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魔王が俺にとりついた!  作者: むのた
第一章
44/50

第44話 本体

 カモウィザードが手の縄を解いてくれたおかげで自由になった。自由になった手でズボンのベルトにさしてある短剣を抜き、縛られている縄を切った。


「アクトくん、イズ様のが解けたら僕のもお願い」

「あぁ、わかった」


 イズとクレンフルの縄も短剣で切る。縄には宝石のような石がついてある。これが魔力封印装置の元なのだろうか。


「ありがとうございます」

「ありがとう」


 クレンフルが自らを縛っていた縄をまじまじと見ている。


「その宝石みたいな石が魔力封印装置みたいだ」

「これが『魔力封印装置?』こんな石で魔力が封印出来るなんてすごいね。……一応、貰っておこうかな」


 クレンフルはボソッと呟いた後、俺に笑顔を向けた。


「武器は取り上げられてなくて良かったね。僕の杖もちゃんとあるし」

「本当だな。こういう時って武器とか全部取られてそうなのにな」


 短剣と盾はちゃんと俺の手元にある。これがあるだけで気持ちが少し楽になれる。

 縄が解けたイズは静かに立ち上がった。


「では、みなさん、後ろに下がっていてください。今からこの鉄格子てつごうしを破壊します」

「イズ、魔法を使う気か!? 止めとけって! さっき血を吐いていたじゃないか!?」

「そうですよイズ様。イズ様のお体に触ります!」

「少し休んだから大丈夫です」


 水が出現する。水は圧縮され紐のように細くなり中で渦巻いている。イズが手を前に動かすと宙に浮いている水は動き出し、鉄格子てつごうしを切断していく。音を立てず慎重に切断している様子だ。硬そうな鉄格子てつごうしは簡単に切断されていき、あっという間に人が一人出られるようになった。


「魔法ってすげーな」

「お体は大丈夫ですか?」

「えぇ。大丈夫です」

「サラファを探そう」

「うん」

「はい」


 一人ずつ牢屋の外へ出る。

 俺達の頭上で切れかけた電灯がチカチカしている。点滅している電灯程鬱陶(うっとう)しいものはない。だけど、今はその光のおかげで部屋全体がよく見えている。

 牢屋を出ると、すぐ近くに上へ行く階段がある。


「……また魔法を使ってくるのでしょうか?」


 クレンフルが弱弱しい声で呟いた。


「そうですね。相手が魔法を使う可能性は高いでしょう」

「また、あの臭い魔法が出るのか?」

「あの臭いはサイが契約しているモンスターの臭いでしょう。正確にいうと魔法ではありません」

「契約? モンスターと?」

「魔族は本来モンスターと契約を結ぶのが主流でした。モンスターと主従関係を結ぶというのでしょうか。まぁ、最近の若い子たちはモンスターと契約なんてしていないのですが」

「イズ様も、『水龍』と契約しているということですか?」

「えぇ。私も『水龍』と呼ばれるモンスターと契約をしています。しかし、今は訳あって私の元にはいません」


 人間との契約の概念がいねんはないが、モンスターとの契約はあるってことか。

 モンスターと契約。あんな恐ろしい化け物と契約なんて、魔族って本当に何なんだろうか。人間が恐れるっているのもわかる気がする。


「先程の少年がイズ様に向けて、魔法を使うと体に負担がかかるって言っていましたけれど、それはモンスターと契約しているからですか?」

「はい。モンスターと魔族はある意味で対等です。魔族が契約しているモンスターに自身の魔力を与える。モンスターは与えられた魔力で魔族に応える。その関係が成り立っているからこそ魔族はより強くなれる。ですが、『水龍』を奪われた私は魔力の需要と供給があまりに不安定なんです。私は今も『水龍』に魔力を与え続けています。しかし『水龍』は答えてくれません。その不安定さのせいで、今の私はあまり強い魔法は使えないのです」

「イズ様の、水龍……」

「要は、今のイズは本来の力を出せていないということか?」

「簡単に言うとそうなります」


 イズが抱えている物……。それの負担がどれ程のものかわからなかったし、知らなかった。正直、今もよくわかっていない部分は多い。わかることはこれだけ。今までイズには負担ばかりかけていたということだ。そして、これからはイズに負担ばかりかけさせないようにするんだ。


