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迷いの森探索9

 疲れが取れきっていないため、休憩をしたいところだがもう日も出ている。 夜行性に比べて昼行性の動物が多いので魔物もおそらく同様だろう。


 適当に寝るのは夜よりも危険かもしれない。 そういう判断をして、寝れる場所を探そうとした時、アロが声をあげる。


「ベルクさん、ここ、かなり中心に近いですよ」

「……ん? 普通に来れたよな?」


 大して広くもない森なのでおかしくはないが、昨日の昼はどうやっても辿りつけなかった。

 トレントの動きによって誘導されるのは必死に歩いていても変わらないはずだが……。


「……夜だから……トレントが寝ていた?」

「いや、まさかそんなことは……。 レイさんは夜に行動したことはありますか?」

「いや、この森だとないね」


 偶然来られたというには前の行動との差異がそれぐらいしか見当たらない。 夜にならまともな移動が出来るとしたら、その理由はやはりトレントが寝ていたからではないかと思う。


「……植物って寝るんですか?」

「……花とかは夜には萎むことがあるし、日のある方に葉を向けるなどの日夜の動きがあるのは確かだ。 それが睡眠と呼べるかは、植物ではないから分からないが」

「トレントも夜には活動しないのかもしれないんですね」

「そもそも夜に魔物の多くいる場所に行く奴がいないから、前例とかだと分からないがな。

普通の植物のように光を感じているのならば夜に活動が減るのはおかしくない。 ……あるいは何者かが動かしていて、その何者かが寝ていたとか」


 とりあえず、脱出の手立ては出来たか。 それが正しいのならば単純に夜中に行動すればいいだけだ。

 一応体内の魔力を測ると多少増えていて、少しは消費した方が良さそうだ。 だが、身体能力が上がるのは利点だしな。

 一応多少減らしておく。


「周りの魔力の濃度じゃなくって食べたものっぽいですね。 レイさんも測ってみますか?」

「……いや、得体がしれないからいいや、なんか怖い」

「健康診断みたいなものなのですけど……まぁ大丈夫そうなので強制はしません」


 アロが周りの物の調査を始め、しばらく色々と探ったあと、振り返って俺に言う。


「ベルクさん、多分近くでまた植生が変わります。 ここの植物も魔力ギリギリみたいなので」

「……そこまで行ってみるか。 また夜になれば」

「昼に移動して逆戻りは嫌ですもんね」

「えー、夜って暗いし気持ち悪い奴増えるから嫌ー」


 吸血鬼のくせに夜を嫌がるなど……と思うが、下手に機嫌を損ねるのもつまらないので適当に宥める。

 仕方がないと諦めたレイがハッと首を上げる。


「ベルクくん、また魔物……これ、多分中級」

「……逃げるか」

「でも、昼に逃げたらまた元の場所……仮に中層と呼べる場所に戻ってしまいません?」

「死ぬよりかはマシだ。 ……ここに留まっていられるほどの実力がない」


 レイが指を指した方向と反対に向かう。 少し歩いていると、レイが焦ったように声をあげる。


「……ついてきてるね」

「近寄っているのか?」

「少し、急いだ方がいいかも」


 その言葉に頷き、アロの身体を抱き上げる。 最近の行動でそれに慣れたアロはべったりと俺に抱きつきながら、しっかりと捕まっていると俺に伝えた。


 レイを先頭に走って逃げるが、振り切ることが出来ていないのか彼女の脚は徐々に早くなっていく。

 後ろから足音が聞こえ始め、思わず顔を顰める。


「レイ、迎え撃つぞ!」


 梟よりかは幾分かマシだろうと思い振り返り、黒い鬣を見る。

 体型は犬や狼に似ているが少なくとも犬とは言えないほどには身体の特徴が当てはまっていない。


 全身が棘にも似た魚鱗に覆われていて、その隙間から獣毛が溢れ出ている。

