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魔王が俺にとりついた!  作者: むのた
第一章
12/50

第12話 妹の学校

 俺とサラファはアリーシャが通っている学校の目の前にやってきた。

 学校の校舎についてある時計を見ると、針は11時をさしていた。


「予定通りに学校に着いたな……。今はまだ授業中か」

「しかし、門が閉まっていて入れぬぞ」


 そうだ。学校に着いたはいいものの、サラファの言った通り、校舎へ行く門は閉ざされていた。


「ちょっと、学校の周りを回ってみよう。もしかしたら、入れる場所があるかもしれない」


 ということで、学校の周りを歩いてみることにした。昔と変わらず、学校の周りは木や花が咲いていて自然豊かだ。学校の裏には川がゆっくり流れており、耳をすませば小鳥のさえずりが聞こえてくる。


「教育する場所としては、穏やかでとても良い所じゃな」

「そうだろ。こういう所だから、すぐ眠たくなるんだよ」

「それは言い訳じゃな」


 学校の周りを一回りしてみたが、結局入れそうなところはなかった。


「さすが学校だな。防犯対策はバッチリだ」

「どうするのじゃ? 帰るのか?」

「いや、せっかく来たんだからまだ帰りたくないな」


 どうしようか校門前で悩んでいると「ちょっと君」という声が聞こえてきた。声が聞こえた方を見ると、学校の門越しに黒いスーツを着た女性が立っていた。


「フィフス学園の前で一体何をしているの?」

「え、えっと……」

「ん? 君、もしかして……アクト・オロトルス君?」

「え?」


 俺は、話しかけてきた黒いスーツを着た女性の顔をしっかりと見た。焦げ茶色の前髪は眉毛よりはるか上にあり、前髪と反比例して地面に着きそうな長い髪は頭の上で一つにくくっている。


「その独特な髪形は……」

「アクトくん。あなたの担任をしていたミレイナ・ヴァイレオンよ。ちゃんと覚えている?」

「覚えていますよ。そんな独特な髪形を忘れるはずがないじゃないですか。」

「何で、学校の前でウロウロしているの? 不審者だと思って警戒していたじゃない」

「学校の中に入りたかったんだけど、門が閉じていて困っていたんです」

「そうなの? インターホンを押してくれたら、入ることが出来たのに」


 俺の元担任ミレイナ先生は、閉ざされた門のすぐ横にあるカメラ付きインターホンを指さした。


「インターホンなんて、俺のときにはなかったのに、随分と厳重になりましたね」

「最近は変な人が多いからねー。だから、アクトくんも気を付けるのよ」


 ミレイナ先生はそう言いながら笑って門を開けてくれた。


「アクトくんは何をしに来たの?」

「い、いやぁ、久しぶりに学校に来たくなっちゃって……」

「その気持ちわかるなぁ。働くと学校が恋しくなるときあるよね」

「ははは……」


 今現在、俺は働いてはいないが……。まぁ、働いていなくても懐かしい場所に行きたくなる気持ちは誰でもあるだろう。


「じゃあ、私はこれで。帰るときは職員室に顔を出しに来てね」

「わかりました。ありがとうございます」


 そこで、先生と俺は別れた。


「さっきの女性は誰じゃ?」

「あの人は、3年間、俺の担任だった人だ。とても優しい人で、俺が授業中寝ているときも頭ごなしに怒らず、ちゃんと理由を聞いてくれた。まぁ、俺は正当な理由がなくて、結局怒られていたけど」

