月の光は8
アロを彼女の友人の家にまで連れていくと、同じ年頃の少女が驚いたようにアロを見て、頰を触るなどして生きていることを確かめていた。
「す、すみません。 その、色々あって……」
「お家に行ってもいなかったから」
「ちょっと旅をしていて……」
「家族旅行? あと、その男の人は……」
「どちらかと言うと新婚旅行です」
新婚? と首を傾げているアロの友人から目を逸らして背を向ける。
「昼には迎えに来る」
「あ、は、はい。 その、気をつけてくださいね。 無理はしないように、です」
「分かっている。 遅れたとしても、一人ではどこにも行かずに待っていろよ。 ……ああ、親にも挨拶をしておいた方がいいか」
「遅れますよ?」
「無礼だろ。 子供だけ置いていくのは」
まぁ村では気にされることではなかったが、しておいた方がいいだろう。
「でも、気まずくないですか? 関係を聞かれて……答えられないですし……」
「答えればいい。 お前が前のようにこの子と仲良くするなら、誤魔化して隠せるようなことでもないだろう」
アロは目をパチパチと動かして俺を見つめる。
「お前が嫌なら、挨拶だけしてすぐに行くが」
「……その、いいんですか? 僕は、その……隠すより、嬉しいですけど」
そうやり取りをしているうちに、奥からやってきた女性がアロを見て目を丸くしていた。
「アロクルちゃん!? えっ、生きて……お父さんとお母さんは……っ!?」
「あ、お、おばさん、お久しぶり、です。 その、生きてました。
ご挨拶に来れなくて、すみません、少しゴタゴタしていて。 父母は……魔物に襲われて、僕を庇って、殺されました」
「あ……うん、ごめんなさい。 その……」
「い、いえ、もう何ヶ月も前のことですから。 大丈夫です。 えと、時間も経って色々と落ち着いたので、挨拶と、その以前みたいにシャルナちゃんとお話をしたいと思って」
女性は頷いてアロの頭を撫でる。
頭を撫でながら俺の方に目を向け、俺は女性を見て名乗った。
「ベルク=フランだ。 訳あってアロクルと会い、彼女と婚姻を結ぶ運びになった。 ほとんど保護者のようなものなので、そのように接してもらえると助かる。
朝早くから来て申し訳ない、また後日にゆっくりと挨拶をさせていただく」
「えっ、婚姻、えっ、あっ……はい……?」
俺に手を振るアロを見ながら歩き、角を曲がって見えなくなったところで視線を戻して傭兵ギルドへと向かう。
心臓が嫌にバクバクと鳴り、気持ちの悪い息を吐き出す。 おおよそ、妙に思われているだろう。
もしかするとアロに「あの男は小児性愛の変態だからやめておけ」と今頃言っているかもしれない。
そうでなくともやんわりと離れるように諭している可能性は高く、思った以上にアロに依存しているらしくこれのせいで振られたら、と気が気でなくなる。
アロなら大丈夫だと思っても、もしもを考えて酷く気落ちしてしまうのは変わらない。
傭兵ギルドの戸を開けると、昨日と同じ受け付けがおり、同じ部屋に通される。
応接室のような部屋には二人の男女が座っており、一人は見るからに鍛えられ絞られた身体をした軽装の武装をした男が、もう一人は昨日見たパンツの女だった。
「ベルク=フランか。 ……お前らを世話する役を任されたゴーシュ=マインだ」
「……お前ら?」
「ああ、そこの娘も教会と魔術ギルドからの推薦状を持ってきた。 別々に対応するのも面倒で人手も不足しているので、同時に行う」
俺を睨んでいる少女から目を逸らしてゴーシュに目を向ける。
「この仕事、一人でやっても構わないだろう。 ただの殺人鬼相手に遅れを取ることはない。 が、女を庇いながらは面倒だ」
「っ! 私も一人で充分です。 こんな変態と一緒に行動する必要は──」
「知り合いか? まぁ何でもいいが、こちらも仕事だ。 腕に覚えがあるのなら、相手を守りながらやれ。 護衛の仕事は非常に多い。 その練習だとでも思え」
