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魔王が俺にとりついた!  作者: むのた
第一章
40/50

第40話 広い海の上で

 体長五メートル程でサメの形をしたモンスターは十五体程……。サメ型のモンスターが海の表面から背びれを出し、俺達の唯一の足場である小船を取り囲むように回りながら徐々に近づいてくる。


「水よ、僕に応えたまえ! アクアショット!」


 クレンフルが海の上に浮いている小さな水のかたまりをサメ型のモンスターに向かって撃った。小さな水のかたまりは見事命中し、サメ型のモンスター一体が光を放出させ消滅した。


「一撃でモンスターを仕留めた……。もしかして、あのモンスター弱いのか……?」

「集団だと厄介そうだけど、一体ずつ確実に仕留めていけば案外楽かもね」


 サメ型のモンスターはグルグルと回りながら、小船に飛び跳ねてきた。どこから、どのタイミングで飛び跳ねてくるかがわからない。まるでルーレットのようだ。

 高めの位置から俺に向かって飛んでくるサメ型のモンスター。尖った歯が俺を噛み千切ってやると言わんばかりにカチカチと音を鳴らしている。あの鋭く尖った歯を避けることさえ出来れば大丈夫だ。

 深くしゃがみ、サメ型のモンスターの歯を避けると、丁度俺の真上に覆いかぶさるように飛んでいる。腹ががら空きだ。

 短剣を強く握り、さっきと同じように短剣をサメ型のモンスターの腹にぶっ刺した。

 ――しまった。


「刺さりが浅い……!」


 サメ型のモンスターは短剣を刺しただけは消滅しなかった。サメ型のモンスターは痛みでなのか体を左右上下に振り、海の中に逃げ込むように入っていく。腹に短剣を刺したまま――俺も海の中に引きずり込まれてしまった。


「アクトー!!」

「……っ! アクトさん……」


 サラファの叫びが聞こえた。


「ブクブクッ……! (ちくしょう……!)」


 短剣がぶっ刺さった腹から、紫色の血液を海に垂れ流しながらサメ型のモンスターは海の中でも暴れ回って動いている。腹にぶっ刺さっている短剣の柄を持ちしがみつくが、すごい力で振り回される。

 しかも、最悪なことに盾を背負ったままだった。盾の重みが俺の体を沈ませる。


「ブグッ……! (なんて力だ……!)」


 視界の隅に動く物体が見えた。辺りを見渡すと――サメ型のモンスターが俺の周りを取り囲んでいる。十体程いるだろうか……。海の中にいるサメ型のモンスターの殆どが俺の周りに集まって来ている。


(やばい……!)


 血だ。血の臭いで引き寄せられているんだ。サメ型のモンスターの腹から流れる紫色の血液……!

 サメ型のモンスターの腹に刺さっているナイフを握りしめ、サメ型のモンスターが暴れ進む方向とは逆の方向に短剣を動かし、腹を切り裂いた。サメ型のモンスターは光を放出し消滅した。だけど、たかが一体。俺の周りには十体もいる。さすがに、十体同時に相手にすることなんて出来ない。どのサメ型のモンスターが一番早くに俺を噛みついてきそうか見極める。

 ――右斜め後ろのお前だ――


「……っ!」


 一番俺に近いサメ型のモンスターに向き直る。サメ型のモンスターは大きな口を開けて鋭く尖った歯を俺に見せつけてくる。俺を喰う気満々のサメ型のモンスターの鼻に短剣をぶっ刺す。サメ型のモンスターは一瞬動きが止まる。その隙にサメ型のモンスターの頭を踏みつけ上っていき、背びれを掴む。暴れるサメ型のモンスターの背びれにしがみつきながら、鼻にぶっ刺さっている短剣を足で押し込んだ。


