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浮気裁判2

 

 気まずい空気が流れる。 ニムがこちらを見ているが、何も言わない。 いつも元気だった彼女だが、酷く静かである。

 片付けをし終わったらしい彼女は椅子を動かして俺たちの向かいにした後、俺ごと椅子を持ち上げて、机の横のところに置く。


 アロとニムが向かい合って、俺が横で見る形だが……むしろ二人ともこちらを向いていて二人に責められているように感じる。


「……えっと、一応自己紹介から始めましょうか。 僕もニムさんも、結局お互いのことが分かっていませんから」


 一番幼いアロがそう口にして、許可を取るように俺とニムを見る。 とりあえず頷くと、アロが珍しく緊張したように唇を震わせた。


「……アロクル=オートダイ……ではなくフランです。 都の方に住んでいました」

「フランじゃないよね。 ベルくんが結婚するって決めてないから」

「……約束してました」

「私の方が先にしてたよ。

 ニムシャ=ブレイブードだよ。 ベルくんとは幼馴染で、同じレゲンヅって村に住んでたの。 生まれた時からずっと一緒だったよね」

「……まぁな」

 

 アロがむっとした表情でニムを見て、顔を顰める。


「ベルクさんは僕のです」

「ベルくんはベルくんのものだよ。 他の人がどうにかするものじゃないよ」

「……僕のです」


 アロは顔を伏せながら言い。 ニムは気まずそうに目を逸らす。

 嫌な雰囲気と、アロが辛そうにしていることが気になってしまっていると、ニムがトントンと俺の手をつつく。


「えっと……離れてから何があったのか教えてくれる?」

「……ああ、そうだな。 お前と離れて数日してからアロと出会って……」

「……ニムさんが勝手に失踪して、悲しかったから、忘れるためにお酒を呑んだくれていました。 行き倒れていて、死んでしまいそうだっだので拾いました」

「おい、アロ……」

「カッコつけて変に隠さないでくださいよ。 まったくもう」

「まぁベルくんはかっこつけしいだよね。 ……ごめんね」


 構わない。 と、思ってもいないことを口にする。

 申し訳なさそうなニムを見て、またアロが落ち込んだような顔をする。


「……理由、まだ聞いてませんから。 今言う必要も、僕に言う必要もないですけど、ベルクさんには説明して、それで納得するかどうかです」

「……うん、ちゃんと言わないとね」


 ニムは頷く。 間借りしている家だが慣れたものだと思っていたが、一人、別の人間がいれば違った景色に見える。

 あるいは、気まずさ故かもしれない。


「それで、そのあと、ベルクさんは…………言いたくないので、ベルクさんが言ってください」

「……異界の森の存在を聞いてここにきた」

「それじゃ意味が分からないです。 ……もういいです。 ニムさんがここに来ることを知ったから、その前に解決をすることでニムさんが戦わなくて済むようにしようとして、ここにきました。

 ……ニムさんを守るために、きました」


 アロは嫌そうにそう言い、不貞腐れて顔を逸らす。

 自分で言うにはあまりにも羞恥が過ぎていたが……アロに言わせるべきではなかっただろう。


「……そうなの? ベルくん」

「否定はしない。 ……恩を着せるためにしたことじゃないから気にしてくれるな」

「えへへ、ごめんね。 とっても悪いんだけど、ちょっと嬉しい」

「……本当にな。 もうどこにも行くなよ」


 頷いたニムの頭を撫でて、頭の上に乗せていた手を両手で握られる。


「えへへ、大好きだよ」

「……ああ」


 恥ずかしそうに笑うニムから手を離そうとするが、握られた手を離してもらえなかったので、そのまま撫でるのを続行する。


 ニムはニマニマと笑みを浮かべながら、自分にあったことを話す。


「ベルくんと別れてあの竜を倒した後ね、その被害に遭ったところの手伝いをしてたら、見つかっちゃって、そのまま仕方なく付いて行ったの。

 それで、人のためになるからって色々、勇者としての訓練? みたいなのを受けさせられて……それで、ベルくんの捜索も頼んでたんだけど、この前やっと見つかったって話を聞いて走ってきたの」