ゴーシュの言葉に眉をひそめるが、彼の言う言葉にも一理ある。 傭兵ギルドを踏み台としか思っていないので、そのような目立たない仕事をやるつもりはないが、頷いている方がいいだろう。
仕方なく、不満げに俺を睨む少女に名乗る。
「ベルク=フランだ。 しばらくの付き合いになるが、よろしく頼む」
「あんなことを言っておいて、よくよろしくと言えるなっ!」
「あんなこと?」
「庇いながらって! 嘗めたことを!」
ゴーシュはため息を吐き出して俺たちを見る。 うるさい少女を無視して彼に尋ねる。
「だが、現実問題として毎回集まって調査ともいかないだろう。 少なくとも数日はかかる。 その間にずっと行動を共にするわけにもいかない。俺にも他に用事がある」
「それはそうだな。 まぁ、可能な限りで構わない。 基本的にはこれぐらいの時刻に毎朝集まるようにし、用事があればそちらを優先して構わないが、やるべきことをしなければ成果にはならない」
その言葉に納得をして頷く。 これで問題なくアロの向かいに行ける。 むしろ今から行ってもいいだろうか。
「なら私は好きにさせてもらうからっ!」
そう言って出て行こうとした少女を引き止める。
「何、まだ何か用なの?」
「名前はなんだ。 それと、出来ることは」
「クリス。 聞いたら分かったでしょうけど、魔法と神法を使える。 だから何? 今更協力しようって言うの?」
馬鹿にしたようにクリスは言うが、そもそも彼女はほとんどの情報を持っていないだろう。
「どうやって調査をするつもりだ」
「どうやってって、あなたには関係ないじゃないか。 普通に聞き込みをして──」
「お前が馬鹿なのは分かった。 足を引っ張る前に話を聞け」
「──誰が馬鹿だよ!」
大声をあげるクリスの横を通り、出ていかないように扉を背にして彼女の目を見る。
「お前は殺人をしたことがあるか?」
「ないに決まってるだろ!」
「そりゃそうだな。 ……お前が殺人鬼で逃げているとする。 都の門には門番がいるから、協力者なしに外に出るのは非常に困難だ」
「何の話をしてる……っ!」
「そのお前はこの近辺のことはある程度詳しいだろう。 連続殺人をして逃げられる程度だからな。
結構な時間を殺人を犯しながら逃げていることを思えば、昼間からある程度目立たないで行動しているだろうな。 少なくとも外食か買い物はしていなければ食うことも出来ない」
「だから何を言って──」
「殺人鬼が横にいて、殺人鬼について尋ねまわるつもりか? 調査を逆手に取られるか、最悪こちらを狙ってくる可能性もある。 寝込みを襲われれば、不覚を取ることもあるだろうな」
クリスは黙りこくり、俺の顔を見つめて不快そうに眉をひそめる。
頭に血が上っていたのが収まったのか、苛立った様子は変わらないながら、彼女はぽすんと椅子に座る。 勢いよく座るつもりだったのだろうが、少しばかり小柄だったせいで迫力に欠けていた。
「そうなの? ゴーシュ」
「まぁ、あり得ない話じゃないな。 そこまでにならなくとも、手当たり次第に聞き込みをしていれば、嗅ぎ回っていると気が付かれるのは間違いない」
「どうすればいいのか」
「一般的には状況などの証拠から犯人の特徴をあげていき、当てはまる人を減らして犯人を特定して、犯行時に取り押さえるのが楽だ。
もしも否認した場合にも、証拠になるものが多くなるからな」
「……犯人が複数人いたら?」
「模倣犯などの可能性もあるが、それこそ聞き込みのみで調査をするのよりかは犯人が見つけやすい」
クリスは俺に目を向けて、不快そうに手を伸ばす。
「協力、しよう」
「協力はするが、握手はしないでおく」
俺の態度にクリスは怒るが、それも仕方ない。 女と手を繋げば、アロが悲しみそうである。




