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魔王を殺す方法4

 最大魔力保有量と自然状態の魔力を測る方法は偶然の発見により急激な進歩を遂げた。

 スライムという半液体半個体の魔物で、強酸により武器を溶かしてくる厄介な敵なのだが、それの体液を加工して作った液体は魔力を込めると体積が増えるという性質があることに気がついたのだ。


 それを目盛りを書いた試験官に入れ、測れる最大値、爆発する寸前を100全く魔力がない状況を0として、その間を均等に100分割して、それによって魔力の増減を簡単に測れるというものだ。

 簡単に【魔量計】と名前を付けた。 スライム自体珍しい魔物で大した量の体液を取れなかったので、計れる限界は低いが、計るものを小さくすることで一応の解決をした。


 いちいち紅札を作って魔力を消費する手間が省け、金銭でも若干の余裕が出来た。

 この前の自然状態では身体の内部の魔量所持量が等しくなるのではないかという仮説は、深いレベルでは確定はしていないが、俺の身体から採取したもので試したところ、一応ほとんど正しいと言えることが分かり、人のおおよその魔力所持量を数字で出すことが出来るようになった。


 血液100g辺りに含まれる魔力量を計り、その人の体重分掛ればいいだけだ。

 尤も、最低の魔力量があり、それを下回ることが非常に危険なため魔力量が分かったからと実際に何か出来るわけでもないが、あくまで目安にはなる。


 この計算だと俺の魔力量が260程度、少女の魔力量は150程度で、実際に使用出来る魔力は別として俺の持つ魔力の方が多いという結果になった。

 密度は明らかに少女の方が多いのだが、単純に俺の方が身体が3倍近く大きいため総合すると多い。 実際には俺の方が魔力を使えないが。


 計算としてはざっとこういうものになるだろう。


消費可能魔力量=所持魔力量ー身体保持魔力量

身体保持魔力量=体重(kg)×4


 俺の場合はだいたい65kgなので、260が身体保持魔力量である。 つまり所持魔力量とほとんど同じであり、普通の魔法を使うことが出来ないという結果になった。


 少女の場合は25kgほどなので100程度が身体保持魔力量で、あまりが50ほどあるのが消費可能魔力量である。


 消費可能魔力量は体感でしかないが、

 新しい基準では俺の使う符術は一つ発動分で2ほど、攻撃魔法はその5倍の10ほどを必要としており、少女ならば10発放てる計算になる。


 初めの紅札での計測と多少のズレがあるが、大きさにバラつきがあったことや、少女が意図的に魔力を込めようとして血を出していたことによる差だろう。


 正直なところ、この魔量計の数字の方が当てになり、以前の紅札を使った計測は大まかすぎた。 色々と計り直した方がいいだろう。


 その計り直しの際に少女が見つけたことがあり、それが魔力の移動の速さが素材によって違うということだ。

 魔力を魔量計へと移す際、同じ魔力量だろうと、血液を移す場合はほとんど一瞬なのに対して、骨は非常に遅く30秒ほどかかる。


 魔道具を作成するなら、その伝達速度の違いを考慮して、経路に使うパーツには伝達速度の早いものを採用する方がいいと思われた。


 などの成果によって、実験がてらの試作品で実用に堪えるものが幾つかできた。



 符術札【空を切り取る】改良型。 本来なら一度で使い切りだったが、魔力伝達速度の遅い素材を一部に使うことで発動した後にも魔力が札に少しだけ残り、魔力がなくなって朽ちることを防止する。

 その分、魔力を予め多めに入れておかなければならず、値段も手間もかかる。


 他の札は音や光に潰されるせいで使い切り以外には無理だったり、そもそもゆっくりと魔力を垂れ流す【幻影を見る】だと、素材の伝達速度が遅くとも必要量供給されるのには間に合うので意味がなかった。



 【急速充魔機】と【魔力庫】。 【ブレードウルフの短剣】や改良型の【空を切り取る】のような魔力を補充する必要がある魔道具に魔力を移すための道具だ。

 【魔力庫】の保存限界は1000ほどで、基本的に少女に余った魔力を入れてもらう予定になっている。


 符術札【剣狼の牙】。 ブレードウルフの牙を混ぜ込んだ紙で作った札で、当たった物から魔力を吸う術式のところを持つことでそちらに魔力が流れて、硬度と切れ味が増し、短剣代わりに使えるというものだ。


 正直、普通の短剣の方がよほど切れ味もいいが、暗器には使える程度のものだ。 使い切りでもないことだし。

 ちなみに魔力を吸う術式は魔力を操れない俺でも我慢しただけで吸えなくなるので、現状では対魔物としては使えないだろう。


 これだけあれば、ニムと二人で倒すことが出来ていた低級上位の魔物も一人で倒すことも出来そうだと判断し、それらの魔物を狩りに行きたいということを少女に伝えると、彼女は実験を続けながら首を横に振った。


「低級上位ぐらいならこれから手に入るので、わざわざ行く必要はないですよ」

「……商人とのパイプとかあったのか」


 結局はよく知らない少女のことで、この立派な家を見れば、彼女が偉いさんの娘である可能性も高いと思う。

 伽話の魔女の部屋に似てしまっている部屋の掃除をしながら感心していると、少女は何を言っているのだと首を傾げ、ボサボサに伸び切った髪を揺らす。


「いや、ないけど、市場にいっぱい溢れますよね? 勇者様達が異界化したところに行くって聞いたんで、市場にもいっぱいくると思いますよ」


 ああ、そうなのか。 そう聞き流そうとしたが、隠しきれなかったらしい。 少女はびくりと身体を震わせて、怖いものを見たように俺から離れる。


 誤魔化すことは無理だろう。 ニムが戦わされているのを知りながらじっと耐えることなど出来るはずもなく、いくつかの装備に目をやってしまっている。


「……勇者様に……恨みでもあるんですか?」

「いや、だが……邪魔はしたい」

「……協力出来ることなら協力しますが、邪魔って……無理じゃないですか?」


 確かに、ニムがそちらに向かうのを防ぐにはこの都で大騒ぎを起こすなりして足止めをするか……と考えたが、一時的でしかない。

 ならば協力して倒す……と考えたけれど、所詮はただの人間がニムとの手伝いになるとは思えない。


 答えは単純なものに決まった。


「先に行って、解決する」

「……えっと……異界化をですか?」

「そうなるな」

「無理じゃないでしょうか? あれの対処って、軍隊がやるものですし……。 それでも被害すごいらしいですよ?」

「人類が出来ていることだ。 出来ない魔王殺しより、よほどマシだろ」

「……それはそうかもしれませんが……」


 少女はああだこうだと自分の中で考え、最終的に頷いた。


「魔王倒すより、簡単ですね」


 年相応以上に賢い少女だが、幼子よりも馬鹿でもあったらしい。

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