王城勤務門番 ダン
今日、オレは非番だ。
つーことで、数少ない楽しみである飯だ!
新しく食い物屋ができる、って聞いてそこに来てるんだが。
ーーおいおい
朝一番乗りだぜ、って思ってきたらめちゃくちゃ人が並んでんぞ……
こいつら、どんだけ前から来てんだよ!?
しまった、もっと早く来りゃよかったぜ
諦めて、国営のメシ屋にすっかなぁ。
そう思い来た道を戻る途中、見知ったやつが声をかけて来た。
「おーい、ダン。なにやってんだ?」
魔王との戦いが終わったてぇのに、重たい鎧をまといご苦労なやつだ。
そんな同期のジョーが話しかけてきた。
ジョーはオレと同じ村の出身で、同じ時期一緒に兵士の試験を受けた、だがジョーはオレと違い剣術の才能がズバ抜けていた為、早々にキシリタール王国騎士団に所属、今じゃ騎士団副団長様だ。
「よぉ、ジョー。あ、いやジョー副団長様
今日非番でよお。
新しくメシ屋が出来るって聞いて、行ったんだがめちゃくちゃ人がいてなぁ。
諦めて、いつもの国のメシ屋のほうにいく途中さ」
お前は? とジョーに聞く。
「副団長はよせ、ジョーでいいから……
奇遇だな、俺も非番だからそこに行くつもりだったんだが、でもそんなに混んでるのか
やはり噂通りなのか?」
顎に手を当て唸る。
「非番なら鎧脱いで出掛けろよ、おもてえのに。すげー並んでたぜ、ありゃ200人は居たな。なぁ? それよりウワサってなんだよ?」
教えろよ、とジョーを小突く
「200人、それは凄いな! 並んだら相当待ちそうだな。ウワサってお前知らないのか?
『勇者お抱えの料理人の店ができる』って話
そこそこ有名だぞ?」
そんな事も知らないのかと、あきれた表情を浮かべるジョー。
「しらねぇよ、下っぱ門番様には重要な情報がくんのはおせえんだよ!
で、ジョーお前はどうすんだ、並ぶのか?
並ぶってんなら、一緒に待ってやってもいいぜ、さみしいだろうからよ!」
「ひとりで待つのはお互い辛いからな。よし! 一緒に並ぶか」
笑いながら、ひとり歩き出す。
「お、おい!待ってよ……
お前がさみしくないようにだからな!
お互いじゃねー お・ま・え !」
ふざけんな、と言いながらも慌てて横をついていく。
しばらく歩き列の後方につく。
互いに昔村であった思い出、最近の生活・仕事、近況を話しながら待った。
「えぇ、うそ。あの子オレの事好きだったのかよ! 知らなかった……」
「鈍感なやつだな、あともうあの子結婚してるから後の祭りだがな?」
やっとオレ達の番がきた。
待ってる最中、店の前にナゼか勇者様パーティーの1人、剣士様がいて、ジョーがいつ迄もお礼の話を続けやがるし、剣士様にも迷惑だし、店の入り口で邪魔だ。付き合いきれねぇから、無理矢理ジョーを引っ張って入店した。
店の中に入ると、思い出が蘇る。
オレは昔、前の店主の時によく来た事がある
中年夫婦が仲良くやってた定食屋だった。
味もそこそこ、夫婦2人の愛想も良くていい店だった。
魔王軍との戦いで夫婦が店を売り払い、避難しちまったのは1年くらい前の話だ。
そんなオレのセンチメンタルな思い出は、すぐに吹き飛ばされた!!
「か、かわいすぎる」
テーブルに案内してくれた、笑顔満点の小さなカラダで赤髪ショートの妹系な彼女。
「び、美人すぎる」
水を出しオレ達にメニューをにっこり微笑み説明してくれた、長身ブロンドポニーテールのお姉さん系な彼女。
「や、優しすぎる」
オレが2人に見惚れていて、木のコップを倒し、水をごぼしてしまったら、すぐに気付き服を拭くものを持ってきてくれた、定食屋系お母さん。
『なるほど、これが天国か』
ハッ! しまった……
見た目に惑わされるところだった、メシ屋で肝心なのは味。
オレは昔、兵士となり最初の給金が出た時。王都で美人が相手してくれる酒場で、有り金全部を取られたことがある。
おそらく目でごまかし、味が悲惨にちげえねぇ。
値段も銅貨5枚で国営メシ屋と変わらねー
バカでもわかる
きっと安物の材料を使ってんだ、騙されねぇ。
早速きたな、疑惑の料理!
先にきたのはジョーが頼んだ料理。
ファイティング・ポークの香草焼きセット。
聞いたことがねぇ名前の肉だ。
いい匂いだがきっと安物だ、ちげえねぇ!
