ステーキレストランを作ろう⑤
僕は、最近ちょくちょく取れるようになった休みの日に、お出かけすることにした
休みに1日中部屋にひきこもっててもやることないし、つまんないからね。メニューを考える為にも気分転換は必要さ。
明日は近くの村にお出かけだ!
お店の野菜を作ってくれている農家さん達にご挨拶と御礼、あと何かいい新しい作物が無いか、聞いてみようと思う。
わくわくして、なかなか寝付けないなあ……
「しげるあんた、遅いわよ、社会人の常識として15分前集合よ!」
自作した懐中時計を見ながら賢者は、やれやれと呆れながら、遠くから走るしげるを見る。
「はぁはぁ、ごめんなさい。ちょっとだけ寝坊しました!」
頭を地面に擦る勢いで、繰り返し謝るしげる
「寝坊ねぇ、まったく。私達2人は先に来たのに。まあ、いいわ、私達を待たせた謝罪は馬車の中できっちりしてもらうから」
さぁ行くわよ、と 笑いながら馬車に乗り込む賢者
「申し訳ありません、しげる代表。わたしが代表を起こしてから、ご一緒に来ればこのような事は起きなかったのですが……」
思慮が足りませんでした、と申し訳無さそうな表情で謝る。レストランしげる仕入れ担当 フラン・ワーズ。
「いやいや、ワーズさんは何も悪くないですから! 遅刻した僕が社会人として、失格なだけですから……」
バツが悪そうにつぶやき、ワーズに延々と謝る。
「言い訳は道中聞くから、あんた達さっさと乗りなさい、遅刻した上にあんまり待たせるもんじゃないわよ!」
馬車の中から顔を出し、怒り顔の賢者がせっつく。
「「は、はいぃ」」
急いで馬車に乗り込むしげるとワーズであった。
元騎士フラン・ワーズ
魔王軍との戦いで負傷し、足に後遺症が残り魔王戦後退役。
父は文官であったが、武の才能に秀でていたワーズは騎士となる。騎士としての学術は学んでいたが、父のような文官としての才能や知はなく、退役後不自由なこの身体で、残りの人生をどうすればいいのか悩んでいた。
そんな時、父から勇者たちが王都に店を開き従業員を募集し、賢者が直々に教育を行っていること、後学の為に働いてみるのはどうかと勧められ、現在賢者の指導を受けながらレストランしげるの仕入れを担当している。
道中、お詫びの品を食べながらしげるたちは、キシリタール王国から北に10キロほどの位置にある、パステル村に到着。
出迎えてくれた村長にあいさつし、馬車を預かって貰い、その後、賢者を先頭にワーズの案内で村を歩く。
「賢者さん、この村の特産品とかウチの店によく売ってもらってる物ってあります?」
しげるは村をキョロキョロと観察する、出かけるのも初めてで、この村はわからない事だらけ、とりあえず使えそうな食材を聞く。
「そうね、この村は避難した影響で耕す人が少ないけど、農地と放牧地が多いわ、今はうち専門に季節毎、色々な生野菜を作って貰ってるわ」
手元の資料を見ながら賢者が答える。
「しげる代表、最近は魔物の影響も少なくなっているので、少量ではありますが、山に安全に入れるようになったので、山の幸や野生の獣なども納入されています」
近況の補足をワーズが付け足す。
「なるほど、色々ウチに売ってくれてるんだ、この村のみなさんには頭が上がらないや」
村に感謝の感想をつぶやく。
「ねぇ賢者さん、さっきの専門ってどこの農家さん、今からそこを見に行くんでしょ?」
村全体に広がる農地を見ながら、どこがその農家なのか疑問に思い尋ねる。
「どこじゃないわ、専門は言葉通りよ。専門っていうより独占かしら、わかりやすく言えばこの村ぜ〜んぶ私達の物、村人もほぼ従業員よ」
ぜ〜んぶと言いながら、自身の位置から指でパステル村を農地を山を、360度指す。
「しげる代表、この村は魔王軍の被害で廃村だったのを剣士様が材料の木材を、賢者様が資金を出し建物・環境を作り直し、戻って来た村人には仕事が無い為、従業員にしてださっています。権利関係も廃村となり価値が薄い為、安い金額で国所有だった村をまとめて賢者様が買われております」
そう言いながらワーズは、キシリタール王サイン入りの権利譲渡契約書を見せる。
「ぜ、ぜんぶ! この村が……まじで?」
契約書をマジマジと見ながら、賢者とワーズに確認する。
「マジよ」
「代表、本当です」
「どっひゃ〜!」
しげるの驚きの叫びが広大な農地にこだまするのであった……
その後驚くしげるに農地区画毎に作っている作物を説明、賢者とワーズはパステル村の、月の収穫量、耕作人の確保など今後の計画について確認しながら歩く。
「しげるに見せたかったのはココよ」
賢者が真新しい2棟の大きな建物を指差す
真新しい木材でできた2棟の建物
『家畜舎』
魔物の家畜の被害の心配が少なくなった為、本格的に家畜を育てる環境を整備した。
広さは牛が100頭ほど鶏を1000羽ほど飼育中だ。賢者主導で、いずれ足りなくなる店で消費する肉を補う目的である。
「野生の猪はいるけど、私達が知る家畜としての豚はこの世界にはいないわ。今は飼育しているのは牛と鶏だけなんだけど、しげる料理人として、豚肉がなくても大丈夫かしら?」
賢者は綺麗に整備され、たくさんの家畜がいる牛舎、鶏舎を説明しながら案内する。
「大丈夫です、でも賢者さんはホントにやることが早いし、的確ですね……」
豚肉が使えないという小さい問題より、肉が安定して手に入ることに安堵するのだが、
『僕の最近の悩みは一体』
そう思わずにはいられなかった……
「そう、ならよかったわ。豚を作るとなると交配やらで時間もかかるし、上手くいくかもわからないから。それにこっちの世界ではわからないけど豚が禁忌の教えもあるから」
神様に配慮しての考えである。
実際はわからないが、有名な教えを必要でもない限りわざわざ破る必要もないだろう。
その後、しげるは家畜舎で作った牛の乳製品類や鶏のたまごを、村で新しく栽培し始めた種類の農作物を【四次元倉庫】に入れ持ち帰り、店舗を増やす以上は、悩みの種だった食材不足からくるメニュー問題を解決し、王都へと帰った
『なんか、1人で勝手に不安になっちゃって
最近あたふたしてたけど、賢者さんとかホント色々考えてるんだなぁ……』
帰りの馬車の中、しげるは小さくため息混じりにつぶやく。
『解決したけど、僕なにもやってない……』