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魔王が俺にとりついた!  作者: むのた
第一章
29/50

第29話 洞窟からこんにちは

 川に架かった橋を渡り芝生の道を進む。すると、遠くの方で苔の生えた岩の洞窟が見えてきた。


「あの洞窟を進んだ先に私の家があります」

「結構遠いな」

「そうですか?」

「待つのじゃ! 誰かおるのじゃ」

「本当か!?」


 サラファに言われ、まだ遠くの方にある洞窟をじっと見た。俺は目がいい方ではないので、目を細める。


「眉間にしわを寄せ目を細めて、愉快な顔ですね」

「し、失礼だな!」

「そうですか?」

「そうだよ!」


 細い目で見ていると、洞窟の入口からこちらに向かってくる人影が見えてきた。

 さっきの危険な奴らか!? 俺は、後ずさりをして後ろへ走る準備をした。(逃げる準備)そうすると、サラファが後ろから両肩を掴んできた。


「ま、まだ、逃げると決まったわけでは……」

「アクト、よく見るのじゃ」

「えっ?」


 小さな人影は段々と大きくなっていく。大分近づいて来たのだろう。人影のシルエットが見えてきた。

 見覚えのある全身真っ黒のローブ。フードの上には白いような茶色いようなカモメが乗っている。

 あれは……。


「こんにちはー!」

「クレンフル!」

「わぁー! アクトくんに、サラファちゃんだぁー!」


 俺達の目の前には、船の上で出会ったクレンフルがいた。クレンフルは被っていた黒いフードを取り、笑っている。クレンフルの笑顔につられて俺も思わず歯を見せて笑う。サラファは何故か咳払いをしている。


「ちゃんではないのじゃ!」

「あ、ごめんねぇ。その見た目だとついつい、ちゃんづけしてしまうんだよね~。ちゃんとサラファって呼ぶよ」

「むぅ!」


 ちゃんづけされたのが嫌だったんだな……。子どもっぽいサラファを見てニヤニヤと笑ってしまう。可愛いなぁ。


「何を笑っているのじゃ!」

「ごめん、ごめんって」

「アクトくんもサラファちゃんも元気そうで良かったよ」

「クレンフルもな!」


 クレンフルの頭の上を見ると、カモウィザードが飛び跳ねていた。


「カモウィザードも元気そうだな」

「うん! 病院に連れて行ったら、ただのかすり傷だって! 野生に返そうとしたんだけど、飛び立とうとしなくて……。羽の傷はもう治っているから飛べるはずなんだけどね」

「よっぽどクレンフルに懐いているのじゃな」

「カモウィザードって何ですか?」


 今まで蚊帳の外だったイズが口を開いた。イズをほったらかしにしていたな。しまった……!


「この子カモメの名前じゃ」

「このカモメの名前ですか?」

「良い名前でしょ?」


 クレンフルがニコニコと屈託のない笑顔を向けながら、イズに話しかけた。イズはクレンフルを見て、唾でも吐きそうな顔をしている。


「ふざけているのですか」

「えっ」

「えっ」

「ぬぅ……」


 イズの冷たい言葉はカモウィザードの名づけを一蹴した。いきなりそんなことを言われると思ってもいなかったので、俺もクレンフルも間抜けな声を出してしまった。


「ネーミングセンス皆無ですね」


 俺の味方がここにいたか……。だが、もう遅い!


