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迷いの森探索

 異界とは、異様に魔物が出るようになった地域のことである。

 あまりにざっくりとしているものだが、それ以上に説明することは出来ない。

 人類の英知というのは、存外にしょぼくれたものだからだ。


 今回、勇者を先回りしていく異界は人類の生活圏からはある程度離れた地帯で、街道も整備されていない道を少女と二人で歩く。


 ボサボサに伸びっぱなしの白い髪の少女は日光に弱いらしく、すぐにバテて彼女を抱きかかえながら歩く羽目になった。


 足手まといにしかならない彼女だが、以前彼女が言ったように異界を直すというのは本来ならば軍隊が出動しての大事であり、決して個人で出来るようなものではない。


 少なくとも今までのやり方では不可能であり、新しいやり方を試す必要がある。

 それをするのなら、結局は現地で今までと似たような実験を繰り返して仮説を立てる必要があるので、少女の協力があるに越したことはなかった。


 俺にしても少女にしても命が惜しくないのだから、危険は度外視することが出来るのが強みだろう。


 野宿を繰り返している内に低級下位のほとんど野生動物と変わらない魔物が多く現れるようになり、ある線を境に明らかに植生の違う動植物が見え、端の方ではあるが異界までたどり着いたことが分かった。


 ある境で急に植物が変化しているのを見て、二人で感嘆の息を吐く。


「……あれだな、分かりやすいというか」

「実験を開始したいところですけど……。 まずは拠点を作らないとですね。 一応もう少し離れたところにしましょうか」


 彼女の言葉に頷く。

 異界を直すのには通常の方法では不可能ということは、多くの実験が必要で、最低限の拠点がなければそれも叶わない。

 とりあえず雨が降った時のための屋根と、簡単に動物や魔物が入ってこれない壁は欲しい。


 大まかな位置どりを決めて、適当に生えている木を切って柵から作ることにしようとしたところで、少女が思い付いたように言う。


「そこらへんの木をそのまま柱にして、その周りを柵で囲めば最低限にはなりませんか?」

「ああ……安心は出来ないが、そうした方が効率はいいか」


 一際立派な木を拠点に定め、周りにある木をブレードウルフの短剣で切っていく。 倒れた木の枝を雑に落とし、幹を運びやすい長さにして、拠点の近くに運ぶ。


 それを何度も繰り返している内に魔物が襲ってきたので倒して解体する。


「ひとまず休憩にするか」

「……この調子で夜までに間に合いますかね」

「いや、無理だろ。 ……絶対に間に合わないな人手も道具も足りない」


 ブレードウルフでも見つかれば研いで短剣を作るなりのことは出来るが、今回の魔物は鹿型で刃物になりそうなものではない。とりあえず毛皮は使えそうだが、処理の道具もないので雑なものになるだろう。


