第8話 忘れぬ思い
「うっ……。なんだ……」
眩しい光が俺の顔を照らす。目を開けると目の前に、可愛らしい少女がいる。
「やっと起きたか」
「サラファ……?」
「もう朝じゃぞ」
「あ、眩しいのは太陽の光か」
そうか……と納得し、俺はまた夢の世界に行こうとする。
太陽の暖かさなのか、体がポカポカしてとても気持ちが良い。しかも、俺の頭は枕のように柔らかいもので保護されている。とても寝心地が良い。
「ん…? 枕?」
俺は起き上がり、頭の下にあったものの正体を見る。
「サ、サラファ!」
「なんじゃ。大きい声を出して」
枕のような柔らかいものはサラファの太ももだった。どうやら、俺はサラファに膝枕をされていたようだ。
「き、君みたいな、幼い少女が大人の男にこんなことをしたらいけません!」
「む……。嫌じゃったか。すまないの」
「いや、まぁ、なんていうか、そうじゃなくて……」
「じゃが、わしは幼くはないぞ! 前にも行ったが120歳じゃ! わしからしたら、おぬしの方が子どもじゃ!」
俺の心の問題というか……。というか、なんでこんなにドキドキしてるんだ。胸が苦しい……! しかも、こんな幼い子に膝枕をされて、顔が赤くなるなんて、これじゃあまるでロリコンじゃないか!
「そんなことよりわしは驚いたぞ!」
「なにが?」
「おぬしがモンスターを倒したことにじゃ。しかも、あの固い足をいとも簡単に切るなんて、すごかったぞ!」
「俺も驚いた……。まさか、俺があんな化け物を倒せるなんて」
ん? 固い足? 全然固くなかったけど……。俺の聞き間違いか?
「その、なんじゃ」
サラファは急に体をもじもじさせていた。
「なんだ? トイレか?」
「違うのじゃ。魂はトイレなどせんでもよい」
サラファは大きく咳払いをした。
「助けてくれて、ありがとう……。わしは嬉しかった。おぬしはわしを助けないと思っておったから……」
「お前の中で俺は結構酷い奴なのか?」
まぁ、確かに、今までの行動を思い出してみると、助けないと思われても仕方がない部分があるが。
「おぬしが無事で本当に良かった」
サラファの笑顔で言った言葉が余計に俺の顔を赤くさせた。
なんだよ。可愛いなぁ!
「おぬし、モンスターを倒した途端に意識をなくすから焦ったぞ。わしが落ちてくるおぬしを受け止めたから、何もなかったものの……危なかったぞ!」
「あ、あぁ。あのモンスター3mぐらいあったもんな。サラファがいて良かった」
そのことを聞いて、俺は思い出した。そう言えば……
「サラファ。なんでお前あの時、足から狙えって言ったんだ?」
「そりゃあ、決まっておるじゃろ! 体だけ異様にでかいくせに手と足は、あんなに細いのじゃぞ。足が一本なくなれば、バランスを崩し倒れると思ったからじゃ」
「あぁ。なるほど。頭も切れるなんて、魔王様はすごいな」
「む! おぬし、今なんと言った?」
「え? 魔王様はすごいなって……」
「やっと、わしのことを魔王と認めたか!」
サラファは魔王と言われたことが嬉しかったのか、腰に手を当てて歯を見せて笑っていた。
まぁ、あんだけすごい光景を見せられると、信じざるを得ないよな……。
「それよりさ、サラファ。お前が狙われていたのに、モンスターの近くに来るなよ。危ないだろ」
「すまぬ。おぬしのことが心配でいてもたってもいられなかったのじゃ……。」
あぁもう!なにこの子!超可愛い!俺の顔面がバーニングエクスプロージョン!(訳:焼けて爆発する)
「な、なにを言っておるのじゃ……」
「うわっ! 心の声が口に出る俺の悪癖がここでも出たか!」
「マグマのようにダラダラと出ておるな……」
そっぽを向き、そう呆れた様子で話すサラファだったが、顔を見ると俺と同じように顔を真っ赤にさせていた。
あぁ……。本当に守れて、良かったな……。
正直、昨日出会ったばかりの子……しかも自分のことを魔王と呼ぶ変な子にどうしてここまでの感情を持ったのかはわからない。
だけど、これだけはわかる。俺は、この子を助けたことを後悔することはないだろう。
この先、何があっても、この子を、サラファを守り続けようと誓った。
サラファが俺の顔を覗き込んできた。
「なんだ……?」
「ボーっとして、何を考えておるのじゃ?」
「いや、別に」
俺は、サラファの右頬を撫でた。サラファはきょとんとして、俺に尋ねる。
「なんじゃ? なにかついておるか?」
「傷、消えていると思って」
「あぁ。そんなことか。わしは魔力が豊富にあるからの。傷がついても、魔力で体を修復させることが出来るのじゃ」
「じゃあもうどこにも傷はないのか?」
「昨日受けた傷はもうないぞ」
「魔力ってすごいな……。」
「まぁ、すごい力というのは、疎まれることもあるのじゃが……。さぁ、村に帰るか! みんな、おぬしを心配しているであろう」
「じゃあ、道案内よろしく頼むな」
「任せておくのじゃ!」
俺はとあることに気が付いた。
「あ、ちょっと待って」
「なんじゃ?」
「短剣と盾はどこにあるんだ?」
「えーと、わしは触っておらんから、モンスターを倒したところに落ちたままじゃな」
「ちょっと、拾ってくる」
「どうしてじゃ?」
「そりゃあ、村の近くに刃物が落ちていたら危ないだろ。子どもや動物が怪我するだろ」
「ふぅむ。そうじゃな。何も考えておらぬと思っておったが、意外によく考えるではないか」
「やっぱりお前の中の俺は酷い奴なんだな」
「むむ……」
「そこは否定して欲しかったな」
「むぅ……」
「何か言えよ。それにさ、この短剣と盾を見るたびに今日のことを思い出せるだろ?」
「怖い思いをしたことか?」
俺は短剣と盾を拾い上げた。短剣と盾をまじまじと見てみる。短剣には、細かい傷が無数についていて、盾は、全面に焼けた跡があり、爪で引っ掻くと黒いかたまりがごっそり取れた。それは昨日、命がけで戦ったことを証明していた。
「それもあるけどさ、俺とサラファが出会ったこと。今日のことは絶対に忘れたくないんだ。」
「……」
「なんだよ……」
サラファは無言で前を向き、俺はいけないことを言ってしまったか?と一瞬不安になったが、次にサラファが言ったことで、その不安はなくなった。
「わしの方こそ、絶対、忘れんぞ」
サラファは俺の前を浮きながら、移動する。彼女が手で顔を拭っていたことは、見なかったことにした。
俺は前を歩くサラファの後ろ姿をじっと見つめた。その細く、小さな背中は、しっかりと俺の目に映っていて、俺の心を安堵させた。