第2章4
・2021年9月5日付
細部調整
6月11日午前12時、お昼のニュースで最初に取り上げられたのは超有名アイドルグループのCD総売り上げが100兆円を越えたというニュースである。にわかには信じがたいのだが、国営のニュースが取り上げている位なので偽情報とは考えにくいだろう。その一方で、あるテレビ局は通販番組を放送しており、そこではエアコンの紹介がされていた。
【ブレない】
【何処も超有名アイドル絡みのニュースと思ったら、あのテレビ局だけが通販番組とは】
【これは、別の意味でも伝説と言えるのかもしれない】
【逆に超有名アイドル関連のニュースは、宣伝費をただにする為の話題つくりと言う話もある】
【それは本当なのか?】
【この詳細は定かではない。下手に超有名アイドルに関する批判を書こうと言うのであれば、別コンテンツを炎上させて超有名アイドルが神コンテンツであるという刷り込みを――】
【ある意味で洗――】
あるつぶやきに関しては削除されたような形跡があり、途中でつぶやきの読み込みがキャンセルされていた。この不自然な読み込みキャンセルに対し、言論弾圧等と言う様な勢力はいない。それが明日は我が身――という可能性もあったからである。実際はプロ市民の様な勢力が別コンテンツ勢のかませ犬を演じ、超有名アイドルの芸能事務所から報酬を受け取っている噂もある位だ。
午前12時30分、あるフィギュアを巡るニュースが話題となった。それは、あるSFアニメに登場していたエクスシアというパワードスーツのフィギュアである。
【エクスシアのフィギュア――今まで発見報告もなかったが、どういう事だ?】
【ターゲットにされていなかったというのもあるが、この写真を見る限りでは再販品ではないらしいな】
【再販と初版ではパッケージのイラストも違う。付属パーツは両方とも同じだが、初版の方が価値があると言う話だ】
【オークションサイトにも出回っていないのは?】
【出回っていないというよりは、出回らせないようにしていた可能性もある】
ネット上のつぶやきをタブレット端末で見ていた人物、それはコンビニの前で軽い食事を取っていたグラーフだった。グラーフはフィギュアハンターとしてはスコアが低い方である。トップランカーと比べるのは酷な話だが――。
その理由の一つがフィギュア回収率だった。グラーフは新参ハンターの中でもスコアは高く、中級辺りに所属できそうな程である。しかし、フィギュア回収率よりもライバル撃破等でスコアを補った結果として、昇格ノルマが足りない状態となり――初級クラスの1位という位置にいたのだ。
「これが、最大のターゲット――」
グラーフとしては、いつまでも初級の位置にいるわけにもいかない。島風あいかは上級クラスにいる以上、バトルを挑む為にも中級は欲しい所。そうした焦りが皆無と言われれば嘘になるが、今の状態を続けていても本当にハンターの実力が付いているのか疑問が残る。
「これを入手出来れば――」
しかし、ターゲットとなるフィギュアは発見できても、それが置かれている店舗を発見しなくては話にもならない。ハンターギルドのサイトを開き、そこでターゲット一覧を調べても、エクスシアの目撃情報は0件であり、情報求むが一週間は続いていた。
それを踏まえると、今回の話題になったニュースは誤報でなければ――昇格のチャンスにもつながる物である。
「これで、本当にランクが上がるのか? それに、このフィギュアには何の価値があるのだろうか――」
グラーフは興味のないジャンルに関しては完全にスルーしており、今回のターゲットもフィギュアを手にいれば昇格が出来る位にしか思っていない。
午前12時35分、コンビニの前でタブレット端末を操作しているグラーフを発見したのは、ラフな私服姿の島風だった。常にコスプレをしている訳でもなく、さすがにコスプレ不可の場所では行っていない。それが、コスプレイヤーとしても最低限のマナーと考えていたのである。
「フィギュアハンターなのに、ターゲットとなるフィギュアに興味を持たない――それでは転売屋組織や転売利益でCDを購入するアイドル投資家と同じね」
島風はグラーフの言葉に反応していた。さすがにフィギュアハンターなのにターゲットを事前に調べず、単にランク上げの道具等としか思っていないような発言――。本当に彼がフィギュアハンターに選ばれたハンターなのか島風は疑問に思うのも無理はないだろう。
「これだけは言っておくわ。どのようなジャンルであろうと、その状況を知らずに不用意な発言をする事――それは一種のプロ市民と言われるアイドルファンと同類に思われても――?」
島風は自分が話している途中に右手に装着したタブレット型のガジェットから、メッセージの着信音が鳴った事に気付いた。そして、慌ててメッセージを閲覧すると、そこにはエクスシアの入荷していると思われる店舗の地図が表示されていたのである。
その場所とは、草加駅近くにあるゲーセンだった。何故、ゲーセンがポイントとして表示されたのか――それは行ってみないと分からないが。
島風が去ってから、グラーフの方にもタブレット端末にメッセージが送られていた。その場所は、草加駅近くのフィギュア専門店を示している。島風が向かっている場所とは違う場所なのだが、それはグラーフ自身にも分からない。単純にエクスシアが入荷している場所に関しての候補を送っているだけなので、最終的な判断はメッセージを受け取ったハンターの判断にゆだねられる。
「自分は――どうすれば」
グラーフは考えても仕方ないと判断し、フィギュア専門店へ向かう。エクスシアに関して調べるのは、目的地に着いてからでも遅くはない。