 毛皮を剥いで毛皮に付いている肉や脂肪を短剣で可能な限り削ぎ落とし、日向に置いておく。 まぁ食うわけでもないので多少臭くても腐っても大丈夫だろう。


 水場が近くにないので市販の魔道具を荷物から取り出し、それに魔力庫から魔力を注ぎ込ませて水を出してそれで洗う。

 少女が簡単な調理をしているところから脳味噌を取ってきて、潰して水を加えて毛皮に塗っていく。


 簡単な処理しか出来ないが、まぁ売り物にはならなくとも使い物にはなるだろう。

 毛皮は適当に置いておき、少女の作った料理を食べる。


「慣れてますね……」

「まぁ、田舎では猟師の真似事をしていたからな」


 少女は解体後の魔物の様子を見て、気持ち悪そうに顔をしかめて目をそらす。

 まぁ見ていて面白いものでもないだろう。


 肉は腐りやすく栄養の取れる内臓を真っ先に食べる。 草や果物も食べたいところだが、まだ見つけていないので諦める。

 あとで探しておこう。


「……実際、どれぐらいかかりますか? 拠点を作るの」

「柵を作る最低限の材料はある。 木材と、それを縛るための蔦もそこら中にある。 十分な材料を集めるのに今日丸々一日。

それを使って柵を作るのにまた一日ってところだな」


 あまり時間も使っていられないが結局必要なものだ。それだけである程度安心出来る拠点が出来るなら充分だろう。

 ニムが来るのはあと2ヶ月ほどしかないので、あまりゆっくりもしていられないが……。


 面倒くさそうにしている少女を他所に手早く食べ終える。


「とりあえず、正面の分の柵を作っておくから、それまで寝ておけ。 代わり代わりに寝ながらじゃないといつ襲われるかも分からないからな」

「了解です」


 少女は昼食を食べ終えたあと、木陰でリュックを枕にして布をかぶって目を閉じる。 都会育ちとは思えない図太さに感心しながら、地面を掘って、その穴に木材を突っ込み、穴を塞いで木材を立てる。


 だいたい等間隔に木材を立てていき、少し細い木材を斜めに刺して蔓で縛って柵にしていく。 よほど大型の魔物でもなければ突破は難しいぐらいの強度はあるが、隙間が大きいので小型の動物は入りたい放題だろう。


 まぁ危険度の低い動物は無視して、まずは魔物の対策だ。


 少しだけ柵が出来たところで、少女が食べ残していたものを食べてから少女を起こし、魔物が見張りとそこらの物の調査を頼み、場所を入れ替わって眠る。


 しばらく眠っていると、少女が鹿の魔物の各部位と、近場にあった草や木材や石の魔力を調査し終えたらしく、身体を揺すられて起こされた。


 再び柵の材料を集めるために拠点から離れ、俺は木材と蔓と野草を取り、少女は手当たり次第に物を拾い集めて拠点と近場を往復する。


 夕飯の支度を少女にしてもらうながら、余り物の木材で簡単な皿やコップなどの日用品を適当に作る。 乾かしていないので、時間が経って乾けば割れてしまうだろうが、この拠点も長くて2ヶ月ほどしか使わず、離れる時には捨てるので十分な代物だ。


 太い丸太を置いただけの机に料理を並べ、丸太に腰掛けて揃って肉と野草を食べる。


「やっぱりお家は建てれないですよね……」

「柵を作り終えたあと、異界になっている方を探索して見つけた物を調査している間に少しマシにすることは出来るな。 とは言っても、魔物の対策に柵を強化していくのが最優先だが」


 ブレードウルフなどならまだしも、ニムと倒した熊ならこれぐらいの柵は簡単に壊してしまいそうだ。


 そういうと、ニムが思い出したように声を上げる。


「あっ、そういえば、ここ、魔力がすごく多いんです石とか草も最大保有量ギリギリまで篭っていて、なので一箇所に留まっていても魔力に反応して魔物が寄って来ることは少ないかもしれません。

それに魔力を草などから取ればもっと寄ってくる量は減ると思います」

「魔力を減らしてくる量を減らすか……。 その考えはなかったが、有用そうだな」

「良ければあの鹿の魔物の血液で術式を書いて少しずつですが一帯の魔力を減らしていきましょうか?」

「なら頼む。 それにしても、魔力が多いか……」


 魔物は魔力を多い食物を好む。 草に魔力が多く篭っていれば、草食の魔物からすれば、非常に美味い飯がある場所ということになる。 肉食の魔物にしても、魔力が普通よりも多い草食の魔物がいるなら集まってくるだろう。


 魔力の豊富な草が多いから魔物が近場から集まってきて、集まったことと餌が豊富なことで大繁殖が起き、異界という地域になった可能性がある。


 少女はそれに加えて、植生が線を引いたように急に変わったのは、高密度の魔力に耐えられない通常の草木が生えない場所に、代わりの魔力に強い草木が生えたことで、妙な線のようになっているのではないかと仮定した。


 実際に調べてみないと分からないが、大まかには異界という空間の仕組みは分かったと言えるだろう。 解決方法は思いつかないが。

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