「あと、魔法のことなのですが」

「何だ?」

「私の目とクレンフルさんの目は青色です」

「それがどうかしたのか?」

「魔法の属性は目の色で変わるのです」

「……?」

「例外もあるのですが、青色の瞳は水魔法が主です」

「つまり、目が青色の奴は水魔法を使うということか?」

「魔力が少ない方は素質を持っていたとしても使いこなせないのですが、そういうことです」

「さっきの奴らは緑色の瞳だった」

「緑の瞳は、植物か風魔法が主です。ネイとヨイは植物魔法です」


 魔法って色々あるんだな


「他にも様々な属性があります。あと、シーナの瞳は紅色です」

「……サラファも紅色だ」

「紅色は魔王といわれるものだけが持つ特殊な色です」

「どんな、魔法を使ってくるんだ?」

「わかりません」

「わ、わからない?」

「ただ、厄介な魔法だということはわかります」

「キュイキュイ」


 クレンフルの頭の上に乗っているカモウィザードが首を傾げて鳴いた。


「カモウィザード、ここからは危険だからローブの中にお入り」

「キュイ」


 カモウィザードは素直にクレンフルの黒いローブの中に入っていった。











 牢屋から出て階段を上ると、電灯の点滅はなく明るい廊下が続いている。岩の壁が涼しさを与えているのだろうかひんやりとする。静かな空間。人の声も動物の声も何も聞こえない。


「サラファはどこにいるんだ」

「サラファの魔力を感じます」

「本当か!?」

「イズ様、サラファはどちらにいるんですか?」

「とても大きな魔力。サラファの本来の魔力ですね……」


 イズは険しい顔をしながら、明るい廊下を進む。まるで何かに引き寄せられているような感じだ。俺とクレンフルはそんなイズの後ろについて歩く。

 ここは、シーナの屋敷の中なのだろうか? そう疑問に思っていると広いロビーのような場所に行きついた。ロビーの真ん中に銅像が置かれているのを発見した。東の魔王シーナともう一人見たことのない女性の銅像だ。


「……悪趣味な銅像ですね」


 不快そうな顔をしたイズが吐き捨てるように言った。


「知っているのか?」

「これは……」

「てめぇら、抜け出してきやがったかァ!」


 いきなりの怒声。広いロビーから上へと続く螺旋らせん階段の方からだ。

 螺旋らせん階段から俺達を見下ろしているオレンジ色の髪をした女性は不敵な笑みを浮かべていた。――東の魔王シーナだ。


「……!」


 ――そしてその横には縄で縛られたサラファがいた。


「サラファ……!」

「アクト! イズ! クレンフル!」


 サラファは泣きそうな顔をして叫ぶ。

 サラファの元へ向かって走る。走ろうとしたが、走れない。何者かが俺の体を引っ張っている。邪魔なものを振り解こうと腕を必死に動かすが微動だにしない。こんなときに邪魔をする奴は誰だよ……! そう思い俺の動きを止めている奴を見ると、そこには草。――植物のつるだ。さっきまでは生えていなかったはずの石の床から植物のつるが生えている。植物のつるは俺の腕、足に絡まり縛りつけてくる。俺ばかりでなくイズやクレンフルも植物に捕まっていた。通常の植物のつるよりも太くしっかりとしているためか振り解くことが出来ず身動きが取れない。


「今度こそ、ワタクシたちのおてがらねん!」

「お姉ちゃん、やったよん!」


 石の床から生えた植物のつるは全長六メートル程ありそうな螺旋らせん階段の真ん中ぐらいに向かって伸びていき、女の子二人を連れて地上に戻ってくる。降りてきたのは、手を繋いだネイとヨイだった。ネイとヨイの足が地上に着くと二人の胴体に巻き付いていた植物のつるは二人から離れて光を放ちながら消えていった。

