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魔王が俺にとりついた!  作者: むのた
第一章
42/50

第42話 ネイとヨイ

 鬱蒼うっそうとしたジャングルの中で遭遇した巨大な虫型のモンスター達を一度に倒し、東の魔王シーナの屋敷に行くため――サラファの体を取り戻すため、俺達は険しい道を進んでいる。

 ジャングルの中は、太く長い木々が空を覆っているせいか薄暗く、他にもモンスターが生息しているのか、動物の鳴き声みたいな音が響いている。大木の根本には如何にも毒がありそうな色をしたキノコが生えている。


「また、モンスターとかが襲ってくるのだろうか……」


 そう思うとゲッソリする。


「早く、こんなクソみたいなところ抜け出したいですね」


 イズが吐き捨ているように言う。いつもの二倍ぐらい恐ろしいオーラを出している。出来れば、今のイズとはお近づきになりたくないので、歩く速度を遅らせイズとの距離を少し離す。

 俺の前でクレンフルがイズの様子を見て、メモを取っている。

 俺の右斜め後ろにいるサラファの方を見ると……


「サラファ?」

「……」


 緊張しているのか不安なのか、それとも怖いのか……拳を強く握り、潤んだ瞳で空を見上げ眉をひそめて口をつぐんでいる。


「……サラファ……」

「な、なんじゃ」


 声をかけると我に返ったように、肩をビクつかせて大きめの声で返事をした。力の入ったサラファの拳を手に取ると、驚いたように目が開いた。

 サラファの手は少し震えている。


「俺が……」

「……?」

「俺だけじゃない。イズやクレンフル……みんないる。みんな、サラファの味方だからな」


 強く握っていた拳は力が抜けていく。俺は力が抜けた手を包み込むように握った。

 サラファは口元を緩め、目を細める。


「うむ……!」


 この先何が起こるかわからないこの現状。正直、不安だ。

 だけど、一番不安なのは――


「サラファ、絶対に体を取り戻すぞ!」

「よろしく頼むのじゃ……!」










 海からこの島を見たときはそこまで広いと思っていなかったが、いざ上陸してみると結構広い。その上、ジャングルのような険しく歩きづらい道。いつモンスターが出現しても可笑しくないような雰囲気。時間が経つにつれて体力と精神力が消耗していく。俺達の目の前に屋敷というか、人が作ったような建造物なんて見えてこない。

 本当に、この島に東の魔王シーナの屋敷があるのだろうか、疑いたくなってくる……。


「本当にこの島に東の魔王シーナはいるのか……?」

「います」

「何でそう言い切れるんだ?」

「魔力を感じるのです」

「魔力? サラファ、クレンフル感じるか?」


 俺は、全く感じない。


「僕は、ハーフだから魔力を感じ取ることは出来ないんだ。ごめんね」

「わしも、魔力を消耗しているからか、あまりわからぬ……」

「二人もこう言っているぞ」

「私は感じます」


 虫がいないか確認をしているのだろうか。イズはさっきから周りを気にしている。顔は引きつったままだ。


「魔力が近づいてきます」

「……えっ」


 イズの急な発言に驚いた。驚いたのは俺だけではないはずだ。サラファとクレンフルも小さく声を上げて辺りを見渡している。


「また、さっきの虫達か?」

「いいえ、違います。もっと違う魔力ですね」

「違う魔力って何だ?」

「魔族です」

「魔族!?」

「ふむ。シーナか?」

「シーナではなさそうです。というより、どうしてサラファとアクトさんは手を繋いでいるのですか?」

「えっ……」

「むっ……」


 イズに言われて、思わず手を離してしまう。そうだ。サラファの緊張を和らげるために手を取ったときから、ずっと繋いだままだった。

 何だか恥ずかしくなって、赤面する。サラファも俺と同様に、手を後ろで組み目を泳がせて顔を真っ赤にしていた。

 クレンフルが朗らかに笑った。


「二人は、本当に仲がいいね」

「あはは……」

「ぬぅ」

「……!」


 ――突如、足に何かが絡みついた。

 何だろうかと思い足元を見ると、膝まで伸びていた草が俺の足に巻き付いていた。草から足を引っこ抜こうとしたが、巻き付く力が強く微動だにしない。それどころか、足を動かすたびに巻き付く力が強くなっていく。

 反射的に短剣を手に持つ。


「……っ! 何だこれ!」

「これは、魔法です」

「魔法……!?」

「しかし、厄介ですね」


 イズが苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 俺達の前方にある伸びきった草が二つに分かれ、茶色い地面が見えた。まるで人が通る道を作っているようだ。

