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魔王が俺にとりついた!  作者: むのた
第一章
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第3話  言葉の重み

 明かりもない廃墟のような屋敷の中に無理やり入らされて、随分たったからか目が慣れてきたようだ。部屋を見渡すと外観同様に壁には大きな穴が開き、今にも崩れ落ちそうなところがある。他にも何かの破片のような物が散乱している。


「それにしても、この屋敷すごいボロボロだな」

「そうじゃ。わしはこの話がしたかったのじゃ。おぬしがわしを子ども扱いや年寄り扱いをするから忘れておったわ」

「屋敷がボロボロになった理由?」

「まぁ、そんなところじゃ」


 120歳の少女は手をポンと打ち「そうじゃった。そうじゃった」と呟いた。


「わしは、ここ100年間この屋敷で一人で過ごしておったのじゃ。それなのに、半年前に卑怯な奴らがこの屋敷にやってきおって…。100年も力を使っていないと当然、衰退すいたいぐらいはするじゃろ! その隙をつき、わしの体を奪っていきおったのじゃ!」


 120歳の少女は当時のことを思いだしたのか唇を噛みしめて悔しそうな顔をしていた。正直、衰退すいたいしたのは自分のせいではないかと思ったが、黙っておくことにした。


「だから」


 紅い瞳が俺を捉えた。俺はゴクっと唾を飲み込み、言葉の続きを待った。


「わしと一緒にわしの体を取り返してほしいのじゃ」


 120歳の少女は真剣な表情をしている。紅い瞳は俺を捉えて離さない。


「もう体なんてないんじゃないか? もう燃やされているかもしれない。もしあったとしてももう腐っているだろう。」

「そんなことはないのじゃ。わしの体には魔力が豊富にある。そんなことではなくならないのじゃ。それに、わしの体を奪った奴はそんなぞんざいな扱いはしないであろう。」

「なんでだ?」

「うむ。さっきも言ったが、わしの体には魔力が豊富にあるのじゃ。今までもわしの魔力欲しさにわしを倒そうとする奴らがいたのじゃ。当然そやつらは返り討ちにしてやったのじゃがな。」

「だけど、半年前に襲ってきた奴らには負けたんだな」


 俺がそう言うと、120歳の少女の地雷を踏んだのか、急にじだんだを踏み始めた。といっても地面に足が着いていないから踏むことはできていないが。


「そうじゃ! 奴らは大勢でわしに襲い掛かり、変な道具でわしの魔力を封印したのじゃ!卑怯な奴らじゃあー!」


 120歳の少女は、踏めていないじだんだを止めて、息を荒くしながら喋り続けた。


「それで、ピンチになったわしは機転を利かせて、ギリギリのところで体から魂を引き離したのじゃ! じゃが、奴らはわしの体を持って行ってしまって、この様じゃぁ…」


 120歳の少女は半透明に透けた自身の手を見て、肩を落とし「情けないのぉ」と呟いた。


「なにぶんこの体じゃ。わし一人ではどうすることも出来ないのじゃ……。協力してほしいのじゃ。『なんでもする』って言っておったであろう?」


 俺はギクッとした。『なんでもする』と言ったのは死にたくないから言っただけであって、本心ではなかった。逃げようか……そう考えたが、逃げられるとは思えない。今もなお、紅い瞳は俺をじっと見つめていた。その威圧感が触られてもいない腕を掴まれている感覚に襲わさせる。


「嫌だ、と言ったら……?」


 俺がそう言うと、120歳の少女は口をつぐみ、少し悲しそうな顔をした。


「おぬしも、嘘をつくのか……」


 120歳の少女は、悲しそうな顔をしたまま笑った。


「……残念じゃな……」


 俺は、なんでこの子にこんな表情をさせているんだ…。そう思うと心臓が掴まれたように苦しくなった。俺はいつだってそうだ。いつだって、自分の発言に責任を持たないようにしてきた。

 俺は…俺は…俺は…








 逃げる!!!







 心臓はまだ掴まれたように苦しく、今にも潰れそうだ。




 しかし、俺は




 逃げる!!




 紅い瞳から発せられる正体不明の威圧感を振りほどき、扉のない玄関に向かって全速力で走った。

 少しでも逃げられる可能性があるのなら、俺はいつだって逃げるんだ!体を取り戻すなんて意味の分からない、面倒なことはしたくない!