「どうだぁぁぁ!」


 サメ型のモンスターは鼻の奥深くに刺さり体を仰け反らしながら光を放出し消滅した。

 すぐさま短剣を回収し、他のサメ型のモンスターを消滅させるため、海から出ている背びれに向かって飛び乗る。

 背びれをしっかりと掴み、短剣でサメ型のモンスターの頭を切りつけ出血させる。紫色の血液は海へ流れていく。


「アクトくん! これに飛び乗って!」

「……クレンフル!?」


 俺が乗っているサメ型のモンスターのすぐ近くに円盤の形をした水の踏み場が出現している。これは、クレンフルが作ってくれたのか……。


「助かった!」


 サメ型のモンスターの頭を蹴り飛ばし足の踏み場まで飛び込む。水の踏み場は水しぶきを上げながら俺を受け止めるように湾曲わんきょくした。

 足場のすぐ側にクレンフルが近づいて来た。クレンフルも海水で固めた足場を作りその上に立っている。


「アクトくん、大丈夫?」

「クレンフル! 頭に傷があるモンスターに向かって強い魔法を使ってくれ!」

「わかったよ!」


 サメ型のモンスターは血液の臭いに集まっていた。俺の予想だと、頭に傷があり出血しているサメ型のモンスターの方にあいつらはみんな集まるはずだ。


「水よ……貫け! アクアニードル!」


 先が尖った一メートル程の大きな水の柱が次々と頭に傷がついたサメ型のモンスターに向かって飛んでいく。おおよそ三十個ぐらいだろうか……。


「すげーな……」


 水の柱を撃ち続けると、サメ型のモンスターが次々と空へ打ち上がり、眩い光を放出し消滅していく。

 やっぱり……。サメ型のモンスターは血液の臭いに誘われて一カ所に集まっていたみたいだ。


「アクトくん! 全部倒せたんじゃないかな! すごいよ!」

「クレンフルのおかげだな……」


 サメ型のモンスター……。全部、消滅させることが出来たのか……。


「アクトさん、殺し屋のアジトに行った時から顔つきが変わりましたね」

「そうじゃな。あやつは、成長しておる」

「しかし、ただの人間が魔法も使わず、あんな風にモンスターを消滅させることが出来るなんて……不思議ですね」

「うむ……」

「サラファ……?」

「まだじゃ、まだいるのじゃ!」


 小船からサラファの声が聞こえてくる。後ろを振り向くと、サラファとイズが小船に乗っている。

 ――その後ろにサメ型のモンスターがいる――

 鋭く尖った歯がサラファに狙いを定めている。


「サラファァ!」


 水の踏み場から小船に向かって全速力で走る。水の踏み場には小船に続く道なんてなかった。だが、今の水の踏み場は小船に向かって伸びている。


「アクトくん、お願い……!」

「クレンフル、ありがとう」


 今俺がいる場所から小船までは約二十メートルも距離がある。サラファとサメ型のモンスターとの距離はおおよそ五メートル程。

 間に、合わない――

 間に合わない――

 間に合わない――


「ち、くしょっぉ!」


 ――駄目だ。

 ――諦めるな!

 ――最後まで、諦めるな!


「っぅあああああああああ!!」


 短剣を振り上げサメ型のモンスターに向かって思いっ切り投げつける。短剣は風を切りながら速度を落とさず真っ直ぐにサメ型のモンスターの頭にぶっ刺さった。サメ型のモンスターは血しぶきを飛ばしながら大きな音を立てて海の中に落ちていった。

 ――間に合った。サラファとイズに怪我はなさそうだ。


「サラファ! これを頼む!」

「う、うむ……!」


 俺は背負っていた盾をサラファに預け海へ潜った。海中で短剣が頭にぶっ刺さっているサメ型のモンスターを探す。サメ型のモンスターはすぐに見つかった。

 海の中で尾びれを上下に振り暴れ回るサメ型のモンスター。頭から流れ出る紫色をした血液は空に向かって上がっていき海の中で滲んでいる。


「ブクッ……(止めを刺す……)」


 サメ型のモンスターは一定の場所を暴れながら移動していたが、俺がいることに気が付いたのか俺の方に猛スピードで迫ってきた。

 ――ここで、怖気づく訳にはいかない。

 サメ型のモンスターが大きく口を開けて俺を喰おうとする。腕が口に入り込みそうになったその瞬間、俺は、サメ型のモンスターの鼻の頭に渾身の力を込めて殴りつけた。ひるんだ一瞬を見逃さない。頭にぶっ刺さっている短剣を両手で握り俺に引き寄せるようにしてサメ型のモンスターの頭を切り裂いた。サメ型のモンスターは光を放出し消滅していく。

