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魔王が俺にとりついた!  作者: むのた
第一章
41/50

第41話 魔王の島上陸

 海を進み、東の魔王シーナの屋敷がある小島がしっかりと見えてきた。広い海の上でその小島は一つポツンとあり、周りには何も無い。上陸出来そうな場所を探して島の周りを回るが、島の周りは殆ど崖になっており、上陸出来そうな場所がない。

 崖の上から木々や草が生えているのが見えた。上は森のような感じになっているのだろうか……?


「島に行くには、崖を登る必要があるのか?」


 高さは百メートル近くありそうだ。この崖を自力で登らなければいけないのか……。


「こ、こんなの登れるのだろうか」

「アクトさんの体力では難しいですね」

「否定は出来ないな。だけど、イズだって登れるのか?」

「私には魔法がありますので」

「なるほどぉ……」


 じゃあ、その魔法で俺も一緒に連れて行ってくれ。


「イズ様! ここは僕に任せてください」

「クレンフルさん?」

「さすが、頼れる男は違うな!」

「褒めたって何も出ないよ~」


 クレンフルはニコニコと笑いながら、黒いローブから杖を取り出し、青いオーラを放出させた。これは、クレンフルが魔法を使うときに溢れ出る光だな。クレンフルはブツブツと独り言のような呪文を唱える。


「水よ……。僕らを導き……助けたまえ……」


 周辺の水面が青く光っている。波で暗い影と明るい光が交互に生まれ変わり、浅瀬と深海の両方がぶつかり合っているような色をしている。その色はとても綺麗で、海の中から人魚でも出てきそうな程、神秘的な光景だ。


