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魔王が俺にとりついた!  作者: むのた
第一章
37/50

第37話 リーダーデンジ

 背負った盾を手に持ち変え、拳銃を発射し続ける男達を注意深く見る。イズは周りに水を浮かせながら銃弾を避け、男達を倒している。クレンフルは杖で応戦している。二人は殺し屋であろう男達を次々と倒している。男達は残り五人程だ。

 銃声と男達の怒声は鳴りやまず耳に響く。だが、その響きが油断していた俺の心を真剣なものに変える。


「許さねぇぞぉぉ!」


 男の悲鳴のような叫び声――声がした方を振り向くと、血にまみれ恐ろしく凄まじい表情をした男が俺に銃口を向けていた。間髪入れずに鳴り響く銃声。


「……!」


 俺は目が良い方ではない。まして、銃弾なんて目で追える速さではない。だけど、この銃弾を避けなければ俺は死ぬ。限られた短い時間の中で頭の中で思考が大回転している。男は俺の頭に目掛けて銃口を向けていた。普通に考えるとあの男は頭を狙った。盾で防御をしなければいけない。そうすれば俺は銃弾には当たらない。だが、それは、男が銃弾を一発しか撃たなかった場合の話だ。銃弾が一発しか撃たれない保証はどこにもない。ならば、俺の選択は……。

 姿勢を低くし、俺に銃口を向けている男の元へ真っ直ぐに走る。俺の頭の上を銃弾が通過していく。二度目、三度目の銃声が聞こえる。男がまた撃ってきたんだ。だが、男は俺に動揺しているのか、その銃弾は全く見当違いな場所に撃ち、俺には当たらなかった。男との距離が0に近くなる。

 俺は、もう――――


「逃げない」


 足に、手に、腕に、力を込め、盾で男の後頭部を強打する。大きく鈍い音がした。打ち付けられた男は、うめき声のような小さな声を出し床に倒れた。


「このやろぉぉぉ!」


 後ろから声が聞こえた。振り向くと、他の男が銃口を俺に向けていた。男の指が引き金に手を当てている。あの男に向き直り盾で防ぐか……。それとも、走って拳銃を避けるか……。だが、後ろを向いているこの態勢で間に合うだろうか――!?

 一瞬の迷い――それが命取りになることなんて、わかっていた。だけど、迷ってしまった。男の腕に力が込めらるのがわかる。撃たれる――!


「アクトくん! 大丈夫!?」

「……!?」


俺に向けて撃とうとしていた男の後頭部には杖。その後ろにはクレンフルがいた。杖で殴られた男は倒れた。


「あ、ありがとう。助かった」

「ううん。全然いいよ。これで、皆倒したみたいだね」

「そうなのか……」


 辺りを見渡すと、拳銃を持った男達が倒れていた。立っている男は一人もいない。充満する鉄の匂い。男を殴った手の感覚……。亡骸なきがらとなったスキンヘッドの男達……。何とも言えない感情が胸の中で蜷局とぐろを巻きこみ上げてくる。喉から出そうになる嗚咽おえつを必死に我慢する。

 まだだ。まだ、終わっていない。まだ、気を抜いてはいけない……。


「アクト、大丈夫か?」


 サラファが心配そうな声を出し、背中をさすってくれている。


「ありがとう。大丈夫だ」

「それにしても……質の悪い殺し屋達だね」

「……」

「あーあぁ。こんなに汚しちまって……。お前等が野郎どもを全員やっちまったのか」


 低く野太い声が聞こえてきた。固い床を歩く足音が近づいてくる。


「やるじゃねぇか」


 葉巻をくわえ、黒いブーツに真っ赤なスーツ、黒いシルクハットを着用した金髪の痩せ型の男が奥から現れた。男は倒れている男達を踏みつけながら俺達の方へ向かって歩いてくる。


