魔道具制作2
目を覚ますと既に夕頃にまでなっていて、こんな場所だというのに随分と熟睡してしまったらしい。
一日の丸半分も寝て過ごしてしまっていたのか、固まった身体を解そうと起こすと、腕の中で少女が眠っていて動くことが出来なかった。
「お、起きたの?」
「……悪いな、寝すぎた」
「いやいーよー、お礼ならアロちゃんに言いなよね」
俺の腕を枕にしているので、代わりに鞄を頭の下に差し込んで起こさないように腕を引き抜く。
「疲れは取れたの?」
「多少はな。 ……ところで、同族はいないのか?」
「あっ、聞くんだ。 興味ないのかと思ってた」
「話したくないことがあるから人に聞かないようにしていた。 アロの前では特にな」
レイは少し首を傾げながら俺に尋ねる。
「アロちゃん何かあるの?」
「知らない。 聞かないようにしているからな」
「なんで?」
「深入りしたくない、あくまで他人だからな」
「大好きなのに?」
「それはお前の勘違いだ。 それで、話せないようなことなのか?」
金の髪が風で揺らされ赤い夕暮れに照らされる。 彼女はそれを不愉快そうに抑えて、不自然に焦げた毛先を弄る。
「んー、そだね。 同族って結構少ないんだよね。
ベルクくんなら分かるだろうけど捕食者の方が数が少ないものだから」
「動物の血を吸えば人と同様に生きれるのではないのか?」
「んー、なんていうか、人間で例えるとさ、お腹空いたのを水飲んで誤魔化すみたいな感じかなぁ」
「……人の血は必須か」
「そうだね、ないと生きられない。 だから基本同族はバレないようにちょっとずつ人間社会に溶け込んで……」
「レイのように見つかれば逃げるのか」
「そこは仕方ないよね。 まぁ、保存してたのも飲みきっちゃったからそろそろ出ないとダメだと思ってたから助かったよ」
果たしてレイは俺たちの事を対等に見ているのか、あるいは食料として見ているのか……分からない。
「……裏切って密告した同族がいてね」
「復讐をするのか?」
「いや、会ってなんでそんな事をしたのかって聞きたいの。 というか、人間はいちいち物騒だよね」
「お前らと違って幾ら殺しても出てくるからな。 命の価値は低いだろうな」
「えぇ……」
「多く産む生き物は多く死ぬのを前提にしているだろ。お前らよりも俺たちの方が多いのだから、お前らより命が安いのは当然だろう」
俺の言葉を聞いたレイはあからさまに顔を顰め、嫌がるような様子を見せる。
まぁ考え方が違うのは当然で、それ以上なにかを言う必要もないだろう。
眠気覚ましに鎧狼の毛皮を鞣す作業を行い、何もすることがなくなり時間を持て余す。 怪我をしているのに身体を無闇に動かすこともないと考えて、座ったまま身体の魔力を操作する。
「そういえばさ、ベルクくんって魔力視るの得意なの? 私のに反応してたけど」
「いや……人並み程度のはずだが、あの時は感じたが何だろうな。
……いや、あの時だけでもないな。 強い何かに相対すると圧迫感のような感覚がする」
臆病ゆえの生存本能か何かか、あるいは経験が積み重なって強さの理解が感覚的なものとして備わってきたのか、どちらにせよ現時点では判別が難しそうだ。
しばらく練習をして魔力を呼気に多めに混ぜることや出来る限り減らすことが出来ることに気がつき、それを維持する練習もしておく。
起きたアロの頭を撫でていると、アロは自分の腕をすんすんと嗅ぎ、恥ずかしそうに身体を離す。
「……あの、身体を拭きたいのですけど」
「ああ、布なら鞄にあるから、自分で水を出して拭けばいい」
「いえ、それは分かっているんですけど、その……」
「石鹸とかはないな」
「それも分かっているんですけど……」
「ベルクくん、恥ずかしいから見ないで違うところに行けって意味だよ」
アロは小さくこくりと頷く。