「水よ、僕に応えよ!」


 クレンフルがそう言うと、光を放つ海水が俺達を包み込んだ。


「このまま、一気に上がりますよ!」

「うわっ!?」


 俺達を包み込みドーム型になった海水は大きく揺れたと思うと、上空に向かって浮き上がった。


「早い早い早い……!」


 結構な速さで上がっていく。下を見ると俺達が乗っていた水の小船が玩具の船のように小さくなっている。

 正直、高い所は苦手だ。思わず、俺の右斜め後ろで浮かんでいるサラファにしがみつき目をつぶった


「見た目年齢10歳の幼女に抱き付く19歳……。犯罪ですね」

「うっるせぇ!」

「アクト、もうすぐ着くからあと少しの辛抱じゃ」

「サラファ、ありがとう……」

「情けないですね」

「怖がらせて、ごめんね」


 サラファの困ったように微笑む表情。クレンフルの気遣いの言葉が、胸にもろに突き刺さったイズの冷めきった言葉の傷を治癒してくれる。

 心の傷を治癒している間に、宙に浮いていて落ち着かなかった足が落ち着いた。


「崖の上に着いたんだな……?」

「着いたよ」

「本当だな!?」

「着いたのじゃ」

「本当に!?」

「早く目を開けなさい」


 イズに命令口調で言われ、片目を少しずつ開ける。

 足元には草。膝まで草が伸びきっている。地面に足が着いていることを確認すると、両目を大きく開けた。

 ――崖の上を登った先は、鬱蒼うっそうとしており、俺が想像していた森というよりも……ジャングルに近い。太く長い木が空を覆っていて太陽の光は見えない。


「な、何か、気味が悪い場所だな。薄暗いし……」

「うん。東の魔王がいる屋敷なんて、初めて来たよ。すごく、怖い雰囲気だね……」

「体が震えそうだ」

「何かあれだよね……」


 クレンフルがカモウィザードを黒いローブの中に入れながら困ったように笑った。


「毒蛇とか毒蜘蛛(くも)とかいそうだよね~……」

「お、おい。そんなこと言うなよ」

「ごめん、ごめん」

「本当に出てきそうだろ……」

「確かに出てきそうな雰囲気じゃの」

蜘蛛くもなんて、そんな不気味なものは、出てこないで欲しいですね」


 イズの声色が少し低くなっている。腕を組み指をトントンと鳴らし、辺りをキョロキョロと見渡している。落ち着きがない様子だ。


「もしかして、イズって……蜘蛛くもが苦手なのか?」

「だ、黙ってください」


 一瞬、肩が震えたのを俺は見逃さなかった。思わず、顔がニヤついてしまう。


「へぇー……。そんな弱点があったんだな」

「その、だらしない顔やめてください」

「へぇー……。ニヤニヤ……」

「気持ち悪いです」

「おぬしらは、仲が良いのぉ」


 そんな会話をしていると、クレンフルが静かに手を上げた。


「どうしたんだ?」

「……。カモウィザードがまた怖がってローブの中に入っちゃいました……」

「……」

「……」

「……」

「……」


 さっきまで賑やかに話していた俺達は一瞬のうちに口を閉じた。

 嫌な予感がする。

 今覚えば、先程の会話でフラグが立っていたのではないか……そう感じさせられる。

 草を掻き分けるような、木が切り倒されるような音が聞こえてくる。その音は、俺達の方へ近づいているような気がする。気がするではない。絶対に近づいてきている。


「ねぇ、アクトくん」

「な、何だよ」

「もしさ、毒蛇と毒蜘蛛(くも)のモンスター、両方出現したら、どうする……?」

「おいおいおいおいおいおい……。縁起でもないこと言うなよ」

「そ、そうだね。ごめんね。ただ、魔王の屋敷があるところって言うから、モンスターも強いのかなって思って」

「他のモンスターと比べると強いかもしれませんね」

「そう、じゃなぁ……」


 俺の右斜め後ろにいるサラファが俺の肩に手を置いた。サラファも緊張しているのだろうか。いや、サラファだけではない。イズやクレンフルの表情を見ると、みんな表情が固まっている。


「音が近くなってきました」

「あ、あぁ……」


 突如、俺の服が引っ張られ、体の重心が後ろにいってしまい、前を向いたまま後ろへ走り出してしまった。

 あまりにも突然なことに言葉が出ない。


「……!?」

「逃げますよ」


 顔を後ろに向けるとイズが俺の服を引っ張っていた。俺の服だけではない。横を見るとクレンフルの黒いローブも引っ張りながら走っている。そして、俺の目の前にはサラファがいる。サラファが俺とクレンフルを前から押している。

 何となく状況の整理がついたので、イズの方に向き直る。すると、イズは引っ張っていた服を離した。イズが服を離すと、サラファも俺達を押すのを止めて、定位置のように俺の右斜め後ろに移動した。俺とクレンフルはイズの後を追いかけるように走る。


「すみません。私、虫は苦手なので」

「そんなに、苦手なのか」

「イズ様の新たな発見ですね」

「イズは、昔から虫が嫌いじゃからのぉ」

「……っ!?」


 日向だったはずなのに、走っている間に陰になっている。これは、ただの陰じゃない。

 ――影だ。巨大な生物の影が俺達に覆いかぶさっている。俺達の背後に、巨大な生物がいる。

 視線を後ろに向けると、驚愕きょうがくした。あれは、巨大な虫達……。しかも、一体だけではない。


「ゆ、愉快な虫達がた、たくさん、いるぞぉ……」

「虫のどこが愉快なのですか」


 体長十メートル近くあるのではないか虫達が五体ぐらいいる。

 蜘蛛くもを筆頭にムカデ、カマキリ、ダンゴムシ……あと、蝶々だ。虫に似たような形をしたモンスターが俺達を追いかけてくる。何故だが、全て毒々しい色をしている。蜘蛛くもは全体が青色でオレンジ色の斑点。ムカデ、カマキリは全体が赤色で黄色のしま模様がある。ダンゴムシは虹色をしている。派手だな。蝶々というよりも蛾に近いようなモンスターは紫色と赤が混じったような色をしている。

 あまりの気味の悪さに体中に鳥肌が立つ。


「うわぁ……。イズ、後ろを向いてみるか?」

「絶対に嫌です」

「毒蛇は、いないみたいでまだ良かったね……」

「毒蛇までいたらゲームオーバーだな」


 毒々しい色をした気味の悪い虫型のモンスター達は木々をぎ倒しながら、俺達の後を追ってくる。

 し、自然破壊だ。


「うわっ、ちょっ……!」


 地面を這うように移動していたダンゴムシ型のモンスターが体を空に向かって高らかに上げた。足が無数にある気持ちの悪い腹が見えたと思うと、体を丸め始めた。


「お、おい、あれって……」

「もしかしなくても……」


 俺とクレンフルの考えていることはどうやら同じようだ。二人顔を見合わせる。クレンフルは首を横に振り、血の気が引いたような顔をしている。多分、俺も同じ表情をしているだろう。