「俺はグライアスファミリーリーダーのデンジだ。俺達のアジトに何の用だ?」

「私の命を狙っている理由を聞きに来ました」

「ハッ! ターゲット自らか? 勇気あるねぇ姉ちゃん」


 デンジと名乗る男は口元を歪め不気味に笑った。


「この落とし前……どう、つけてくれるんだ?」

「仕掛けてきたのはそちらの方です。これは正当防衛です」

「姉ちゃん、結構言うねぇ」


 デンジは倒れている男の髪を掴み持ち上げる。頭を上に向かされた男は顔を歪め唸っている。


「こいつ等、皆生きているねぇ。いや、でも、二人死んでいるな」


 スキンヘッドの男二人のことだ……。


「お前等がったのか?」

「いいえ、違います」

「そ、そうだ。あいつらが……仲間だった奴を殺したんだ」


 今も鮮明に覚えている残酷な記憶。話す声が震える。


「そうだねぇ。こいつ等、頭ぶち抜かれているな。そこの坊やが言ったように、うちの殺し屋達は質が悪いからねぇ。味方も殺しちまうんだ」


 嫌な笑みをしたままのデンジはくわえていた葉巻をクレンフルの方に投げた。葉巻は火がついたままで、煙が天井に上がっていく。

 クレンフルは黒いフードを深く被ったまま無言でいる。


「何故、私の命を狙っているのですか?」

「ハァー……。教える義理があると思うか?」

「私には知る権利があります」

「姉ちゃん、堂々としてるねぇ。うちの下っ端達にも見習って欲しいぐらいだ」

「誰に依頼されたのですか?」

「いいねぇ。その貪欲さ。おじちゃん、そういうの好きだなぁ。じゃあさ、生きていたら教えてやるよ」

「どういうことですか?」


 デンジは喉を鳴らし、口元を更に歪ませる。


「葉巻の火、消さないと危ないぜ」

「……!」


 葉巻の火……? クレンフルの足元を見るとデンジが先程銜くわえていた火のついた葉巻が転がっている。

 俺が声を出そうとした瞬間、大きな爆発音と共に葉巻が爆発する。体が一気に炎に飲み込まれていく。まるで、炎がモンスターみたいだ。モンスターに……炎に……喰われて死ぬ――


「水よ! 炎を打ち消しなさい!」


 イズの声だ――

 その声と同時に俺達に激しい大量の雨が降りかかってくる。その雨のおかげで、炎は威力を弱め遂に鎮火ちんかした。

 ここは室内。雨なんて降るはずがない。イズが魔法を使ってくれたのだろう。体が焼かれる前に炎を消してくれたおかげで、服が焼ける程度で済んだ……。

 

「アクトくん、大丈夫? 顔がすすだらけだよ」

「あ、あぁ……。怪我はない。お前こそ、大丈夫か?」

「僕も大丈夫だよ」


 クレンフルは爆発の一番近くにいた。どこか負傷していても可笑しくないと思ったが、黒いローブは全く焼けておらず、顔もフードで隠れていたからか、すすもついていなかった。

 耐熱性なのか……?

 俺の右斜め後ろで浮いているサラファも怪我はしていなさそうだ。着用している白いドレスも、白い肌もどこも焼けていない。魂は爆発にも巻き込まれないのだろうか。


「さて、生き残りましたが……」


 イズの静かに怒ったような声を発した。イズの方を見ると、露出した肩や腕、足にはすすがついており、ふくらはぎまであった黒いスカートは焼けて太ももまでの短さになっていた。