「これは、逃げでも、ただの逃げではない! 未来を勝ち取るための逃げなんだぁぁぁ!!」


 俺の瞳に眩しいものが映った。そう太陽だ。太陽の光が俺をしている。あの不気味な屋敷から、120歳の少女から、俺は逃げ切れたんだ!


「逃げられんぞ」


 あれ? おかしいな。幻聴かな。120歳の少女の声が聞こえるぞ。屋敷の外には出られないんじゃなかったのか?


「ふむ。また心の声が口に出ておるぞ。しかし、聞いていないと思っとったが、しっかりと聞いておったのじゃな。抜け目ない奴め」


 なんだか、右肩がやけに寒い。俺は恐る恐る右を向いた。そこにはいた。120歳の少女が。


「俺の人生、もしかして、終わった?」


 俺は、きっと今、全身の血液が流れ出たようなとてつもなく不健康そうな顔をしているだろう。何故なら、生きている心地がしないからだ。120歳の少女に対して恐怖心がなくなったと俺は言ったが、訂正だ。やっぱりおばけは怖い!


「いや、終わりではない。始まるのじゃよ」

「え?」


 120歳の少女は薄く笑い、一見穏やかな表情をしているように見えたが、よく見ると紅い瞳の奥が活火山のマグマのように燃えたぎっていた。


「そ、それは、人生を、一からやり直すということ、でしょうか?つ、つまり……死……」


 120歳の少女はにんまりと笑い


「そうではない。おぬしはもう、わしからは逃げることが出来ないということじゃ」

「つ、つまり?」

「おぬしとわしはこの先ずっと一緒じゃ!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「もう諦めるのじゃあ!」


 全ての力を振り絞って走っていたので、俺の体力はもうない。いや、正確にはまだ走るだけの体力は残っているが、これはもしものときのために残しておこう。ここで力尽きてもいいことはない。そして、俺は走るのを止めた。


「ふむ! やっと諦めたか!」

「はぁはぁ……。逃げても逃げ切れないんだろ」

「その通りじゃあ!」


 俺は荒げた息と大量に出る汗を落ち着かせるために、その場で倒れこんだ。もちろん体力回復のためでもあるが。


「屋敷の外には出られないって言っていなかったか? なんで出てんだよ。嘘ついたのか?」

「わしはおぬしと違って嘘はつかぬ。確かに、おぬしと出会う前は出られなかった。」

「はぁ……」

「しかし、おぬしに出会ったことでわしは外に出られるようになったのじゃ」

「なんで、俺に会っただけで、出ることが出来るんだ?」


 120歳の少女は口を歪めて、ニヤリと笑いやがった。


「わしと契約を結んだじゃろう?」


 契約? 確かに、そんなこと言っていたような気がするな……。


「わしはおぬしの額に口付けをしたろう。あれは、おぬしがわしと契約を結んだという証をつけるためじゃ。魔王というのは不便でな。人間と契約をしないと自由に外の世界に行くことが出来ないのじゃ。しかし、わしはおぬしと契約を結んだことで、自由に外の世界に出られるようになったのじゃ」

「なんだよそれ?意味わかんねぇ」

「とにかく! その証がある限り、おぬしはわしと離れることは出来ないのじゃ!」

「ちくしょぉぉぉぉぉぉ!!!」

「後悔しているようじゃが、言っておくぞ。おぬしはわしに対して『何でもする』と言った。よいか。言葉というのは命よりも重い責任が掛かる場合がある。重みのある言葉はいつだって強大なのじゃ。これにりたら、自分で自分の責任を取ることが出来ない発言は控えるのじゃな」


 なんだよ……。ただの説教じゃないか。外見は可愛らしい女の子でも、中身は説教臭いババぁだな。


「誰がババぁじゃ! 誰が!」

「うわ! またしても俺の心の声が出てしまったか。なんと正直者な俺……」


 120歳の説教臭い少女は眉をひそめ大きな咳払いをした。


「うっほぉっん!! では先ほども言ったが、再確認の意味でもう一度おぬしに告げる。おぬしにはわしの体を取り戻すために協力してもらうぞ! わしとおぬしは契約を結んだのだから、逃げることは出来んぞ!」


 さっきから耳鳴りがするし、頭も痛い。これはきっと、ストレスのせいだろう。

 なんせ、今日、俺は、魔王にとりつかれてしまったからだ。






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