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娯楽に溢れた、つまらない現実


 ――なんとなく。



「おう、森戸! 昨日の『とある妹のゼロから始める魔法高校の英雄奴隷』一話見たか!? マジ面白かったぞ!」



 なんとなく、生きてきた人生である。



「うっそマジか! 名前からして地雷臭しかしなかったのになー……帰ったら見てみるわ! ああ『魔王転生~最強目指して憂鬱スライム飯~』も結構良かったぞ! スライムの作画がぬるぬる過ぎてヤバかったわー」



 可愛い幼馴染みがいるわけでもなく、なんとなく友達が多くいる部活に入った中学時代。

 特に目的もなく、家から近かった高校をなんとなく選び。

 高校でも、美少女と一緒に部活に勤しんだわけでもバイトや勉強に熱を入れたわけでもなかった。 



「今期は良作アニメが一杯だな……バイト終わったら急いで消化しねえと! じゃーな、また明日!」


「うい、またなー!」



 手を振り終えて、ゆっくりと駅に向かって歩き出す。

 あー、春ですな。太陽が燦々と照っているが、体を撫でるそよ風が心地よーく冷やしてくれる。

 大学に入って二年目の五月。当年とって二十歳。童貞はまだある。今日は三限目まで講義のち、バイトナッシング。

 ……昼は帰ってからでいいや。途中でカップラーメンでも買って食べるとするかのう。



「……はぁ」



 歩き慣れた道をひたすらに歩く。疲れも感じず、ただ機械的に歩くだけ。ウィーン、ガシャン。

 道行く人の大多数に漏れずスマホを装備して、人生の役に立たない暇潰しの情報群をいたずらに漁る。

 そうすればあら不思議! 見てください、十分ほどの駅までの道も一時間弱の電車での立ち仕事もいつのまにか無くなっちゃってるんですねー! 

 最後に、自転車置き場に課金して囚われのチャリを颯爽と救いだし、馬乗りになって家へと向かう。気分は女王様。うん、なんかおかしい。

 そしてもちろんチャリへの報酬を忘れない。雨風の(しの)げる場所へエスコートし、……多分三ヶ月に一回くらい、丹念に! て、定期的に! エネルギーを吹き込むのだっ!

 家に帰った俺は水を得た魚のようにピチピチになる。帰り際にため息をつき『ガチャ当たんねー!』と唇をプルってた俺とは違い、調子が上向けばギョギョっと言いながら跳ねることも、家の中ならば(やぶさ)かではない。

 家の中なら何でもできる! いち! にー! さん!


 

 「やべっ、ラーメン買うの忘れたぁー!」



 ……男がどじっ子しても気持ち悪いだけだよね。

 家の鍵を開けながら気付いたのはいいが、今更買いに行くのは面倒くさい。がらんどうとした家の中で独りごちて、しょうがなくレトルト食品が押し込まれている棚を物色。

 げへへ、不用心な家だぜぇ! ……ん、……うん。…………うん、何もないぜぇ!

 しょうがない、見ないことにしておきたかったが……。味に期待するのは無駄であろう、パッケージからして『一応ラーメンですよ?』みたいなカップラーメンが一つだけあるのでこれで空腹を満たすしかない。見える地雷に突っ込む俺カコイイ!



 それからして、うろ覚えのアニメソングを口ずさみながらお湯を沸かし、自室に籠りウホウホ動画でアニメを見ながらラーメンを食べ、筋トレを挟んでからまたネットを繋げてまる夫スレを覗く。

 うーん、このダメ人間。実にマーベラスッ!



「ん、くぅーううぅぅ」



 体を伸ばして海老反ってたら、天井から二次元幼女が描かれたポスターが笑顔で見つめてくる。あられもないその姿をしたその子らは、表情をひとつも動かさない。



「うん、動いたら怖いけどね。……ていうかあの格好じゃ、冬とか寒いよなあ」



 ギリ一糸纏っている二人の幼女。ああ、二次元に行って彼女たちを暖めてあげたい! スキントゥスキンで!



「……あー、末期末期。……彼女ほしいなー。可愛くて性格が良くてエロくて処女で、えーと、あとなんかこう彼女ほしいなー!」



 頭の中にさえいない人物が、現実にいるはずがない。

 しかし能動的に行動を起こさなくても、少し指を動かせば、可愛くて性格が良くてエロくて処女でロリでギャルでお姉さんで人妻でツンデレでお金持ちで幼馴染みで絶対領域を忘れないツインテをピンクに染め上げた語尾に「~ッス」を付けるアンドロイド姫騎士が、二次元にはいるのだ。

 ……いや、いないのだ。特徴盛りすぎて恐ろしいわ!



 二次元の嫁は恥ずかしがり屋なので自分からは動かないし、自分から動く子は大体において電力供給が必要である。

 三次元の彼女はいない! 残念でした!



「はー……。考えてたら悲しくなってきた……。ぬぉあー! はあ…………くぅぁ……! ……ねっむ、まだ六時か……。…………少しだけ」



 そうして、乱暴にベッドイン。寂しく枕を抱きながら、まどろみに全部任せ目をつむった。

 夕暮れの陽射しが、俺と、部屋と、幼女を包む。その他もろもろも。

 これから一時間ほど寝て、夕食を食べてやることを消化し、また深夜に寝ては明日を待つ。

 明日はレポートを書いて、だらだらして、何気ない一日を過ごして、また次の日になって…………。







 そんな日々が、続くはずだった。



 


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