身体を拭くだけなら服の中に手を突っ込めばいいのだから裸になる必要もないし、恥ずかしがる理由もないだろう。
そう伝えるとアロが顔を赤くしたまま首を横に振ったので、仕方なく木の反対側に移動して木を背にして座り込む。
小さな水音や衣擦れの音を聞きながら、自分も臭うのだろうかと確かめる。 臭いが強ければ獣に発見されやすくなるので多少は俺も気にした方がいいかもしれない。
火はこちらの方にないし、夜で風もあるので座っていれば少し寒い。
「アロ、そろそろいいか?」
「ま、待ってください」
またしばらく待つ。 子供の身体になんて興味ないのだが……。
アロからもどる許可が降りて、木の裏に戻る。 少しだけ身綺麗になったアロを見て、俺も身体を拭きたいから布を貸してくれと頼むと、アロの色白の顔が真っ赤になる。
「えっ、い、嫌ですよ。 僕が拭いたばっかりなんで汚いですよ!」
「臭いを落とせたらいいだけだから汚れていても構わないが」
アロが閉まっていた布を取ろうすると、彼女が急いで鞄からそれを取って逃げるように隠す。
「ベルクくんってデリカシーないって言われない?」
レイに呆れたように言われ、とりあえずは諦めることにする。
「故郷の村では気が利かないとは、年頃の娘達にはよく言われたな」
「だろうね」
「ん、ベルクさんって……そういうお知り合いいたんですね……」
「そりゃいるだろ。 仙人でもないんだぞ」
「…………仲良かったんですか?」
「いや、そいつらとはそんなに仲良くもないな。農村だから都市部のところとは感覚が違うかもしれないが」
アロは少し嬉しそうにして、俺の腕を触る。
「ん、でも……ベルクさんって落ち着いていて人気ありそうですよね」
「いや、村の若者の集まりにはあまり参加していなかったからな。 全体の集まりなら仕方なく行っていたが」
「んー、そういうのってハブられない?」
「畜産はほとんどしてなくて、狩りは俺か父頼りのところが大きかったからな。 人よりも働いていて分け与えていれば文句は言われない」
「やっぱり人気ありそうです……」
「大丈夫だよアロちゃん、気づいてなければ好かれてないのも同じだから」
俺が人と関わりがあったら何か不都合でもあるのか。
そんなに嫌われる覚えもないのだが。
「でも、故郷に良い人とかいなかったの?」
レイが何気なく発した言葉に、思わず表情が強張ってしまう。 ニムの笑みと決意した表情、去っていく背中と繰り返して頭の中に浮かんでくる。
不意にアロの手が思い切り俺を腕を引っ張り、現実に戻る。
「……拠点の整備を進めるか」
「はい。 ……そうしましょうか」
何故かアロも釣られて落ち込んだ様子をしていて、誤魔化すように彼女の頭を撫でる。
「多分、お前が考えているよりかはマシなことだ」
「……はい」
ただニムに振られただけのことだ。
木を切って来ようとしたところ、遠くに近寄って影が見えて、立ち止まりそれを観察する。 魔物ではない、動物にしては大きく数が多い、そう思っているとすぐにその正体が分かる。
「馬車と騎兵? こんなところに」
「げっ、人間!? やば、どうしよう!?」
「牙隠せば問題ないだろ、夜だしな」
それにしても何故こんなところに、誰が来たのだろうと目を細める。 その馬に乗った者の格好はどう見ても兵士や騎士ばかりで、何処かその姿に見覚えがあり、つい2ヶ月ほど前に見た紋様が目に入った。
「……ッ国の紋様だと!? 早すぎるだろ!」
「……実際に魔物を山狩りする前に、偵察するためにきたのだと思います」
「くそ、面倒だな」
こちらがこんなところに人が来ないと思っていたように騎士や兵士もそう思っているだろう。
法を犯しているわけではないが、妙な疑いをかけられることは当然で、少し面倒だ。
今逃げれば追ってくることは確実で、仕方なくその場で荷物を多少片付けてから、その隊に会うことに決める。