サラダ・スープ・パンはふむ、なかなか美味そうだが、問題はメインの肉だ。
ジョーは伊達に騎士様じゃねぇな。
マナーよく、ナイフとフォークで上手く切りながら口に運ぶ。
「こ、これは、そんな……」
ジョーは肉を飲み込み、フォーク・ナイフを持ったまま呟く。
へ、やっぱりな!
不味すぎてもう食えねえって事だな。
ひでえ店だぜ!
戦後直後で食料が少ねぇからって、美人でごまかし、多少不味くても我慢して食えって事か。
「いや、バカな。だが……これは」
もう一口食べ、驚愕の顔で呟く。
あ〜あ
ジョーったら『勇者お抱え料理人』って噂を
信じてたもんなぁ。
気持ちはわかるぜ、騙された感覚はなぁ!
「お待たせしました、こちらレッド・カウのステーキセットでございます」
美人な姉ちゃんが持ってきてくれる。
まぁ美人に免じて許してやるか!
値段も国のメシ屋と一緒だし、食べ物は貴重だ無駄にしたらバチがあたるぜ。
まったく期待してないオレの前に、雄々しい見事なミノタウルスの模様が入った、熱々の鉄板の上で、ジュージュー音を立てる赤身の分厚い肉。
レッド・カウステーキセットが置かれた。
「失礼します、ソースをおかけします
ソースが飛び跳ねますので、少しおいてからお召し上がりくださいませ」
ーージュワッ、いい音を立てソースが鉄板で飛び跳ね、オレの鼻に食欲をそそる香ばしい匂いがひろがる。
「ご注文は以上でお揃いでしょうか?」
「あ、あぁ……え? うん」
「ごゆっくりお召し上がりくださいませ」
な、なんだこれは!?
あきらかに美味そうだぞ。
いや、でも多分普段からいい物食ってるだろう、ジョーは不味そうな感じだったし。
「お、おい? ジョー ちょっと質も」
困った顔でジョーを見る。
言い終わる寸前、オレの話を遮るように突然 ジョーは立ち上がる。
「い、いや間違いない……これはそうだ!
昔騎士団で討伐した時食べたオークの肉だ!
こ、こんな高級品がなぜ?
しかもこの肉が漬け込まれたソース。
彩り・香りよく、肉の味を消さずかつ引き立てている。バランスが絶妙だ、間違いなく香辛料が少なくない量入っている。さらにおそらく、低級だが回復の薬草が入っている。な、なんということだ……」
しばらく立ったまま、オレの皿を見て呟く。
『ダンのアレは、あの鉄板の模様。まさかミノタウルスの肉? いや、そんなはずは』
や、やばい。
よこせとか言いそうだぞ、コイツ……
うん、さっさと食おう。
結論から言うとめちゃくちゃ美味かった。
あんな値段で美人で美味さで優しさで!
どうなってんだよ、この店は。
こりゃ明日からもっと人が並ぶだろうな、まぁ、オレも並ぶがな!
会計を済ました帰り際。
ジョーが呼び止められた。
なんでも予想以上に忙しくて、店がまわらない為礼金は払うのでなんとか騎士団の伝手で人手を貸して欲しいとの事だった。
うほっ、ラッキー!
かわいい&美人な彼女達2人に、お近づきになれるチャンスだぜ。
ジョーは騎士の模範解答のような。
『わかりました! 勇者様の料理人様の頼み。それに私達は非番ですし、手伝いますよ』
私じゃなく『達』って複数系な回答によりオレも自然に参加できる。
普段なら文句を言うが今日はナイスだぜ!
一緒に仲良く2人と、キャハハ・うふふな店内仕事ができる。
オレの働きっぷりに惚れんなよ!
「次のおねがいしまーす!」
「ダンさん、これもすみません!」
「はぁ……」
キャハハ・ウフフな仕事を期待したオレだが、キュキュ拭き拭きな仕事をしている。
「おい、ダン手が止まってるぞ!」
「うるせぇな、ジョー。
つーかてめぇ、何時まで鎧着てんだよ。
洗い場は狭めぇんだから脱げ!
ちけぇから鎧が、ガチャンガチャンうるせぇんだよ、くそが、水で錆びちまえ!」
「大した重さではないぞ、それに錆びんし
これも訓練のようなものだ、さぁいいから手を動かせ!」
「うっせぇ、洗ってらぁ!」
ちくしょう……
女の子2人と仲良く仕事する、俺の予定が。
なにが楽しくてこんな脳筋男と……
最悪の休日だぜ!
心ではそう思い、口喧嘩しながらも、なかなかいいコンビワークで、洗い物をこなすダンとジョーなのであった。