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魔王が俺にとりついた!  作者: むのた
第一章
34/50

第34話 殺し屋捕捉

イズが魔法で作った水の縄によって胴体と手足を何重にも巻かれ拘束されているスキンヘッドの男二人。必死に体を動かし、水の縄を外そうとしている。


「ちくしょう! これ、どうなってやがるんだ!」

「全然取れないじゃねぇか」

「……」


 イズは死んだ魚のような目をして上からスキンヘッドの男達を見下ろしている。ただ無言で男達をじっと見つめる。その何とも言えないような威圧感――無言の重圧が更に空気を緊張させている。男達はその威圧感に圧倒されてか表情を強張らせていた。

 男達が喉で息をするような小さな悲鳴を出して、拘束されて動けないはずの体をくねらせ後ろに下がっていく。

 そうしたい気持ちは俺もわかる。うんうんと頷いていると俺の右上で浮いているサラファと目が合う。頭の上に『?マーク』を出しているサラファは腕を組みながら首を傾げていた。

 クレンフルの方を見ると、無言のイズをチラチラと見て口元を緩めながらメモを取っていた。一体、どこを見て、何を記録しようとするのだろうか。

 イズは手に持っている水の縄を引っ張り後ろに下がっていた男達を引き寄せた。男達は引っ張られ体の重心が前に傾いた影響でうつむきに倒れてしまった。


「痛っ!」

「ぐぅ……」


 クレンフルがペンを止め、生徒が先生に質問するように手を上げて「イズ様、質問いいですか?」と丁重に聞いていた。


「どうかしましたか?」

「この人達がイズ様の命を狙っていたという方々ですか?」

「えぇ。そうです」

「そうですか……」


 クレンフルは眉をハの字に曲げ口をつぐませた。

 イズはそんなクレンフルのことをチラッと見て、視線をスキンヘッドの男二人に戻した。


「私の命を狙う目的はなんですか?」


男達は肩を震わせてたがいに顔を見合わせた後、ゆっくりと口を開いた。


「俺達、何にも知らないんだよ」

「命令されただけで、本当だ!」

「命令? それは誰にですか?」

「……」

「……」


 イズにそう質問され、男達は再度顔を見合わせ、10秒程の沈黙……。


「リーダーだ」

「俺達は下っ端で、仕事の依頼は全部リーダーが引き受けているんだ。だから、殺しの理由なんて知らない」

「その口振り……。やはり、あなたたちは殺し屋ですね」


 殺し屋ってあの殺し屋か!?

