表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/97

迷いの森探索6

 少し離れたところで食事をする。 日も暮れ初めていて、今日はこれ以上の探索は難しいだろう。


「ベルベルも結構やるね。 人間の戦士ってベテランさんでも二、三匹相手にするぐらいが限界なんでしょ?」


 やけに軽い言葉に紛れた「人間の戦士」という単語。 おそらくは人間とは違う人種……エルフではないか。 何にせよ見た目が似ているだけの別人種らしいレイの発言に首を横に振る。


「それは「安全に」倒そうとした場合の話だ。 無理をすれば俺と同じ程度が出来るのは幾らでもいる。

……人間じゃないのか。 何の種族だ?」

「えっ、あっ……んーと、秘密?」

「……まぁ、どうせこの場のみだから構わない」


 一時利用し合うだけなのだから仲良くとする必要もない。


「それはそれで寂しいようなー」

「面倒だな」

「でも聞かれたら嫌だしー」

「本当に面倒だな」

「身体に聞いてやるって言われたら照れるしー」

「抵抗しろ。 というか、子供の前で言うな」


 首を傾げているアロの頭を乱雑に撫でる。 デザートに先程見つけた果物をアロに食べさせて、彼女が甘味に夢中となっている間に女を観察する。


 クネクネと身体を動かしているレイは普通の人間のようにしか見えない。 そもそも他の人種のいない田舎に住んでいたので、知識でしか知らないため判別もできない。


「……レイ。 匿ってやろうか?」

「何の話?」

「ここから出た後に、また人里離れたところに移動するのも面倒だろう。 それにいくら強くとも、生きることは出来ても人らしい暮らしは無理だろ」

「……そっちに得はあるの? 少しの間しか見てないけど、同情って風には見えないしさ」

「人手が欲しい。 だが、まともに雇えるだけ大したものはやれない。

お前の場合匿うという条件でいけそうだからだ」


 レイは少し迷った様子を見せる。 俺のことを信用できるか測っているのか、ジロジロと表情を見られる感覚がする。


「……一応、僕の家なんですけど……」

「いや、別に他のところに住まわせても問題ない。 どうせ俺も近いうちに離れるつもりだったしな。 適当にそこに住まわせれば……」


 アロは何が不満なのか紅い目を逸らせて、不満げに唇を尖らせる。


「……別に、僕のお家でもいいですけど。 どうせ部屋も空いてますし」

「悪い。 ……それでどうする? 何か要望やら質問があるなら聞くが」

「……アロちゃんのヒモなの?」


 違う。 少女のヒモって不名誉すぎるだろう。

 俺が否定するより前にアロが口を開く。


「ち、違いますよ! ベルクさんはただちょっとお家がなくて僕の家に居候しているだけです! 収入もほとんどなくて僕の貯金を切り崩して生活しているだけです」

「…………ヒモじゃん!」

「違いますもん! ベルクさんは将来すごくなるから違いますもん!」


 レイの目が酷く冷めている。


「……あの、ベルクくん……どうかと思うよ。 働こうよ」

「いや、いや……働いてはいる。 ただ、研究費に……」

「……ヒモじゃん?」

「ち、違います! 僕が好きでしてることですから!」

「……ヒモじゃん」


 言い返すことが出来ない。 むしろ言い訳を重ねるほどヒモという言葉がのしかかっってくるばかりだ。

 ヒモ……すなわち紐のように女に引っ付いて養われるだけの存在。


 養われている……まぁ、収入が足りずにアロの貯金を切り崩してしまっているが……。


「……実験で有用な物は作れた。 それを売れば安定した収入になる」

「じゃあしたら良かったんじゃ?」

「……商人のツテがなかった」

「ヒモじゃん」

「……」

「ヒモじゃん」


 レイの言葉が突き刺さる。 「元気出してください」とアロに言われるのが酷く辛い。

 肉が焦げた匂いがして、それを手に取る。


