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魔王が俺にとりついた!  作者: むのた
第一章
6/50

第6話  答え

 村へと続く道を真っ直ぐに走り続けた。

 あいつは、サラファは、三回もあの気味の悪いモンスターから命を守ってもらった。守ってもらっただけじゃない、俺を逃がしてくれた。

 サラファに口付けをされた額を触った。



『その証がある限り、おぬしはわしと離れることは出来ないのじゃ!』

『おぬしとわしはこの先ずっと一緒じゃ!!』



 サラファが言ったことを思いだす。


「ずっと一緒って言っていたじゃないか……」


 俺は首を横に振った。


「いやいや、何考えてんだ、俺。このまま、あいつに不気味なモンスターを任せて、俺は村に帰れば万事解決ばんじかいけつじゃないか。おばけだか、魔王だか意味の分からないことを言っている奴にとりつかれなくて済むんだ。そうだよ……これでいいんだ。これでいいんだよ」


 やっぱり、人生平和が一番だ。



『もっと上に行くんじゃろ? おぬしは、生きるのじゃ』



 サラファの言葉が俺の脳内で再生される。


「そうだよ。俺は、上に行くんだ。これは、上にいくための、成長するための、大切な逃げなんだ……」


 拳を強く握り、自分で自分に言い聞かせた。



『おぬしの帰りを待っている人がおるじゃろう?』



 そうだ。俺には、俺の帰りを待っている人がいる。母ちゃんや、妹、村のみんな……!



『しかし、あれじゃ……。わしは100年間ずっと一人だったから、そのように声をかけてくれる者はいなかった。だから、そのように心配をしてくれることは嬉しく思うのじゃ』



 サラファは……? サラファの帰りを待っている人はいないのか? サラファはずっと100年の間一人だった。サラファは誰にも気づかれることなく、死んでしまうのか……? いや、そもそも魂だけだからもう死んでいるのか? いや、そんなことはどうでもいいんだ。

 俺は、あんな小さな少女を見捨てるのか?

 自分だけが助かるために……?


「俺は、何のために、体力を温存していたんだ? 逃げるためか?」


違う……。違う……。


「自分だけが助かるためか?」


違う……。違う……。



『アクト。さようなら』



 サラファの最後の声が脳内から離れない。泣くのを必死にこらえているのであろうか、何かを押し殺した声で震えながら、小さく呟いていたあの声が。



 俺は、俺は、




「あの子を、サラファを……助けなきゃいけない!」


 俺は、足を止め、後ろを振り返り、サラファが、モンスターがいた場所へ引き返す。

 太陽は完全に姿をなくし、暗闇だけの世界をひた走る。


(逃げてはいけない。今日は、今日だけは、絶対に逃げてはいけない)

 誰かが俺の頭の中で喋っている。正体不明のその声が脳内に鳴り響き、頭がズキズキと痛む。


「サラファ……。待ってろよ!」




 遠くの方で眩しく光った。きっと、まだ戦っているんだろう。


「良かった。間に合った……」


 その瞬間、俺の瞳にキラリと光るものが映った。その光は俺の顔めがけて飛んできた。

 俺は、反射的にしゃがみその光るものを間一髪のところで避けた。


「ひぃぃ!」


 俺は恐る恐る、振り返ると俺の後ろにあった木に短剣がぶっ刺さっていた。


「これは、サラファが持っていた短剣?」


 次の瞬間、俺の背中に何かが覆いかぶさってきた。かすかに感じられた重さで、俺はバランスを崩し、地面に倒れこむ。


「痛っ! なんだよ」

「うむ……」


 俺はその声を聞きハッとした。そして、背中に乗っている少女を見た。その少女は手や足、顔にも傷がついていた。そのうえ、少女が持っている小さな盾は全体的に黒くなっていて焦げ臭いにおいがした。


「サラファ」

「うむ?その声は……」

「サラファ。俺さ、」

「ア、アクト……。ど、どうして戻ってきたんじゃあ」


 サラファは目を見開き、紅く潤んだ瞳で俺を見ていた。俺はサラファの方に向き直し、傷がついているサラファの右頬を優しくでた。


「サラファを助けにきたんだ」


 サラファは息をみ、大粒の涙を流した。


「馬鹿じゃ! おぬしに何ができるんじゃ!」


 サラファは涙を流しながら叫んだ。


「わしは、助けてほしいなんて頼んでいない!」


 サラファは叫ぶ。


「おぬしが、わしのために死ぬことはないのじゃ!」


 サラファは叫ぶ。


「今すぐ逃げるのじゃ! 今すぐ、村へ帰るのじゃ!」


 サラファは叫ぶ。


「わしは、もう、死なせたくはないのじゃ……」


 サラファは弱弱しい声で呟いた。


「サラファ、そろそろどいてくれないか」

「えっ、あぁ、すまん……。重たかったかの……」


 俺がそう言うと、サラファは俺の上から退き、申し訳なさそうにしていた。


「魂なんだから、重くはないだろ? そうじゃなくてさ」


 俺は、木にぶっ刺さっている短剣を抜いた。短剣は俺の家の包丁より軽く、使いやすそうだ。


「この短剣を取りたかったんだよ」

「おぬし、まさか……」

「俺は、あのモンスターと戦う」

「む、無理じゃ! おぬしは普通の人間じゃ! 死んでも知らんぞ!」


「あー……。悪い。今の俺にはそんな言葉、聞こえないんだ。何故なら、俺は耳障りなことを聞けなくする能力『ノイズキャンセラー』があるからな」


 俺は不安でいっぱいな心を押し隠し、サラファに向けて笑った。



「本当にっ……その能力は、都合のよいときしか、発動せんなぁ……」



 サラファは涙を流しながら、口元を緩ませていた。






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