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魔道具制作

 血のついた布をレイがしゃぶっているのを見て若干の浅ましさを感じながら、アロが左腕に包帯を巻くのを見る。


 遅れてぐすぐすと泣き出した彼女を見て、仕方なく頭を撫でて慰めようとするが、言葉が思いつかずに頭をごしごしと撫でるだけになる。

 何か良い言葉はないかと考え続けていると、アロの白い顔が赤くなっていることに気がつく。


「……あの、撫ですぎです」

「……ん? ああ」

「すみません。 脚を引っ張って」

「いや、そもそもの役割として守る必要があるのは分かっていた。 お前はお前の役割が……いや違うな」


 そういうことが言いたいわけではなく、伝えたいことはまた別のことだ。 少し息を吸い、彼女の赤い目を見つめる。


「俺は、俺とアロが共同で生きているものだと考えている。 二人の共通する最大目的を果たすことが出来るのなら、片方が欠けても構わないと思っていて、だから俺が怪我をする方が被害が少ないならそうするだけだ」

「でも……」

「気にするな。 お前のためにやったことではない」

「でも、ベルクさん……僕と離れようとしていましたよね?」


 目を見られ返して、思わず目を逸らす。 アロに何度か頰を突かれるが無視をして、先程殺した狼の方に移動する。


 鎧のような鱗を持った狼型の魔物。 見たこともない魔物だが、おそらくは中級の低位ぐらいの魔物だろう。


「あのー、ベルクさん?」

「解体するから話しかけるな」

「誤魔化し方が下手すぎます。 えへへー」

「笑うな、不快だ」

「ツンデレベルクさん」


 ……苛立ちを覚えながら狼をバラす。 何となく相対していた時よりも斬りやすく、動いていないからだけではないように感じる。

 ブレードウルフの牙の斬れ味も落ちていたので、戦闘中は魔物も魔力を操って一部に集中させて、攻撃力や防御力を高めているのだろう。


「……今まで気がつかなかったな」


 これは使えると思いながら簡単な解体を終え、使えそうな皮を簡単に荷物に纏める。


「肉はそのままは食わない方がいいだろうな。 魔力が多すぎる」

「魔力を抜く作業しますね」

「骨の使い道は思いつかないが、血は札に使えるな。 これがあれば威力の低い攻撃魔法ぐらいは」


 水筒に詰めていた血を手に取ろうとして、それがないことに気がつく。


「あれ、ここに血が……」


 そう思って見回すと、気まずそうに頰を歪めているレイが見える。


「……おい、レイ」

「あ、ははー。 水筒に移してたから私用かなーって」

「実験とか道具作りに使うんだよ! ……マジか」


 骨を砕いて紙に少量を練り込むことぐらいは出来るだろうが、紙に混ぜこめる量程度で足りるとは思えない。

 多くしたらボロボロになるだろうから、骨は札には使えない。 他に骨の使い道は思いつかない。


 肉や内臓は魔力を抜いて食うしか出来ないので、鱗付きの毛皮を加工するしかないか……。


 魔力の篭った鱗は下手な金属よりも硬く軽いという特徴があるが、当然布の服よりかは重く、軽装で動き回る戦術が基本の俺にはあまり向いたものでもない。


 アロよりかは大きいので、ローブのように加工して被せておけば多少は安全の確保になるか。


「……とりあえず朝食にして、夜になったら森から脱出するか。

俺の怪我もあるし、装備を整えることぐらいはしたい」

「森の中よりかは幾らか安全だけど、野宿は野宿だよね……」

「野生化しているお前が言うな」

「私には厳しい……」


 傷を癒すためにも昼間は動き回らずに物の整備や加工に集中し、夜間に動くために交代で見張りをしながら仮眠を取る。

 時々魔物が現れるが、中級や下級高位の魔物は出ず、簡単に仕留められるものばかりだった。


 夜になり、焼いた肉を齧りながら魔力の少ない方へと歩く。


 しばらく歩けば、今まで何故迷っていたのだと思うほど呆気なく森を脱出することが出来た。 それに運良く作っていた拠点の近くに出ることが出来たので、まだ荒れていないそこに入り込む。


「運がいいですね」

「そうだな。 森で迷うとは思っていなかったから対策していなかったが、助かった」

「うわー、柵だ。 すごい」

「……レイは日中辛いだろうから、突貫で屋根と壁も作った方がいいか。 レイ、木を伐り倒すの任せていいか」


 吸血鬼に限らず、日光に当たり続けていれば体力を使う。 日中に寝ることになるのだから、レイのためだけでなく日除けぐらいはあった方がいいのは確かだ。


「オッケー! でも、すぐに離れることになるのに作るのって勿体無くない?」

「必要なことだから仕方ない。 人間という種族はひ弱だから、こうするしかない」

「ひ弱……一人で中級の魔物狩れるのに?」

「見れば分かるが怪我を負わされた。 一人ならこのまま断念せざるを得なかったか、あるいは無理をして死んでいたかだ」


 彼女は人間の弱さを舐めすぎだ。

 話はそこそこに終わらせ、日が出る前に柵と結び付けるように木を並べて縛り付けて即席の壁を作る。 多少日が入ってくるのは適当に葉っぱなどを外側に付けて少しでも減らして置く。


 日光が出てきたのでレイに作業を中断させて、アロをレイに任せて木を運ぶ作業を続ける。


 若干感じる腕の痛みのおかげで眠気は少なく、黙々と運ぶことが出来た。


 しばらくしてアロが料理を作り終えていたのでそれをいただき、作業を再開しようとしたところでアロに引き止められる。


「どうした、アロ」

「ベルクさんだけずっと動いているので、少し休んだ方がいいと……」

「大丈夫だ。 まだ眠くない」


 そう言って行こうとしたが、アロは首を横に振り掴んだままだった。


「ベルクさんは放っておいたら無理をするので、そういうのは許容出来ないです」

「女子供の体力と一緒にするなよ」


 そのまま行こうとすると、アロは引きずられながらも俺の手を持って離そうとしないため、仕方なく彼女の身体を抱き上げて拠点に戻る。


「……馬鹿らしい」

「ベルクさん、不眠気味ですよね。 ……寝なくてもいいので、横になってゆっくり休んでください」


 どうにも俺はアロには弱く、渋々ながら従ってしまう。 すぐに眠れているレイを見て、これはこれで才能だと感心する。


「……辛いんですか?」

「何がだ」

「寝ること……いえ、生きることが」

「当たり前だろ。 そうでもなければ……こんな自殺紛いはしない」


 彼女の手が横になっている俺の頭に触れて、よしよしと撫でる。


「……なんだよ」

「こうしたくなっただけですよ。 ……頑張り屋さんですね、ベルクさんは」

「自殺に巻き込まれていて、よくこんなことが出来る。 馬鹿が」

「……貴方となら、一緒に心中してもいいと、思っただけです」


 馬鹿馬鹿しい。 頭がおかしいのではないかと思いながら、その手を跳ね除けられずに目を閉じる。


 その時の夢は、ニムが出てくるものではなかった。

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