 俺はこの世界は平和だと思っていたが、最近は拳銃や殺し屋――平和とは言えないものをよく目にしている。


「どこの殺し屋でしょうか?」

「俺達は、グライアスファミリーだ……」

「グライアスファミリー……東の島を拠点とする殺し屋集団ですね」


 グライアスファミリー……当たり前だが、聞いたことがない。


「イズって物知りだな」

「長生きしていると詳しくなるものです」

「そうなのか……」

「私をリーダーのところまで案内してください。この拳銃のようにはなりたくないでしょう」


 イズの目線の先に拳銃がある。といってもスキンヘッドの男達が持っていた2丁の拳銃はバラバラになって壊れているのだが。


「……くそっ」

「わっ、わかった。案内するっ……! 案内するから命だけは助けてくれ!」

「では、よろしくお願いします」


 イズは水の紐を上に引っ張り、倒れている男達を無理やり起き上がらせる。 

 もしかして、イズは、一人で敵地に乗り込む気だろうか。

 すると、クレンフルが真っ直ぐと手を上げた。


「イズ様! 僕も一緒にお供します!」


 クレンフルも行くのか。

 何という勇気のある奴だろうか。何という男前なのだろうか。


「いえ、これは私の問題です」

「クレンフルさんはサラファとアクトさんと留守番をお願いします」

「で、ですが……」


 俺は留守番か。助かった。

 その言葉を聞き、胸を撫で下ろす。


「いや、わしも行くぞ。危険な所へ一人では行かせられぬ!」

「えっ」


 おいおいおいおいおいおい……。本当かよ。いや、これは本当の目だな。サラファが俺の顔を真剣に見てくる。これは、行かないなんて言ったら、いけない雰囲気だな……。


「そうじゃろ! アクトよ」

「だ、だけど、サラファ……。お前の体を取り返さないと……」

「体の在り処がわからぬ以上、どうすることも出来ぬ」

「サラファ……」

「まだ時間はあるから大丈夫じゃ」

「時間があるって言ったって、3ヶ月しかないだろ……」


 サラファは困ったように微笑み俺に訴えかけた。サラファの瞳が俺を捉える。悲しげで儚げなその目で見られると断れる訳がない。


「……」

「アクト……?」

「わかった。俺も行く」




 






 人目に付く場所を通るため、俺とクレンフルとでスキンヘッドの男二人を水の縄から普通の縄に縛り直した。


「くそっ……」

「そんなに、強く縛らなくても逃げねぇよ」

「そんなこと言われても、信用出来ないからな……」


 逃げられないように強めに縛る。


「よし。これでいいな……」

「しっかりと縛れましたか?」

「大丈夫だと思います!」

「しかし、本当に良いのですか? これは私事なので迷惑をかけたくないのですが」

「僕はイズ様の弟子なので迷惑なんて全然、これっぽっちもないですよ」

「そうじゃ。迷惑なんてことないのじゃ」

「俺、死なないかな……」


 サラファとクレンフルとの意欲の差がすごくあるというのが自分でもわかる。だが、俺は二回、銃弾を飛ばされた。そのうちの一回は当たりそうになり死にかけた。――不安がよぎる。


「アクトさん。来たくないのに来るのですね」

「なんだよ。その言い方……」


 イズに言われることは図星が多い……。図星だとしても、そう言われると、余計に行きたくなくなってしまうのが俺だ。


「アクトさんに危険が及ばないように私が責任を持って守ります。もちろん、他の方も同様に」

「えっ、あ、あぁ」


 予想外の言葉に思わず返事をしてしまったが、驚いた。守るって言われてしまった。本当は、男である俺が守らなければいけない立場なのに。


「……」

「アクト? どうしたのじゃ?」

「いや、何でもない」


 イズの言葉を聞き、自分のことしか考えていない俺って本当に情けないなと感じた。


「俺、ダサいな……」


 イズは、スキンヘッドの男達の両手を縛っている縄を持ち歩き始めた。堂々と歩いている。


「何か、女王様と奴隷みたいだな……」

「私は女王様ではありません。馬鹿ですか?」

「女王様じゃないってことぐらい知っているけど……」

「では、そのようなこと発言する必要はありませんね」

「冗談じゃないか……」

「つまらない冗談ですね」

「な、なんだとぅぅぅ!」


 俺とイズが睨み合っていると、肩に手を置かれた。サラファだ。サラファが歯を見せニコニコと笑っている。


「何で、そんな笑顔なんだよ……」

「おぬしら仲が良いのぉ」

「そんなことないです」

「そんなことない!」

「ほら、息ピッタリじゃ」

「……」

「……」


 無言で俺とイズは睨み合う……。だが、イズの目力に圧倒されて目を逸らしてしまった。


「アクトくん、イズ様と仲が良くていいなぁ……」

「だから、そんなことねぇって!」


 クレンフルが羨ましそうな表情をして俺を見つめている。頭の上に乗っているカモウィザードまでつぶらな瞳で俺を見てくる。

 こいつらの完璧までの意思疎通は一体何なんだ。 


「おい、いつまで喋っているんだ? アジトに行かないのか?」


 スキンヘッドの男が痺れを切らしたのか、俺達に話しかけてきた。スキンヘッドの男の言うとおりだな。早く先を急ごう。


「そうですね。行きましょうか。では、道案内よろしくお願いします」


 スキンヘッドの男二人が先頭を歩き、その後ろでイズが縄を持つ。イズの後ろに俺とクレンフル、俺の右斜め後ろにサラファが浮いている。

 俺達は、殺し屋のアジトに行くために歩き出した。






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