 体を丸めたダンゴムシ型のモンスターは草を刈るようにその場で大回転すると、真っ直ぐ俺達の方に転がってきた。


「きやがったぁぁぁ!」

「うわぁぁぁ!?」

「私は何があっても後ろは見ません」

「虫が、転がってきたのじゃあ!」


 俺達の左側は断崖絶壁だんがいぜっぴき。右側は太い木々が所狭しと生えており、逃げれるような隙間がない。後ろには音を立てて転がってくるダンゴムシ型のモンスター。

 このまま逃げていても崖から転落か、全員踏みつぶされるENDだ。それだけは、避けなければいけない。

 考えろ……。考えるんだ……。

 俺達とダンゴムシ型のモンスターとの距離は、百メートル程。現在進行形で、転がりながら俺達の方に近づいてきている。

 ダンゴムシ型のモンスターは光沢がありとても硬そうな表面をしている。きっと、真正面から短剣で攻撃をしたとしても硬さで弾き返され、踏みつぶされてゲームオーバーだ。

 俺達の左側には崖……。近くに良い武器になるようなものがないか辺りを探す。


「――あった」


 あの虫型のモンスター達が自然破壊をしてくれたおかげで、木の幹があちらこちらに散らばっている。


「――水よ……僕に……!」

「クレンフル。頼みがある」

「わっ、な、なに?」

「木の幹を運んで欲しいんだ」

「えっ――」


 急に話しかけたからかクレンフルが高めの声を出して返事をした。

 俺とクレンフルは協力し、ダンゴムシ型のモンスターの軌道に長さがある太めの木の幹を置いた。


「よし、クレンフル、逃げるぞ」

「えっ、うん……? これで、大丈夫なの?」

「多分な!」


 ダンゴムシ型のモンスターは真っ直ぐ、俺達に向かって転がってきている。俺達は走って逃げる。ダンゴムシ型のモンスターは徐々に俺達との距離を詰めてきた。ダンゴムシ型のモンスターの前には、長く太い木の幹がある。

 ――頼むから、上手くいってくれ……!

 ダンゴムシ型のモンスターは、長く太い木の幹に真っ直ぐに当たった。長く太い木の幹は空に向かって吹っ飛んでいった。

 ダンゴムシ型のモンスターは軌道を変えて、右へ曲がり太い木々にぶつかる。すると、左――他の虫型のモンスター達がいる方向へ転がっていった。

 ダンゴムシ型のモンスターが転がっていった方から巨大なもの同士がぶつかり合ったような大きな音が聞こえてきた。運よく、他の虫型のモンスター達に当たったのだろう。


「よし! 成功だ!」

「す、すごいやぁ。モンスター達を全部倒しちゃったよ……。でも、どうして?」

「ダンゴムシの習性だ」

「……習性?」

「ダンゴムシは右に曲がると左に曲がり、左に曲がると右に曲がるって誰かから聞いたことがあるんだ」

「そんな習性があるんだ……」

「左に曲がっても崖。右に曲がっても大木。どっちに転んでも、いけると思ったんだ」

「すごいよ、アクトくん!」


 モンスターでもダンゴムシはダンゴムシなんだな。

 賭けのようなものだったが、助かった。この知識を俺に教えてくれた人には感謝だな……。


「アクトさん、ありがとうございます」

「虫は全部倒したのじゃな」

「サラファ、その忌々《いまいま》しい単語は口に出さないでください」

「すまぬ……」


 いつも無表情のイズが口元を手で隠しながら、物凄く険しい顔をしている。とても珍しいことだ。それ程までに虫が苦手なんだな。

 何て可哀想だ。


「……」


 思わず、顔がニヤけてしまう。


「ニヤニヤ……」

「気持ち悪いですね」

「イズ様、大丈夫ですか!?」

「アクト、人の嫌がることをするではない」


 サラファが腕を組み頬を膨らませている。


「見た目年齢10歳児に説教される19歳……情けないです、ね」

「……すみません」






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