 狼が鱗の鎧を着込んだような姿、体高は梟のような大きさはないが、その異形の姿は今までに見たことのある魔物とは別の存在であると示していた。


「ベルクくん!」


 乱雑にアロを置き、剣を引き抜き踏み込みながら振るう。 魔物の脚に当たるが、異様な硬さと重さにより剣が弾かれる。

 俺の首へと迫ってきた狼が、後ろから伸びてきた剣に弾かれ横へと逸れる。 狼は木の側面に着地し、そのまま跳ねた。


「──ッ! 符術【空を切り取る】!」


 狼の身体を透明な壁が受け止め、地面に落ちた狼へと剣を振るうが、金属音が響くだけで鱗に傷一つつけられず、それどころか刃が少し欠けてしまう。


 大量の札を投げてから【空を切り取る】を何枚も張る。 アロが離れていることを確認し、レイを無理矢理抱きしめてその場から離れる。


「符術【祝歌を遮る】──!」


 数枚の札が同時に爆ぜる。 壁越しの音だが頭がおかしくなりそうなほどの轟音で、これだけすれば聴覚は奪えただろう。


「レイ、アロ、後ろを向いてろ。 符術【携帯する太陽】」


 連続して符術を発動させ、光が収まったところで振り返る。まだ立っている狼の近くに【幻影を見る】を投げ、それに反応したところで後ろから狼に飛びつき、背中から抑えながら短剣で鱗の薄い腹部を突き刺す。


 動きやすいように短剣を動かして魔物の腹を指し、内臓を出来る限り傷つけるように動かす。

 背に乗る俺を振り払おうとした狼がガムシャラに暴れ、不運にも白い髪の少女の前来てしまう。


「ッ! アロ!」


 魔物は大口を開けてアロに噛み付こうとし、横から口に手を突っ込んで舌を握る。 腕を噛まれながら短剣を動かし続け、短剣を引き抜いて首の関節を動かすための鱗の合間から短剣をねじ込み、それでも動いている狼の目を指で抉り、眼球を引き抜く。


 狼が体制を崩したことで同時に倒れて地面に身体がぶつかり、息が漏れる苦しさを感じながらえぐった腹部に腕を入れて無理矢理ハラワタを引きずり出し、立ち上がって狼に刺さっている短剣を思い切り踏む。


 深く突き刺さった短剣越しバキリと音が聞こえ、狼から力が抜ける。

 気だるい感覚のまま深く息を吐き出し、その場から離れて木の縁に腰掛ける。


「……アロ、荷物に包帯入れてただろ。 血を止めてくれ」

「あ……ベルク、さん……それ……大丈夫……ですか。 僕のせいで……」


 狼狽えているアロを見て、庇ったことを思い出す。 気にするなと言いながら自分の左腕を抑える。 怪我をさせていたのが効いていたのか、血管が切れたせいで出血は酷いが動かないほどではない。


 唾液を飲み込んだ音が聞こえ、レイが俺の腕を見ていることに気がつく。


「……飲むか?」

「いいの!?」


 泣いているアロを押し退けてレイが飛び込んでくる。


「ぬへへへへ、いただきまー……」

「……あっ、待ってください!」

「ん? どうしたのアロちゃん?」

「……直接はちょっと……その、はしたなくないでしょうか?」

「いや、直飲みしてこそだよ」


 あまり主張しないアロが否定しているので、レイには諦めてもらう。


「とりあえず、綺麗な布で拭いてそれを啜るのでいいか?」

「えー、いや、繊維とか入るし……」

「なら今回は諦めてくれ」

「……じゃあ飲むよ……。 ベルクくんはアロちゃんに甘すぎない? 好きなの? ロリコンなの?」

「面倒が嫌なだけだ」


 アロが顔を赤らめていたので、否定する。 ……怪我をしたのは痛いな。

符術紹介①

名称:【空を切り取る】

効果:空気を固め100cm×100cmのガラスのような板を作る魔法を発動させる符術。

盾や足場にすることが出来る。

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