 予想通りか。 まぁ、ニムから俺は情報が入りにくいだろうが、ニムの情報なら、多少は勝手に入ってくる。

 色々と話を聞きたいが……そこまでは今話すことでもないだろう。 ニムの手を掴み返して、軽く引き寄せた。


「……そうか。 まぁ、いい。 ……このまま逃げよう。 お前が戦う必要はない」


 俺の言葉にニムの笑顔は曇り、小さく首を横に振る。


「……それは、ダメだよ。 戦えるわたしが戦わないと、また……被害が出ちゃうもん」


 構わない。 だから、と強引に言うことは出来なかった。

 すぐ隣にいるアロは……守られなかったために父母を失った子だ。 それと同じ人を出してもいいと、彼女の前では言えるはずもない。


「でも、ベルくんが一緒にいてくれたらいいと思うの! 私の大切な人だから、他の人も無碍にしないと思うしさ」


 誤魔化すようにそう言うニムを見る。 ニムを一人にするぐらいならそれでもいいと思ったが、そう楽観視も出来ない。


「……お前の受けた勇者の訓練というのは、戦闘か? それとも貴人がするような振る舞いか」

「両方だけど……」

「なら、無理だろう。 ただの戦の駒にするなら、そんなものは必要ない。 政略婚をさせるつもりだろうな。

 だったら、俺はそいつら全員を敵に回すことになる」

「……そうなの?」

「間違いなくな。 ……俺一人ならなんとかなるかもしれないが、アロもいる。 アロを巻き込んで殺すようなものだ」


 不貞腐れていたアロは表情を変えずにこちらに顔を向けた。


「ベルクさんが行くなら、僕も行きますよ。 毒殺ぐらいなら諦めます」

「馬鹿を言うな」


 ニムは俺とアロを見て、むっと眉を顰めたあと、困ったように唸る。


「えっと……アロちゃんがお家に帰るのは……」

「孤児だ。 一人なら死ぬ」

「……孤児院とかは」

「散々、あの兵達に俺とアロが共にいるところを見られている。 俺がお前と行くことになれば、人質に取られる可能性が高い」

「人質って……そんな」

「有無を言わさずにお前を攫おうとしただろう。 そして政略婚の準備をしている。 まともな良心に期待出来る手合いではない」


 ニムが目の前にいる少女に「死んでくれ」などと言えるはずもない。

 ニムと一緒に行くと……アロを見捨てることになる。 反対にアロといれば、今までと変わらない、離れ離れで守必要がある。 ……それに加えてニムが他の奴に奪われる懸念まであった。


 言ってしまえば、どちらかを……選ばなければならなかった。


「……僕、邪魔なら死んでもいいです。 ベルクさんが幸せなら満足……とは言えませんが、我慢出来ます」

「馬鹿なことを言っているな。 却下だ、黙ってろ」


 ……答えなど出るはずもなく、ただ無言の時間が流れる。


 嫌な空気、口の中が異様に乾く。 吸血鬼としての生態、多少日時が経っているが、慣れない感覚だ。


「……ベルくん」

「馬鹿なことは言うなよ」

「その、今更というか……ずっと気になってたんだけど……」

「なんだ」


 ニムは一度ぱくりと口だけ動かしたあと、意を決したように続ける。


「その、私のこと、好きだよね?」

「……馬鹿なことを聞くな」

「大切なことだから、答えて」

「……当然だ」


 俺がそう言うと少し嬉しそうに笑ったあと、アロを見て、ニムは言った。


「その……アロちゃんと結婚って言うのは……その、どういうことなの? だいぶ、年下だし、子供だし……ベルくんに片想いした女の子が駄々こねているだけかと思うんだけどね? 一応。

 結婚とかの約束も、その、子供がするみたいな感じかなって」


 バツの悪さにニムから目を逸らす。


「……ベルくん?」

「……アロのことも好いている」

「……一応聞くけど、それは子供が可愛いとか、妹とか娘みたいなだよね? 女の子としてではなくて」

「いや……それは、違う」

「えっと、分かりにくかったよね。 女の子としてではなくというのは、一般的な恋人に抱くみたいなのではなくって意味だからね」

「情欲のことを言っているのであれば……アロに情欲を感じている」


 ニムは目をパチパチと動かして、表情を怒ったようなものに変えたり悲しむように変えたり、色々と変えて、なんとも言いにくい色々な感情の混ぜた目で俺とアロを見る。

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