 恐らく、この魔法はネイとヨイのものだろう。


「ネイ、ヨイ、やるじゃねぇかァ」

「このぐらいのことは普通さね」


 ネイとヨイの後からゆっくりと螺旋らせん階段を降りてくるのは東の魔王シーナとサイ。それと、縄で縛られているサラファ――


「サラファ!」

「アクト!」

「暴れんじゃねぇよ!」


 サラファは俺達の元へ駆け寄ろうとしたが、縄に縛られているせいでそれは叶わず……。サラファを縛っている縄をシーナが強く引っ張るとサラファは苦しそうに唸った。


「止めろ! 乱暴にするな!」

「縛られて可哀想に……」

「アクト、みんな、すまぬ!」

「シーナ! サラファをどうするつもりですか?」

「どうするだァ? 何でてめぇらにそんなこと教えなきゃいけねぇんだよォ!」


 ――俺に違和感が走った。


「……!」


 サラファの足が床についている。浮いていない。しかも、半透明ではない。いつも綺麗だった純白のドレスは土で汚れている。ドレスだけではく、腕や足も汚れている。


「体が、戻って……」

「そうじゃ。シーナの言っていた通り、わしの体はこの屋敷の中にあった」

「サラファ……。戻ったんだな……」

「魂と体は一つになった。わしは、体を取り戻したのじゃ」

「サラファ。サラファ、サラファ、良かったな……。良かったなぁ……」


 サラファの体が戻った。そのことで胸が熱くなり苦しくなる。自然と涙が溢れてきた。


「なに喜んでるんだよォ。泣きやがって、だせぇなァ」


 シーナが喉を鳴らして笑った。


「クソ幼女の体が戻ったって言ってもな、てめぇらの元に戻る訳じゃねぇんだよ」

「シーナ……。サラファをどうするつもりなんですか?」

「ハッ! 何回も同じことを聞くんじゃねぇよ! てめぇらには教えねぇって言ってんだろうがよォ!」


 イズはいつもの二倍恐ろしい表情をしてシーナを睨んでいる。シーナはそんなイズの顔なんて気にしていないように笑う。


「シーナ様の言うとおり、敵に教えることなんてないねん! 実はルべリア様のめいれいだなんて言わないねん!」

「そうだよん! ルべリア様のためなんて、ぜったいに言わないよん!」

「あーあ、言っちゃったさー。仕方のない妹達さね」

「「あ……(ねん)(よん)」」


 ネイとヨイは『しまった』と言わんばかりに目を見開いて片手で口を覆った。そんな様子を見て、隣にいるサイが唇の右端を上げた。

 というよりか、ルべリア? 誰だそれは。

 イズはその人物を知っているのだろうか、その名前を聞いた途端一段と怖い表情になっていた。


「西の魔王ルべリアが絡んでいるのですね」

「ネイ、ヨイ! てめぇらは秘密ごとをベラベラと喋りやがって!」

「「ご、ごめんなさい~(ねん)(よん)」」


 西の魔王? ルべリアっていう奴は西の魔王ということか?


「あ、でもでも、半年前にサラファの体をうばったときにシーナ様がサラファの体を落としちゃったのはまだ、しゃべってないねん!」

「ずっと落とした体をさがしていたから、今まで時間がかかっちゃったんだよん。シーナ様はドジっ子だよん」

「てめぇら……」

「「あ……(ねん)(よん)」」


 ネイとヨイはまた『しまった』という顔をして顔を見合わせる。シーナは手を腰に当てて顔を歪ませている。


「……ったく、お前達のすぐ喋る癖は悩みのタネだぜェ」

「「植物だけに~? (ねん)(よん)」」

「上手いこと喋れなんて言ってねぇんだよォ!」


 何だろうか……。こいつら、魔王とか魔王の配下だとかいうのに、そんなに怖そうではない。会話の中身なんてまるで漫才みたいだ。

 ……どちらかというと、あのサイっていう奴の方が独特な雰囲気を出していて怖いような気がする。そう考えていると、サイが俺の方を見てほくそ笑んだ。


「シーナ様ー。もうお喋りはその辺にして、この人達さっさと倒してくださいさー」

「そうだねん! この敵達、シーナ様のペット達をたおしたんだねん!」

「おしおきするべきだよん!」


 サイ、ネイ、ヨイがシーナに向けて放った言葉の直後、シーナは俺達を鋭い眼光で睨みつける。


「なんだとォ……!? アタシのチュウ達をかァ!?」

「チ、チュウって何だ?」

「「虫のモンスター達のことだ(ねん!)(よん!)」」


 虫のモンスター。さっき遭遇してしまったダンゴムシ達のことか? きっとそうなのだろう。


「てめぇらァ。舐めやがってェ……」


 紅い瞳が俺を捉える。

 ……さっきの言葉は訂正だ。やはり怖い。紅い瞳の圧迫感。鈍く光る紅い瞳はギラギラとしている。サラファも紅い瞳だがサラファとは違う色。シーナの瞳の奥には憎悪が渦巻いているように見える。


「……!」


 虫のモンスターを倒したことでこんなに怒っているのか?

 しかし、こんなところで倒される訳にはいかない。あともう少しで本当の意味でサラファの体を取り戻せるんだ。

 ――俺は、俺達はサラファを助けるんだ。






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