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魔王が俺にとりついた!  作者: むのた
第一章
7/50

第7話  初めての戦闘

「とりあえずさ、これで涙拭けよ」


 俺は泣いているサラファにハンカチを差し出した。


「ありがとう。でも、よい……」

「なんでだよ。そんなに汚くないぞ」

「わしはそれに触ることが出来ないからの」

「あっ……。そうか」

「魂だけというのは不便じゃな。仮にも魔王と言われたわしが、あのような下等モンスターに手こずるとは……。情けないのぉ」

「だから、体を取り戻すんだろ?」

「そうじゃな……」


 下から突き上げられるような重く大きな音が近づいてくる。きっとあの不気味なモンスターだろう。


「サラファ、盾も貸してくれ」

「おぬし、本当に、本当に戦うのか……?」

「戦うから、貸してくれって言ってんだろ?もう短剣も持っているし、心の準備も出来ている」

「盾じゃ……」


 俺はサラファから盾を預かった。


「この盾って小さいな」

「確かに小さいが、その盾でも充分身を守ることが出来るぞ」

「本当か?」

「本当じゃ。しかし、おぬし本当に大丈夫なのか?」

「しつこいな。大丈夫だって」

「……」


 大丈夫かなんて、俺にもわからない。モンスターと戦うなんて生まれてから一度もなかったからわかるわけがない。だけど、この戦いだけは、もう逃げない。そう思うと、足の震えは自然と止まっていた。


「アクト、あのモンスターの頭上に紫の葉があるのが見えるか?」

「今はまだ遠いから、見えないけど……。紫の葉がどうしたんだ?」

「紫の葉がモンスターの弱点じゃ」

「わかった。紫の葉を切ればいいんだな?」

「そうじゃ。察しがいいの!」

「よし! じゃあ、紫の葉を狙ってくる!」


 俺は、立ち上がり音がする方向へ向かおうとする。すると、体が後ろに引っ張られた。


「サラファ? なんだよ?」


 サラファが俺の背中の皮膚を掴んでいた。


「痛い、痛い、皮膚を引っ張るなよ」

「仕方ないじゃろう! 服は触ることが出来ないのじゃ!」

「本当、不便だな」

「とにかく、気をつけるのじゃぞ……。危ないときは、逃げるのじゃぞ」

「ありがとう」


心配そうな表情で、俺に声をかけてくれるサラファ。

俺はこの子を守ってみせる……。



 モンスターと俺の距離は200m程離れている。俺はモンスターの後ろへ回り込んだ。短剣を片手で持ち、盾を構え、モンスターの後ろから少しずつ、少しずつ、にじり寄る。


 モンスターはまだ俺の存在に気づいていない様子で、ひたすら前進している。

 けど、モンスターが移動している先にはサラファがいる。サラファには近づけさせないようにしないと。

 良かったことに、モンスターは移動がゆっくりだ。体がでかい割には、足と手は細くバランスが悪い。それが、移動するのが遅い原因だろうか。

 このまま、ゆっくり近づこう。

 モンスターとの距離が徐々に近くなる。

 モンスターとの距離100m……。

 モンスターとの距離50m……。まだモンスターは俺に気が付かない。

 しかし、改めて見るとこのモンスターでかいな。3mはあるだろうか? 紫の葉は頭の先にある。どうやって頭の先についている紫の葉を切ろうか……。


「ぐぅぅぅぅぅぉぉぉぉ」


モンスターが奇妙な声を発しながら、動きを止めた。

なんだ……? もしかして、俺に気が付いたか?


「ぐぅぅぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 どうやら、俺の予想は当たっていたようだ。モンスターは俺の方を振り向き、光を放出させた。


「あの光は、もしかしなくても……」


 またしても俺の予想は当たってしまった。モンスターは炎のかたまりを出現させた。

 モンスターは現れた炎のかたまりを掴み、俺の方へ投げてきた。これまた、綺麗な曲線を描いて俺の顔めがけて飛んでくる。

 しかし、しっかりと曲線を描いてくれているおかげで、その間に防御をする姿勢がとれた。俺は、体を丸め小さな盾で顔を隠し、飛んでくる炎のかたまりを防いだ。

 炎のかたまりは以外に小さく、炎のかたまりが飛んでくる場所さえわかれば、俺の顔と同じぐらいだけの小さな盾でも簡単に防ぐことが出来た。


「サラファの言った通りだな……」


 モンスターはまた、光を放出し、炎のかたまりを出現させ、炎のかたまりを投げてきた。


「またかよ!」


 今度は顔の方ではなく、足の方に飛んでくる。小さな盾で足の方に飛んできた炎のかたまりを防いだ。


「防いだはいいが……!」


 背中を曲げ、不安定な態勢を取っていた俺は、炎のかたまりの反動を受け、バランスを崩し尻もちをついてしまった。


「しまった……!」


 やられる! そう思ったが、モンスターは3発目の炎のかたまりは出してこなかった。

 そればかりか、モンスターは体を左右に揺らし、まるで混乱しているような素振りを見せていた。


「ぐぉっ……。ぐぉっ……。ぐぉぉぉぉ」

「なんだ……?」


 俺は態勢を立て直し、モンスターの様子を見ることにした。


「……」


 モンスターが謎の行動をしてから一分が経った。一分と言っても俺の体内時計での一分だが……。

 モンスターは動きを止めた。


「ぐぅぅぅぅぉぉぉぉぉ」


 モンスターは重く低い声をうならせながら、光を放出し、炎のかたまりを出現させ、俺の顔の方に投げてくる。


「あいつ、こればっかりだな!」


 顔に飛んでくる炎のかたまりを盾で防ぐと、2発目がすぐさま飛んできた。2発目も顔の方に飛んできた。俺は、盾で顔を隠し、2発目も防いだ。

すると、モンスターは先ほどと同じように体を左右に揺らし、フラフラしていた。


「もしかして、あいつ。炎のかたまりを連続で出すと、混乱するのか?」


 俺はモンスターに短剣が届く距離まで近づいた。モンスターは俺の方を向かず、体を揺らしている。

 今ならいけるか……?

 しかし、今更ながら思うが3mも上にあるものをどうやって切ればいいんだ?


「足じゃ! まずは足を狙うんじゃあ!」

「その声は……」


 聞き覚えのある声の先を見ると、サラファが木から体を半分出し俺を見ていた。


「サラファ! なんで来たんだよ!」

「その話はあとじゃ! 早く足を切るのじゃ!」


 俺はサラファに言われ、短剣を強く握り、モンスターの足に剣を刺した。

 モンスターの足に短剣が刺さる。俺は拍子抜けした。ごつごつした足はもっと固いものだと思っていたからだ。意外なことにモンスターの足は柔らかく、力を入れずとも短剣が勝手に奥に入っていくようだ。短剣の柄がモンスターの足に当たった。短剣がモンスターの足にずっぽりと埋まっている。俺は短剣で、モンスターの足を勢いよく引き裂いた。


「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 足が一本になったモンスターは大声をあげ、大きな音と共に地面に崩れ落ちた。


「アクト! 今じゃ!」


 モンスターの体にある大きな窪みを足場にしながら、頭の先まで登っていく。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 頭の先に到着した。剣を握る力が更に強くなる。これで、俺はこいつを倒せるんだ。

 あの時、村に帰らなくて良かった。逃げなくて良かった。俺は、生まれてから今日、初めて、逃げなかった!

 俺はサラファを見る。未だ心配そうな表情をしている彼女を見て、俺の頬に一筋の涙が流れた。



「あの子を守れてよかった」



 そして、俺は短剣を振りかざし、モンスターの頭上にある紫の葉を切った。


「ぐぅぅぅぅぅぅ、ぉぉぉぉ、ぉぉぉぉぉ!」


 モンスターは悲鳴ともとらえらる声を出し、まばゆい光を発して消滅した。




 俺はあの子を……サラファを守ることが出来たんだ……。





 俺はそこで視界がかすみ、目の前が真っ暗になった。






いつもつたない文章を読んでいただき、ありがとうございます。

明日、明後日はお休みします。すみません。


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