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懇願8

 

 非常に強い陽光だが、実際のところ()()としては欠陥があった。

 あまりに上位の捕食者すぎるために、飢えやすすぎる。


「海って場所にクジラという巨大な生物がいるんだけどね。 あまりに大きいからさ、他の魚を追い回して食べると反対に追い回す方が必要なエネルギーが大きくて、むしろ小魚とか、それよりもっと小さい生き物を狙ったりするんだよね。 ほら、そういうのって集まってるから一網打尽に出来るし、大きいのよりたくさんいるからね」

「強い方が飢えやすいか」

「そういうこと、上手いことバランスが取れているものだよ。 弱ければ食われるし、強ければ飢える。 あるいは反対かもね、お腹が減るっていうのは、弱さだからね」


 どうにも……絶望的な状況に変わりはない。脚を動かして寝ている状況から座り直し、陽光を見る。


「……どうやったら生き残れる」

「君は弱いから問題ないよ。 普通に物を食べてちょっとの血を飲めばいいだけ」

「……何故、人の血が必要なんだ?」

「元が人間だから……と言っても納得出来ないよね。

 何というか、吸血鬼は人間なんだよね。 身体的には」


 陽光は俺の口元に指を這わせて、付いていた血液を拭って布で拭く。


「魔法の一種に掛かってるみたいな? 魔力による恒常的な回復魔法がかけられた不死身の兵みたいなものなの」

「不死身って……日に当たっただけで朽ちるのにか?」

「君も試してたけど、他の物の魔力は身体に毒だからね。 ……日の光は魔力を減退させる」

「……日の光が?」

「というか、そういう魔法が太陽に掛けられているって感じかな。 だから、魔力が地下に集まっちゃうんだよ」


 似たような話を前に聞いたことを思い出す。 レイが似たようなことを言っていたんだったか。

 確か、大昔に……魔族と魔物が地下に追いやられたのだったか?


「つまり、【吸血鬼】という魔法がちゃんと働いていないと即死するわけなんだよ、私達は」

「迷惑な……」

「それでね、問題なのはその【吸血鬼】が働かない理由が主には二つ。 一つはさっきに言った『太陽光を浴びる』もう一つが──」

「魔力の補充がなくなる、か」

「そうそう。 まぁ太陽光の方はどうにでもなるんだけとね。 減退するといっても、当たる部分だけだし、魔力が多ければ問題ないぐらい。 余計に魔力は使うけど」


 それがお前にとって致命的なのだろうとは言えない。

 本題の人の血液が必要というところで、陽光は瓶に入った血液を小さな杯に注いで飲む。


「私達は人だけど、魔法に魔力が取られているわけなんだよ。 言ってしまうと、食べ物から得れた魔力が吸血鬼という魔法に使われているから、本来なら考えるまでもなく持っている、人としての生命を保つのに必要最低限の魔力がない。そっちの方が足りていないわけなの」

