 ……そういえばブレードウルフの牙は死んだらナマクラになると聞くな」


 「試してみますか」という少女の言葉に従って、街の外に魔物を狩りに行き、ブレードウルフの死体を背負って、彼女の家の庭で実験する。


 一対二本のブレードウルフの剣牙を片方はそのまま、もう片方は魔力を限界近くまで込めた状況にして、木を切る。 結果は明白で、明らかに魔力を込めた剣牙の方がよく切れる。

 魔力を込める量を細かく刻みながら行うと、多ければ多いほどよく切れることが判明した。


 鉄製のほぼ同一の短剣で試したところ、魔力の大小有無に関わらず一定であったことから、魔力が切れ味に影響を及ぼすというのはブレードウルフの剣牙独自の特性のようだ。

 ちなみにブレードウルフの剣牙以外の歯には、その特性は見られなかった。


 また、魔法と同じように、使えば使うほど魔力と切れ味が失われていくことも分かった。


 剣牙自体が魔道具のようなものだという結論に至り、試作品としてその剣牙を研ぎ、金属で補強して短剣を作ることになった。


 【ブレードウルフの短剣】と単純な名前を付け、普通の武器よりも軽く切れ味が良いことから、普段使いすることにする。


「……本来の目的からズレましたね」

「いや、魔物に対して有用なものではあるから、これはこれでありだろう。 攻撃魔法ではないが」


 魔王など夢のまた夢だが、もしかしたら、独力では倒すことの出来ない低級の上位ぐらいまでなら、倒せるようになるかもしれないと希望を感じ、ほんの少しだけ胸の痛みが取れたように感じた。


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