 土を蹴るような音が聞こえてくる。音は、次第に近くなってくる。

 ――この魔法を使う奴らだろうか。音がする方向を見据える。


「シーナ様のペット達をたおすなんてわるい敵だねん!」

「シーナ様はぷんすかするよん!」


 高音で子どもっぽい声。舌足らずな話し方。独特な語尾。


「だいたい、敵のふところの中にいるのに、緊張が足りてないねん!」

「お姉ちゃんの言うとおりだよん!」

「えっ……」


 拍子抜けだ。

 魔法を使う魔族、どんな恐ろしい奴が出てくるのかと思っていた。俺の目の前にいるのは、サラファよりも少し幼い子どものような外見をした女の子二人組だ。仲が良さそうに手を繋いでいる。

 前髪をきっちりと切りそろえたボブヘア。緑色の髪。大きくクリッとした黄緑色の瞳。フリルがついた白ブラウスに赤と緑のチェック柄のサロペットを着ており生足が神々しい……。いや、何でもない。とにかく、顔がよく似ている。双子なのだろうか?


「自己紹介するねん! ワタクシの名前はネイ。東の魔王シーナ様に仕えている魔族だねん!」

「ワタシの名前はヨイ。ワタシもシーナ様に仕えている魔族だよん」

「ワタクシたちは……」

「ワタシたちは……」

「「双子だ(ねん!)(よん!)」」

「……?」


 二人とも容姿が似ているし着ている服も同じ。見分けがつかない。

 

「ワタクシたちの見分け方はねん。語尾に『~ねん』とつけるのが、姉のネイだねん♪」

「そして、語尾に『~よん』とつけるのが、妹のヨイだよん♪」

「敵に教えるなんて、ワタクシたちは何て親切なんだろうねん!」

「さすが、ふところの大きいワタシたちだよん!」

「そんなわけで……」

「そんなわけで……」

「「以後、おみしりおきだ(ねん!)(よん!)」」

「……」

「……」

「……」

「……」


 沈黙……。


「あ、あれれ~? どうしたねん?」

「お姉ちゃん、全然この人達こわがってないよん~!」


 双子のネイとヨイが顔を見合わせて困った表情をしていた。


「シーナ様が、一発かましてやれって言ったから、きしゅうをしかけたのにねん……」

「ガッカリだよん」


 ご丁寧に挨拶をしてくれている間に……足に巻き付いていた草を短剣で切り離すことが出来た。もう足に不自由なものは巻き付いていない。自由に動くことが出来る。

 しかし、短剣であの可愛い子達を傷つけるのは如何なものか……。それは、出来るだけやりたくない。

 短剣をズボンのベルトに戻し、あの女の子達にバレないように目だけを動かして地面に何か良い物がないかと探すと、俺の足元に太くしっかりとした木の枝が落ちていた。

 太くしっかりとした木の枝をゆっくりと気づかれないように拾う――


「そこのきみー! 何をたくらんでいるねん!」

「動きがあやしいよん!」


 ――バレた!


「ワタクシ達のじゃまはさせないねん!」

「ワタシ達二人だけで、サラファをとらえるんだよん!」

「「力を合わせてがんばる(ねん!)(よん!)」」


 ネイとヨイの二人はお互いの手を繋いだまま眩い光を放出させた。


「な、何が、起きるんだ……!」

「魔法攻撃でしょう」

「イズ様、何魔法でしょうか!?」

「あれは、恐らく……」


 ネイとヨイの周りに生えている草が揺れている。だけど、風にあおられて揺れているのではない。草は自らの意思で動いているのではないかと思うぐらいに左右に激しく動いている。草は膝ぐらいまでしか伸びていなかったのに、ネイとヨイの周りの草だけは急成長を遂げて俺の身長を軽く超えるぐらいの長さになっていた。


