迷いの森探索3
探索は予定通り非常にゆっくりと行われる。
歩きながら細かく草や木などの魔力を計っていき、昨夜の魔力により育たない植物がいるせいで線を引いたように植生が変化したという仮説が強化されていく。
「問題は、何故線のようになっているかですね」
昨日のことが無いようにアロが口を開く。 若干の気まずさを引いたまま、その言葉に頷く。
植物がその影響になっていたのは魔力の影響と分かったが、魔力が何故その形になっているのかが分からない。
少し思いついたことがあり木の上に登り、少し上から眺めると確かにそうだということが分かる。
「若干、曲線になっているな。 おそらくかなり大きいが円形か……」
「円形、正円ですか? 楕円ですか?」
「広すぎて分からないが……いや、やり方によるか。 アロ、【空を切り取る】の改良型は何枚あったか。 あと、魔力庫の残りも」
「札は8枚、魔力庫は10000ちょっとはありますよ」
「登るか」
「……登る?」
木から飛び降りて、アロから受け取った【空を切り取る】に紐を結びつけて適当に投げて発動させる。
「あの、嘘ですよね?」
「歩いて回れば何日かかるか分からないだろ」
「……いや、いやいやいや。 やめましょうよ。 高いところは怖いですよ?」
嫌がるアロの身体を掴んで、2枚目と3枚目の【空を切り取る】も階段のようになるように発動させていき、それを登る。
4枚5枚と繰り返して登り、始めの方の札を解除させて紐で回収して魔力庫から魔力を移してまた発動させて階段にしてと、それを繰り返して簡易的な階段を登っていく。
「アロ、手間取ると魔力を消費しきって危険だぞ」
「わ、分かってますよぅ」
そう言いながらも彼女は俺にしがみつきながら【空を切り取る】の上を登る。 しばらく登っていくと、徐々に異界の姿が露わになっていく。
端から端まで見渡されるところまで登り、異界を見渡す。
「……正円か」
「……確か、騎士さん達は魔物を山狩りして異界を潰すのでしたよね?」
「そうだな」
「……一時的にはどうにかなるのは分かるのですが、そのやり方だと」
「土地自体に魔力が多いのだから、抜本的な解決にはならないな。 中心部に何かがあると考えるのが自然か」
だが、今まで中心部から原因を探そうとした奴がいないとは思えない。 少し思いつき、空気中の魔力を計る。
「な、何してるんてますか! 見たんだから降りましょうよ!」
「……ああ」
真円ではあったが、空気中の魔力を考えると地上の中心部を中心にした真球ではないらしい。
もしも、真球型に魔力が多くなっているのだとすれば…….中心部は地上ではなく、地下だ。
同じようにして降りていき、降りた先でもべったりと引っ付いていたアロを引き離す。
「中心はおそらく、地上ではなく地中にある。 こうも綺麗な形をしているのだから何かしら分かりやすい物が地中にありそうだ」
「……地中何メートルですか?」
「……100mぐらいはありそうだな」
「無理ですね」
「いや、何か手はあるはずだ。 とりあえず中心に近い森へと向かおう」
森へと途中に魔物を見つけ、適当に斬りふせる。
「ベルクさんは……本当にすごいですね」
「低級下位の魔物なんて野生動物と変わらない。 それに、これは草食のようだしな」
「……草食なのに僕達を襲うんですか?」
「普通の草食動物も鼠とかを食うことはある。 塩分などの栄養が足りなくなったら食うらしい」
「……僕達は鼠ですか」
「この場合は塩分ではなく魔力を持った鼠だな。……放っておけば他の魔物が食うだろうが……処理をするのも面倒だな」
「それで時間を取られたら勿体ないですしね。 ……部位毎の魔力だけ計りましょうか」
アロは手慣れた様子で魔物の魔力を計測し、メモに書き留めていく。
年齢は何歳ぐらいなのか、見た目の割に賢いが……。
「アロは何歳だ?」
「えっ、僕ですか? 11歳ですけど、どうされました?」
「いや、見た目と賢さがあっていないと思ってな。 そうか……利発だな」
「んぅ? ……ベルクさんはおいくつですか?」
「15……いや、16……18……20歳にはなってないと思う」
俺の言葉を聞き、アロが呆れたように俺を見る。
「適当ですね、覚えてないんですか?」
「あっ、ニムが17歳だから俺も……」
