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魔王が俺にとりついた!  作者: むのた
第一章
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第2話  出逢う

 気が付くと俺は、地面に寝転んでいた。震えるような冷たい風はもう止んでいて、体の震えももうない。俺は恐る恐る目を開けた。


「なんだよ、ここ?」


 俺の目の前には窓ガラスは割れ、壁も大きな穴が無数にあり、扉は壊れたのであろう扉のない玄関から簡単に屋敷の中に入れそうな廃墟と言ってもいいような大きな屋敷があった。


「屋敷の中に入るのじゃ」


 また声が聞こえる。しかも今までにない程しっかりと大きな声で聞こえた。声の主が近いということか。

 再度、俺の体は恐怖で震えた。その瞬間、背中に冷たいものが当たった。俺は驚いて辺りを見渡すが、やはり何もいない。冷たいものが当たった背中を触ると、その正体がわかった。汗だった。額から脇から体中のあらゆるところから汗が流れていたのだ。

 俺は拳をギュっと強く握った。


「こ、これは……逃げるのではない。俺が未来まで生きるために大切なことだ」


 俺は後ろを向き、強く握った拳を上下に振り、全力で走った。走って走って走って、がむしゃらに走った。


走ったはずだった。


 走ったはずだったのに、前に進まない。それどころか後ろに進んでいるような気がする。いや、気がするではない。確実に後ろに進んでいる!何故なら、俺の真横に扉のない玄関…屋敷の入口があるからだ。

 俺はそのまま屋敷の中に入ってしまった。俺は諦めて足を動かすのを止めた。だが、俺が足を動かさなくても、俺の体はどんどん屋敷の奥に進んでいく。

 屋敷の中は当然明かりなんてなく、暗闇が俺を包んでいく。


「最悪だ。なんでこんなことに…。こんなことになるのなら、畑の手伝いをしとけばよかった」


 今更後悔なんてしても遅いか…。俺はこれからどうなるのだろうか。母ちゃん、親不孝な息子でごめんな。


「そうじゃ。今更後悔するのは遅いぞ。わしの屋敷へようこそ」


 俺を散々恐怖に陥れた声は俺の耳元で聞こえた。ゾッとして全身の毛が逆立ったような感覚に襲われた。動けない。右横にいる。確実にそれは俺の右横にいる。今の俺はただ汗が大量に溢れ出ているだけの人形のようだ。


「おぬしは人形ではないぞ。人間なのじゃ。しかし、そんなに怖がらせてしまっていたのじゃな。申し訳ないのぉ。仕方ないのじゃ…わしはこの屋敷から出られんからのぉ。だから、おぬしの方から来てもらったのじゃ。少し強引だったかの?」


 こいつぅぅぅ! またしても俺の心の声を聞きやがったなぁ! なぁにが『怖がらせてしまっていたのじゃな』だ!すっげー怖かったし、現在進行形で怖いんですけど! お願いだからもう消えてくれ! 俺は恐怖で声が震えて出せないので心の中で叫んだ。


「いや、普通に声に出ておるぞ」

「…………。」


 10秒程だろうか俺は完全に思考が停止してしまった。まさか、声に出していたなんて…


「俺の悪癖めぇぇぇ!」

「そういうこともある。落ち着くのじゃ」


 さっきまで俺を怖がらせていたくせに、今度はなだめてきた。なんなんだこいつと思うが、未だに右横を見ることが出来ないでいるのが情けなく思ってしまう。


「さて、そろそろじゃな」


 な、なにが、そろそろなんだ…。俺はまだ死にたくない…!


「お、俺は、俺には」


 俺は声を震わしながら必死に言葉を発する。


「き、きっと、やるべき、ことが、まだ、残っている、んだ」


 正直、何を喋っているのか自分でもわからない。でも、だけど……


 それでも……


「俺は生きたいんだ!!」


 俺は叫ぶ。自分の思いを


「何でもするから、俺を生かしてくれ!!」

「……」


 この言葉は右横にいる得体のしれない奴には伝わったのだろうか。何も反応を示して来ない。その沈黙がより一層俺を不安にさせる。


「何でもするのか?」


 静かな声が聞こえた。


「あ、いや、うん、そう、死ぬこと以外で、お願いします」

「うむ。そうか!」


 その瞬間、俺の瞳に糸のような細い金色の髪が映った。俺が瞬きをする間もなく、そいつは、その少女は、俺の額に口づけをした。口づけをされた額がかすかに熱い。俺は、この少女に一体何をされたのだろう。


「契約成立じゃな!」


 そう言い放ちにっこりと笑った少女の姿に衝撃を受けた。少女の瞳の色は紅くまるでガラス玉ように綺麗で、つややかな金色の髪は両サイドで二つにまとめており、服は純白のドレスを身に着け、ドレスから出るスラッとした白い足に俺は魅了させられた。

 今まで俺が怖がっていたのは、こんな美少女だったのか。その姿はまさに天使のようだ。


 しかし、一つ気になったことがあった。それは、少女が俺の頭より高い位置にいるということだ。背が高いわけではない。そう、少女は浮いている。確実に浮いている。浮いているが、正体がわかったからか不思議とさっきまでの恐怖はなかった。


「やっぱり、おばけなの?」

「さっきも言ったであろう。おばけではないのじゃ」


 少女は俺の問いかけに冷静に答えた。


「えーと、じゃあ、天使だな!」

「わしは魔王なのじゃ」


 少女は天使という単語を聞き、嫌そうな顔をして話を続けた。


「失礼じゃの。わしは正真正銘しょうしんしょうめいの魔王じゃ。その証拠にわしには紅い目がある」


 少女は自身の紅い目を指さしたが、俺が困った顔をしていたのに気付いたのか咳払いをしていた。


「紅い目というのは魔王の血統を表すものなのじゃ」


 この少女の言っていることは本当なのか?にわかには信じられない。自分のことを魔王だと思い込んでいるおばけじゃないのか?浮いているし。


「だーかーらーおばけではないと言ってあろうに!しつこいぞ。まったく」

「あれ?もしかしてまた俺の心の声が口から出ていた?」

「出ていたも何もダダ漏れじゃ!」


 俺が中々信じないからか、少女が怒っているような気がする。しかし、いきなり魔王と言われて信じるのは難しいように思えるのだが……。俺、間違ってないよな?


「大体、さっきからわしのことを少女と言っておるが、わしは少女と言われるような年ではない!」

「え?じゃあ、幼女?」

「違うのじゃ!わしは120歳なのじゃあ!」

「ババぁじゃねぇか!」

「う、うぬ…そう言われると少し傷つくのじゃぁ……。人間からしたらそうかもしれぬが、魔族からしたら、まだ若い方なのじゃ」

「あ、ごめん……」


 年齢が高いと分かった途端、つい強気になってしまった。中身は知らないが、外見は少女だから傷ついた姿を見るのは嫌だな。もう少し優しく接してあげないとな。子どもに話すときはどういう感じで話したら良かったっけ…?こうか?


「ごめんね~。お兄ちゃん失礼なこと言ってばかりで~」

「馬鹿にしておるのか」


 どうやら、120歳の少女は少女ではないらしい。


「あたりまえじゃー!」


 この可愛らしい外見と言動で俺の恐怖心は完全になくなった。






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