「……ヒモじゃん」

「ひ、ヒモはヒモでもいい紐ですから! 今はちょっとアレなだけで!」

「今はアレなのか……」

「お酒もやめましたし! 偉いです!」

「……おう」


 考えることは止めよう。 そう思いながら肉を口に含んでいると、レイは何度か頷いて、手を俺へと伸ばす。


 妙なな違和感に襲われて、ほとんど跳ねるように後ずさる。


「ベルクさん?」


 アロの声を聞き、彼女の手を引いて下がらせた。


「どうした?」

「……最近気がついたことなんだが、魔物は魔力を部位によって差異を付けて攻撃力や防御力が増すらしい。

人間にはない技術だが……まぁ不可能なことではないだろう」


 まともな装備は剣と短剣ぐらいか。 少し身構えたところで、レイは笑みを浮かべる。


「やっぱり、「出来る」ね、ベルクくんは。 単純な戦闘力じゃなくて、生き残る力がある」

「……冗談にしては悪質だな」

「人間という種族、一個人に警戒することになったのは初めて」


 ニヤリと浮かべた笑み、口の端から見える鋭い犬歯を見て札を手に取る。


「……吸血鬼か? 昼間に動き回っていたが」

「ほら、私って生活習慣乱れてて昼更かししちゃってるの」


 レイは夜型の人間のように、昼に元気になるタイプの吸血鬼なのだと主張する。

 そういうものかと思いながら、敵意を示さない彼女を不自然に思う。


「……襲うつもりなら、とっくにか」


 あの攻撃にも感じられる魔力の流れは……試した。 というところか。

 若干の不愉快さを誤魔化すように睨む。


「そうそう、ベルクくんは優秀だね」

「……お前は面倒だな」


 吸血鬼には詳しくないが、聞き齧りではいい印象がない。

 人を襲うと聞くし、場合によっては魔物扱いすらされることがある。


「……日に弱いと聞くが」

「直接見たらめっちゃ目が痛くなる」

「それは普通だ」

「日に当たるとちょっとしたら赤くなる」

「普通だ……」

「浴びすぎると死ぬ」

「中間の段階ないのかよ。 ……それで、血を吸うのか?」

「まぁ吸うけど、そんなに大した量でもないよ?」


 ……強いことは確かだから引き入れるリターンも大きい。 だが、こいつを仲間にすること自体にも裏切られるリスクもあれば、こいつを庇うことへのリスクもある。


「……構わない。 アロもいいな」

「ベルクさんが決めたことなら……」

「ヒモ」

「うるさい。 それで、くるか。 人手の足りない仕事をやってもらうが」

「んー、ご飯ある?」

「ある」

「屋根は?」

「どんな生活をしている……あるに決まっているだろう」

「じゃあ行くよ! ここから出れるかは分からないけど!」


 最悪、木を避けようとするから迷うわけで、トレントをなぎたおしながら真っ直ぐに進めば出られるが……とりあえず言わないでおくか。


 手早く肉を食べ終え、少しゆっくりとしているとアロが口を開く。


「多分しばらくしたらまた植生が変わると思います。 と歩いているときに言ったんですけど……。 真ん中に向かえていないのか、所有魔力量に変化があんまりないです。

外に向かえないのと同じように真ん中にも向かえないようにトレントが動いているのかなぁ……」

「まるでトレント全体が意識を共有しているようだな」

「……可能性はありますね。 ……食中植物みたいに、魔物を逃がさないようにしたら森全体に栄養と魔力が蓄積することになりますから」


 魔物同士が食い合っても、トレントの一部が食われても森から出て行かなければ結局は全てトレントの肥料となる。

 本当にトレントが意思を持って逃げ出せないようにしているのであれば、森全体が食中植物としての機能を保有しているようなものだ。


「……異様だな」

「ですね」


 やはりこの森はおかしい。 戻るにも進むにも対策を練る必要がある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