「なんで初対面の、しかもペットの名前にケチをつけるんだ!」

「アクトくん、まだペットではないけど……」

「その名前よりも私の方が良い名前をつけます」

「はぁ? どんな名前だよ」

「カモメフェザーフェニックスです」

「な、なんだよ、それ。ネーミングセンス皆無じゃないか」

「そんなことはありません。とても良い名前です」

「ぷっぷっぷっ……」


 クレンフルは笑うのを耐えているのだろうか。口から空気を出し変な音を出している。しかし、遂に堪え切れなくなったのか吹き出し、大笑いした。

 クレンフルの大きな笑い声が俺達の周りを急速に冷たい雰囲気にしていった。イズの顔を見ると、眉毛がピクピクと動いている。これは、やばいぞ……。


「ク、クレンフルさん……。落ち着くんだ……」

「笑ってごめんねぇ! センスがないからって笑っている訳じゃないんだ! ただ、僕には思いつかなかったから笑っているんだ! すごいね!」

「クレンフル……」

「でも、ごめんね。僕はカモウィザードっていう名前が気に入っているんだ。カモウィザードもこの名前に慣れているんだ」

「そうじゃな。気に入っているのが一番じゃ」

「サラファの言うことも一理ありますね」


 おぉ! 冷たい雰囲気が修復していく。さすがは、コミュ力高めのクレンフル! 冷たい雰囲気なんて物ともしない。


「僕の名前はクレンフル・ワトールだよ。君の名前は?」


 クレンフルは相変わらずニコニコと笑いながら、イズに名前を聞いた。イズはクレンフルをじろっと睨むようにして下から上まで目線を動かした。


「どうしてあなたに?」

「あ、ごめんね。聞いたらまずかったかな?」

「クレンフルよ。すまぬな。イズは人見知りなのじゃ」

「イズって言うんだね! って、イズ……?」

「サラファったら、勝手に教えて仕方がありませんね」

「えっ……? イ……」

「クレンフルどうかしたか?」

「イ……ズ……って、言った、の?」

「うむ? そうじゃが?」

「も、もしかして、この村に、ワスレナ村に……住んでいますか?」

「どうしてあなたに教えなければ」

「あぁ、そうだ」

「アクト人間、勝手に答えないでください。黙ってください」

「どうも、すいません」


 サラファのときと態度が全然違うな。


「あ、あなたは、本当に、イズ……という名前なんですか?」

「はい」

「イ……イ……イ……イ……イ……イ……」


 クレンフルが急に、壊れて変な音が鳴っている玩具のような奇声を発している。

 一体どうしたんだ? クレンフルの身に何が起こったんだ?


「イズ様ぁぁぁぁぁぁ!!」

「えっ?」

「なぬ?」

「はい?」


 さっきまでためぐちで話していたのに、急に『様』づけでイズを呼ぶクレンフルを見て俺達三人は首を傾げた。


「あ、あ、ああ……あ、ああああ、あ……あ、ああ、あ、あ……あああ、あ、あ、あ、ああああ……」

「ど、どうしたクレンフル!? 大丈夫か?」

「気をしっかり持つのじゃあ!」

「脳みそに虫でも入りましたか?」


 クレンフルは膝から崩れ落ち、さっきまで良かった顔色がみるみるうちに青くなっている。大きく開いた口からよだれを垂らし瞳孔は開いている。まるで死人のような表情をしている。死人の顔なんて間近で見たことはないが。実際に見たら卒倒しそうだ。


「ごめんなさい! ためぐちを聞いてごめんなさい! 無礼な態度を取ってごめんなさい! あなたがまさかイズ様だとは……!」


 思わずサラファと顔を見合わせた。サラファもよくわからないようで、首を横に振っていた。二人してイズの方を見たが、イズは無表情で感情が読み取れない。

 どいうことだ? 何が起こっているんだ?


「あ、あ、あぁぁ……。僕は、なんてことをぉ……申し訳、ございませんん……」


 土下座をして今にも泣きそうな声を漏らしている。


「ク、クレンフル、頭を上げろよ?」

「……」

「クレンフル?」

「……」


 クレンフルに声をかけても返事が返ってこない。地面に頭をつけたまま動かない。クレンフルの体を揺らすがピクリともしない。まるで死後硬直のように固まっている。


「お、おい……。おい! クレンフル! 返事しろよ!」

「大丈夫かの?」

「死んだのか!?」

「死んではないじゃろう。魔力も消失はしていないのじゃ」

「先程の人達もいますし、このままにしておくのは危険ですね」


 突然の出来事に上手く対応出来ない俺と比べて、サラファとイズはとても落ち着いていた。俺も二人のように落ち着こうとし、深呼吸をする。


「そうだな……」

「では、アクトさん宜しくお願いします」

「えっ」


 俺を見てクレンフルを見る。イズは目線だけで何かを伝えようとしている。これは、俺に運べと伝えているのだろう。仕方がないな……。

 クレンフルは中世的な顔立ちをしているがやはり男だ。背負うとズシッとした重さが乗りかかってくる。俺よりも背が低いのからまだ助かったが、何にせよ後で腰が痛くなりそうだ。

 クレンフルを背負う俺を見てイズは軽く礼をして前を向き歩き出した。サラファは俺の横でふよふよと浮きながら苦笑いをしていた。






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