 サメと出会ったら鼻の頭にパンチをすればいいと誰かに聞いたことがあったが、まさかサメ型のモンスターにも効くとは……。


「……ブクッブクッッ……!」


 息がもう限界だ。早く地上に上がろう。

 短剣をズボンのベルトに直し、小船が浮かんでいるところに顔を出した。


「っあぁぁ!」

「アクト!」


 小船からサラファの手が差し伸べられた。サラファの手を有難く握り小船に乗り上がろうとするが、力が入らず中々上れない。

 すると、サラファの手の上からイズの手が重なり、二倍の力で俺を引き上げてくれた。


「あ、ありがとう……」

「アクト、手が真っ赤じゃぞ。大丈夫なのか?」

「えっ……」


 心配そうな表情をしてサラファが言う。両手の平を見ると細かい擦り傷が出来ており、血が滲んでいた。さっきまでは痛みも何も感じなかったのに、言われるとズキズキと痛みが増してくる。多分、サメ型のモンスターの背びれを掴んだ時に怪我をしたのだろう。


「痛ってぇ……」

「アクトさん、手を出してください」


 イズが俺に声を掛ける。イズの右手には消毒液。左手には包帯。


「クレンフルさんが持っていましたので、治療します」

「うわっ、ちょっ、待って……」


 容赦なく俺の両手の平に消毒液が大量に掛けられる。


「しっ、みる~~~!!」

「我慢してください」

「んなこと、言ったって……もうちょっと優しくだなぁ……!」

「アクトさん」


 イズが俺の両手の平を処置しながら、目を細めてかすかに笑った。


「…………ありがとう、ございます」

「えっ、あぁ……」


 普段見せない表情に少し胸が高鳴った。

 俺がイズに処置をしてもらっている横でサラファとクレンフルがヒソヒソと話している。


「アクトくん、いいなぁ。イズ様に手当してもらって」

「大した怪我がなくて良かったのじゃ」

「本当だね……。ねぇ、サラファ、アクトくんって何であんなに強くなったの? 船の時とは別人のようだよ」

「むぅ。しいていえば、意思の強さかの……? それとも……」

「それとも……?」

「元々の潜在能力が高いのかもしれぬ。魔法を使えないが、わしのことも見えておったしの」

「そっかぁ……」


 両手の平に包帯が丁寧に巻かれていく。几帳面だからか少しでもシワがあれば、巻き直している。


「処置完了しました」

「あ、ありがとう」


 包帯を巻いているので両手の平は多少動かしづらいが綺麗に巻かれているおかげか、物も持てるし、普通に握ったり開いたりすることも出来るしそれ程不便ではない。

 これなら、次の戦いでも短剣を握ることが出来る。










「キュイ! キュイ!」

「カモウィザードは元気を取り戻したみたいだな」

「あのモンスターが怖かったんだろうね」


 クレンフルの黒いローブの中から出てきたカモウィザードは機嫌良さそうに翼を広げ、クレンフルの頭の上で飛び跳ねていた。

 頭を撫でると、嬉しそうな声で鳴き俺の手に頭を擦りつけてきた。


「か、可愛いな」

「そうでしょ~」


 クレンフルは自慢そうにデレデレと笑っていた。










 サメ型のモンスターを倒し、しばらく船に揺られていると、イズが前方を指さし口を開いた。


「前方に島があるのですが、見えますか?」

「島……?」


 霧がかかっていて見えづらいが、遠くの方に薄ぼんやりと小さな島があるのが見えた。


「あれが、東の魔王シーナの屋敷がある島です」

「本当か……?」

「本当です」


 本当にあそこが目的地なのか、道には迷っていないのか心配になるが、イズは真剣な表情をして前を見据えている。何となく、直感で、イズの言っていることは正しい。そう思った。

 ――あの島に、サラファの体があるのか――


「必ず、体を取り戻すぞ」

「うむ……!」

「うん!」

「当たり前です」






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