「植物魔法ですね」

「ま、まじか……」


 急成長した草は俺達の方へ向かってきた。

 薄くてペラペラなただの草だったはずなのに、今俺達を襲ってくる草はモンスターのようだ。容赦なく俺達を叩き潰そうとしてくる。


「くっ、くそ!」

「離すのじゃー!」

「……!」


 サラファの叫び声が聞こえた。嫌な予感がする。

 もしかして……


「やったねん! サラファをとらえることができたねん!」

「これが、ワタシたちの力だよん!」

「「ミッションせいこうだ(ねん!)(よん!)」」


 前を見ると、ネイとヨイのすぐ隣で体中を草に巻き付けられているサラファがいた。

 何てことだ……。サラファが呆気なく的に捕まってしまった。


「あ、あぁ、サラ、ファ……」

「サラファ!」

「……っ! 水よ!」

「いけません。クレンフルさん!」

「イズ様!?」

「相手は、植物魔法使いです。戦闘においては、水魔法は植物魔法との相性が最悪なんです。水魔法で攻撃をしても植物が水を吸収してしまい、更に成長してしまうのです」

「そんな……!」

「サ、サラファ……。サラファ……」


 体を取り戻すって……約束したんだ。必ず、取り戻すって。

 体を取り戻したら、一緒に王都に行くんだ。王都観光をするんだ……。

 そうなんだ。体を取り戻すんだ。体を取り戻す。体を取り戻す。


「ア、アクト、くん……?」

「こんなときに、ブツブツと現実逃避ですか?」


 違う。現実逃避なんかじゃない。


「サラファ……。サラファ、サラファー」

「アクトくん、しっかりしなよ!」

「アクトさん! いい加減にしてください!」


 俺は、しっかりとしている。意識もちゃんとあるんだ。

 だけど、この考えしか、頭にない。


「サラファを」


 助けるんだ。


「助けるんだぁぁぁぁぁぁぁ!」

「アクトォ!」


 俺は、耳障りなことを聞こえなくする能力『ノイズキャンセラー』を発動させた。

 周りの声なんて何も聞こえない。俺を止める声なんて聞こえない。俺はサラファの声しか聞こえない。サラファの姿しか見えない。


「……!?」

「……!!」


 俺は、サラファを助けるんだ!

 ただ、それだけだ……!


「へ、へんしつしゃがこっちに向かってきたねん!?」

「お姉ちゃん! こ、こわいよん!?」


 ネイとヨイに向かって走って行く。

 木の枝を強く握りしめる。


「アクト! 眩しくなるぞ!」

「……! サラファ!」


 サラファの顔を見た。薄らぼやけていてあまり見えなかったが、サラファは笑っていた。――俺もつられて笑う。

 サラファがこれから行おうとしていることが、わかったんだ。

 俺は、静かに目をつぶった。


「サラファ――」

「――アクト」

「「信じている」」


 暗闇の中から眩い光が現れる。目をつぶっていてもわかる。これは、サラファの放出する光だ。それは今までのどの光よりも温かく、優しく、とても綺麗だろう。

 静かに目を開ける。

 ネイとヨイが眩しさのあまり目をつぶっていた。


「こ、この光はなんだねん!」

「お姉ちゃん~! 目がいたいよん!」


 ネイとヨイ。手を繋いでいる二人を引き離すように、二人の手を木の枝で思いっ切り叩く。

 少し痛いだろうが、俺も手を抜いてあげる程余裕がある訳じゃないんだ。

 悲鳴のような声を上げて二人の手が離れていく。やはり、痛かったようだ。


「ごめんな」


 二人の手が離れた瞬間、俺の身長を越していた草が小さくなり元の姿に戻った。

 体に巻き付いていた草から解放されて、サラファが俺の胸に飛び込んできた。


「サラファ!」

「アクト、すごいのじゃ!」


 お互いに微笑み合う。


「あとちょっとだったのに、くやしいねん!」

「お姉ちゃん、また力を合わせるよん!」

「「そうだ(ねん!)(よん!)」」


 ネイとヨイがまた手を繋ごうとする。そんなことはさせない。俺は二人の間を裂くように木の枝で二人が手を繋ごうとするのを阻止した。


「手をつながせるねん!」

「つながないと魔法が使えないよん!」

「コラ、ヨイ! それは言ってはだめだねん!」

「あっ、いっ、言っちゃったよん……」


 ――ずっと手を繋いでいたから怪しいと思っていたんだ。手を離すと魔法の効果がなくなるのか……手を狙ってよかった。

 まぁ、取り敢えず


「サラファを、返してもらうぞ!」

「う~~! はらたつねん! はらたつねん!」

「も~~! むかつくよん! むかつくよん!」


 ネイとヨイはお菓子を買ってもらえない駄々っ子のように地面に寝転がって手足をバタバタと動かしている。


「おいおい、あんまり動くと手に木の枝が刺さるぞ」

「ふ~んだねん!」

「バーカバーカだよん!」


 言っている側から、ヨイの手が木の枝の尖った部分に刺さった。……いや、ネイか?


「い、いたいよん! いしゃりょうをせいきゅうするよん!」


 『よん』と言っているからヨイか。ヨイは涙を流しながら木の枝に刺さってしまった手を撫でていた。

 ……魔族というのは、もっと、こう、恐ろしいものだと思っていた。魔王に仕えていると言っていたのにこれじゃあ、ただの子どもみたいだ。


「ネイ、ヨイ、もういいさ。ボクがやるさ」


 成長期の男の子のような声がどこからか聞こえてきた。






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