「姉ちゃん、色っぽい格好になったねぇ」

「黙りなさい」


 イズが怒っている。俺の角度からは表情が見えないが、確実にイズは怒っている。イズの周りからどす黒いオーラが感じられる。

 俺達に爆弾を仕掛けやがったおっさん(デンジ)はニヤニヤと笑いながら楽しそうに言った。


「ったく、これだから魔族ってのは、なぁ? その力、反則的だねぇ……でもさぁ、約束したからねぇ。仕方ないな」

「……」

「依頼人、教えてやるよ」


 デンジは、ふざけた口調を止め、真剣な声を発した。


「言っておくが、今回の依頼内容は『殺す』ではなくて『見張る』だ」

「ぜ、全力で、殺しにきていたじゃねぇか……」


 思わず、心の声が口から出てしまった。


「ハッ! 確かにそうだな。だがな、ターゲットがいきなりアジトに乗り込んで来たら、うちの連中も、黙ってはいないだろ?」

「……」


 その前も、俺は撃たれかけたが……。


「それで、依頼人は?」

「東の魔王――シーナだ」

「……!」

「……なんじゃと!?」


 サラファの顔つきが変わった。眉をひそめ、目に力がこもっている。

 東の魔王……? それって、前にサラファが話していたサラファと同じ『紅い目を持つ魔族のボス』のことか?


「依頼人を裏切るなんて、これだから人間は信用ならねぇんだよォ!」


 背後から聞き覚えのない声が聞こえてきた。後ろを振り返ると、入口の前で立っている女性がいた。オレンジ色の髪。全体的に髪が外にはねており横の髪を髪飾りでまとめている。瞳の色は、紅色。サラファと同じ紅色だ。


「殺し屋、てめぇとの契約は破棄するぜェ」

「あなたは、東の魔王シーナ……」


 イズが少し驚いたような声色で話した。

 あれが、魔王? アリーシャと同じぐらいの年齢に見える。普通の女の子だ。サラファといい、あの子といい、魔王というのは……みんな、あんな感じなのか?


「イズにサラファ……。久しぶりだなァ」

「おぬしが何故、こんなところにいるのじゃ!」

「何故って……元々、ここはアタシが支配していた島だぜ。いて当たり前だろ。しかし、イズを見張っていて正解だったな」

「どういうことですか?」

「サラファはイズのところに来ると思ってたんだよ。ただ魔力が多いだけの未熟者のクソ幼女がよォ」

「な、なんじゃとー! 誰がクソ幼女じゃ!」

「シーナ! 撤回しなさい」

「うっせぇんだよ! 黙れよ! 戦争に参加しなかった臆病者達がァ!」


 珍しく、イズが怒っている。それにしてもクソ幼女というのは言い過ぎではないか。


「そうだ! サラファに謝れ! サラファは可愛い幼女だ!」

「なぬっ!?」

「アクトさん、気持ち悪いですね」

「あんだとォ? てめェ……」


 心の中で喋るつもりだったのに、思わず口から出てしまった!

 シーナと呼ばれている女性は俺を睨みながら、早歩きでこっちに向かってくる。紅い瞳の威圧感で体が固まってしまう。

 シーナは俺に顔を近づけると不良さながらにガンつけてくる。鼻に噛みついてくるのではないかと思うぐらいに顔が近いし、両方に生えている尖った八重歯がよけいにそう思わせる。

 俺の右頬に冷たいものが当たる。冷たいものは顎の方までゆっくりと垂れていく。――シーナは俺の顔に唾を吐きかけやがった。


「てめぇ、気に入らねぇなァ。くせぇ臭いがする」

「お前が唾をかけたからじゃないか」


 シーナは俺から離れ、指で鼻をゴシゴシと拭いていた。失礼だな。


「サラファ! てめぇの体はアタシの屋敷にある。返して欲しければアタシの屋敷まで来い!」

「おぬしの屋敷にあるのか!?」

「サラファの体が!?」

「……!」

「じゃあなぁ! クソ野郎ども!」


 シーナは大きく息を吸い込んだ――次の瞬間、シーナの姿がなくなっていた。


「い、いなくなったぞ!?」

「探すのじゃ!」


 俺達は辺りを見渡し、シーナを探したがそれらしき人物は見つからなかった。


「い、いないのじゃ……」 

「あいつ、唾かけやがって……。首のところまで垂れてるんじゃねぇか? あ、まだ顔のところで止まっている。良かった」

「あなたにとってはご褒美ではないのですか?」

「ちげぇよ。俺をどういう目で見ているんだよ」






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