「消化吸収したら吸血鬼の方に回されるんじゃないのか?」

「ほとんどはね。 でも、同種だと魔力の性質が近いからそれを飛ばして同化する分も少し出るの」


 なるほど、と頷く。 人としての魔力と、とりあえず何でもいいから魔力の2種類が必要というわけか。


「……それって、吸収しやすさに個人差があるのか?」

「ん、そうだね。 ある程度似たり寄ったりだけど、一切吸収出来ないのとか、反対に極少量でも元気一杯になれるのとかいるね。 魔力の性質の近さだろうね」


 ……アロの場合俺の魔力に似ていたのか。 食生活が同様だったからだろうか。


「ちなみに同族でも多少は飲めるよ。 人としての魔力の量が人よりも極端に少ないからほとんど意味ないけど」

「……そうか。 俺を吸血鬼にさせたのは魔法か?」

「そうだね。 魔法を移すみたいな。 具体的には教えられないけど」


 まぁ、説明はつく。嘘をついているようには見えない。

 しかし、信用してもいいものかは迷う。


「敵の魔族は?」

「さあ、何人いるかも分からないね。 正直な話、君の思ってる通りに手詰まり、最悪、トレントを全部へし折るつもりなんだけどね」

「それで勝てるのか?」

「どうだろ。 私は強いけど、私以上なんて珍しくもないからね。 確実にするためにこうしただけの可能性もあるし、こうしないと勝てないからの可能性もある」


 何にせよ、時間はないか。俺を吸血鬼にした陽光に対する恨みも当然あるが、それを咎めても死に近づくだけだ。

 理性で考えれば……このまま放置してニムが両方ともと戦うのよりも、最悪こいつの味方をして一緒に負けた方が都合がいい。


 だが、逃げたい。 今すぐ逃げ出して、アロの元に帰って抱きしめたい。

 そんな気持ちを誤魔化すように、近くにあった剣を手に取って握り締める。


「……ベルク=フランだ。 狩人をしていた」

「モモだよ。 苗字はないね、出来る前だったし」

「出来る前?」

「家名って割と最近出来たものだからね」

「……何歳だよお前。 一応元々人間なんだよな」

「ん? あ、私はそうだけど、吸血鬼が全員ってわけじゃないよ。 母親の方が吸血鬼なら、魔法が移って生まれつきの吸血鬼になるの」


 見た目だと2、3上程度に見えるが……言葉を信じるならとんでもなく歳上だ。 言動も、老成しているようには感じられない。


「疑ってる?」

「当然な。 信用出来るはずがない」

「まぁ、信じるって言ってたら逆にこっちが疑うけどね。 レイがやられたのも君がしたことかもしれないし。 それとか」

「……褒められた行いではないことはわかっている」

「まぁ、どうでもいいけどね」

「仲間だろう」

「君は人が死ぬたびに泣く?」

「……当たり前だろ。 優先はあれど、目の前で見れば辛くはなる」


 何を言っているのだろうか。 年齢的なものか、あるいは人間から離れすぎているのか。 理解出来ない存在だ。

 俺の返答に驚いたように、モモは俺の目を見る。


「……君、ちょっと異様だよ? あれだね、いや、レイから簡単に仲間になれたって報告を聞いてたからおかしいな、とは思ってたんだけどさ。

 殺し合った私に助けを求めたり……なんて言うべきかな、クールに見えて博愛主義者? 現実見えてる理想主義……」

「妙な言い方をするな。 普通の人間だ」

「まぁ、長らく人間に会ってないからそれが本当かもしれないけどね。 なんて言うかな、歪に見えるんだよね」


 彼女の言葉に苛立ちを覚えていると、彼女は面白そうに笑う。


「……昔見たよ、君みたいな頭のネジが外れたやつ」

「どうでもいい。 博愛主義でもなんでもない、敵は殺す」

「それって、敵じゃなかったら殺さないってことでしょ。 それで、これからどうする?」


 これからという言葉に頭を悩ませる。 ニムと敵対しないのであれば、モモと敵対はする必要がない。 同時に味方になる必要もないが。

 明確な敵は別な魔族だが、モモの口車に乗って倒すのも馬鹿らしいが……話が通じる相手とも思えない。


 相手にとって重要な土地だからと、こんな場所で籠城しても飢え死ぬ。

 敵がはっきりしていればいいが、見えない魔族なのか、モモなのか、その両方なのかが判別出来ない。


「……吸血鬼は人の敵だ」

「そうかな? わたしは味方だと思うけどね」

「利害が一致しているから協力が出来るだけで、本質的には敵対する方が自然だ。 人間にとって、不要な存在だ」

「……自分もそうなってるって分かってる?」

「当然だ。 だから、協力は一時的なものだ。 アロなどの他の人とも関係ないことだ」

「命救ってもらっておいて?」

「死地で飢えながら、何人いるかも分からない自分よりも遥かに強大な相手と戦闘を行い討ち亡ぼす必要がある状況。 それを「命を救う」と呼ぶのは初めて知ったな」

「あはは、確かに、結局死ぬじゃん、君」


 礼を尽くす必要はないだろう。 死は変わらない、変わったのは俺の目的が果たせる可能性が生まれたのと、モモの目的が果たせる可能性が生まれたこと。 つまりは俺を救うことの利害は一致していた。


 話はまとまった。 飢え死にをまたばかりのモモは役に立たないだろうから、結局は単独の行動だ。


「死んでくる」

「私はここに引きこもっているから、やばいのはここに引きずってきてね」



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