「……ニム?」
少女が首を傾げ、無駄なことを話したと後悔する。 誤魔化すように魔物から離れて歩くと、アロは察したのか、それ以上聞くこともなく少し後ろを歩く。
森が近くに見えて、嫌に身体の調子がいいことに気がつく。 アロもいつもなら疲れているはずが、ついてこれていて不思議に思い立ち止まる。
「お前、そんなに体力なかったよな」
「えっ……あれ、そうですね。 いつの間にか体力がついたんでしょうか?」
「俺も妙に疲れがない。 ……確か魔物も魔力が多いやつの方が体力があったよな?」
「……それも確かめた方がいいですね」
俺の手を切り、血を必要量だけ垂らしてアロに魔力を計ってもらう。
「……最大魔力保有量は変わりませんが、魔力の所有量は増えてますね」
「異界の影響か、あるいは、しばらく魔物ばかり食っていたからか?」
「前者はなんとも言えませんが……少なくとも後者は関係ありそうですね。 魔物もそうやって魔力を得るわけですから」
魔力が増えたのは喜ぶべきなのか。 どちらにせよ最大魔力保有量が変わらないのであれば攻撃魔法は不可能で、低出力の補助魔法が限度だろう。
それも詠唱を知らないので使うことも出来ないが。
「問題は……」
「いつの間に爆発する可能性ありますね」
散々魔力を過剰に入れて爆発させてきた身としては、所有魔力が増えるのは恐怖でしかない。 だが、身体能力の若干の向上は有難いので、魔力庫に少しずつ魔力を移すことで普段よりも少し多いぐらいで維持をすることにする。
アロの方は多少増えていても余裕はあるか。
「飯を食うときは魔力を抜いてからにした方がいいかもな。 ……森も近い、何か気がつけばすぐに言え」
「はい。 ……森の中だと、ベルクさんの足を引っ張ってしまうだけだと思いますけど」
少し入り、薄暗い森の中、すぐに立ち止まる。
何か妙なところがあるが、その正体が掴めない。 魔力の影響なのかと思ってアロを見るが、俺よりも魔の適性が高いはずの彼女は何も感じていないらしい。
「いくか」
「はい」
森の中の様相は普通の森とは大きく異なっていた。 生育が異常に早い魔物は数が増えることが多く、通常よりも多くの生物がいるからだろう。
糞、毛、足跡、縄張りの跡、争いの傷、その多くが見られた。
「……やっぱり普通のところの魔物より強そうだな」
少しして、立ち止まる。
「どうかしましたか?」
「いや、やはりおかしいというか……」
森の姿が違う。 木の種類自体が違うのもあるが、並びがおかしいことに気がつく。
「……ほら、あの木を見てくれ」
「普通の木ですけど……」
「いや、周りのより背の高い木に光を遮られているところにまで葉が伸びている。 どの角度だったとしても光が当たらないところに生えているのは妙だ。それに……異界の外だとあった蔓草がこの森の中にはない」
「…………木が動いてる証拠……トレント、ですか?」
「今まで襲われていないことを思えば、その亜種か……あるいは指示を受けているとかの可能性もある」
「指示ですか?」
「魔族は魔物に指示が出来ると聞く。 眉唾だがな」
動き人を襲う木型の魔物であるトレントがいて、人を襲わないということを考えていなかったため、いつの間にか囲まれていたらしい。
最悪囲まれてなぶり殺しにされるが、現状では襲ってこないようだ。
「とりあえず、一度戻ろう」
このまま進めばやばいという直感が頭を過り、アロの手を引いて引き返す。 しばらく戻っていくが、どこか違う。
だが真っ直ぐに進めば同じ道を辿って出れるはずで……だが、いつまで歩いても外に出ることが出来ない。
行き道に見た覚えのない焚き火の跡を見つけ、それがついさっきに燃えていたわけではないことが分かる。
「人がいるのでしょうか?」
「っ、道を間違えたのか?」
手掛かりは有難いのだが、このままだと安全の確保さえ出来なさそうだ。 トレントに寄っ掛かりながら寝るわけにもいかないことを思えば……。
だが、何故道を間違えたのかすら分からない。 森歩きに慣れているのに。
「……ベルクさん。 森を抜けれないなら、この人の方に行ってみましょう。 先に入っていたなら、協力出来るかもしれませんから」
少女の提案に頷き、焚き火跡を作った人物の方へと向かう。