「ほぅ。いい先生なようじゃな」

「学校に来て良かったな。なんかほっこりした」

「良かったのぉ。しかし、おぬしの目的はこれではないじゃろ?」

「そうだな。アリーシャの様子を見に行こう」


 確かアリーシャは1年2組だったはずだ……。俺がいたときと教室が変わっていなければ、裏庭から教室の様子が見られるはずだ。

 校舎の1階にある1年2組の教室の中を覗くことが出来る裏庭にやってきた。

 ばれないように気を付けながら窓ガラス越しに教室の様子を見る。

 どうやら、俺がいたときと教室の配置は変わっていないようだ。アリーシャがいた。アリーシャは一番前の席に座っている。


「扉とかを壊していると思っていたら、意外にもちゃんと大人しく座っているじゃないか」

「おぬしは自分の妹をどんな風に見ておるのじゃ」


 しばらく様子を見ていたが、特に変わった様子は見られなかった。俺もまだ誰にも気づかれていないと思う。そうしている内に『ゴーン、ゴーン』とベルが鳴った。


「なんの音じゃ?」

「この音は授業が終わって、今から昼休みだということを知らせるベルだ」

「ふむ。学校というものは興味深いのぉ」

「お前、学校行ってなかったのか?」

「わしは魔王じゃからの」


 続々と教室にいる生徒がお昼ご飯を一緒に食べるグループを作っている中、アリーシャは一人ポツンと椅子に座っていた。


「うわぁぁぁぁ。やっぱり、ぼっちじゃないかぁぁぁ」


 何となく予想はしていたが……。


「いや、まだ決断を下すのは早いのじゃ」

「え?」


 サラファは俺の肩に手を置き、アリーシャの方を指さした。俺は、片目をつぶりながら恐る恐るサラファが指さす方向を見た。

 俺の瞳に映ったものは、希望だった。アリーシャの側には、癖のある水色の髪を三つ編みにし、眼鏡をかけた大人しそうな女子がいた。


「アリーシャちゃん。一緒にお弁当食べよ」

「うん! 今日のアリーシャのお弁当はきっととても美味しいよ!」


 な、なんと、アリーシャには友達がいた! 一緒にお弁当を食べる友達がいたんだ!!

 しかし……まだ友達と決まったわけではない。後で傷つかないように『アリーシャの友達(仮)』と呼ぼう。


「サラファ、どうしよう……。俺、嬉しすぎて泣いちゃいそう……」

「泣くのはまだ早いぞ!しっかりと目に焼き付けるのじゃあ!」


 俺は泣きそうになりながら、アリーシャとアリーシャの友達(仮)の会話を聞き漏らさないように、耳を澄ませて聞く。


「アリーシャちゃんそのペンダント可愛いね」

「ありがとう。これはアリーシャのネックレスだよ」

「うん。知っているよ」

「アオイちゃんも手に付けている墓石みたいな石がついている首輪みたいなの可愛いよね!」

「これは、首輪じゃなくてブレスレットだよ。墓石じゃなくて、パワーストーンだよ」


 俺はこの女子高校生らしい会話を聞いて、涙が滝のように流れた。


「ア、アリーシャが、普通に女の子と話をっ……している!」

「少しおかしい部分があるように思えるのじゃが……」


 泣いている俺を横目にサラファは首を傾げながら「あれが普通だとするなら、わしはおかしいのじゃろうか?」と呟いていた。

 滝のように流れる涙を拭いていると、サラファが俺の腕の皮膚を引っ張った。


「痛いって! だから、皮膚を引っ張るなよ!」

「あれを見るのじゃ!」


 サラファは再度、アリーシャの方を指さした。

 なんだよ。どれだけ、俺に涙を出させる気だよ。もう俺の涙は枯れているぞ。まったく。


「ねぇねぇ。アリーシャちゃん。アオイちゃん。今日の放課後ヒマ?」

「え? アリーシャに話しかけているの? あなたは誰?」

「アリーシャちゃん。この人はケイン君だよ。」


 な、なんと、アリーシャに話しかけてきた奴は、なんと『男』! しかもイケメンだ!!

 なんていうことだ。俺の妹が実は勝ち組だったなんて……。

 お兄ちゃん悔しい!!


「お兄ちゃんとやら……心の声が出ておるぞ」

「また出ていたか。それは、それは、とても恥ずかしいな……」

「うむ」


 恥ずかしいという言葉を聞き、サラファは「うんうん」と頷いていた。余計なお世話だ。

 そうこうしている内にベルがもう一度鳴った。


「ベルが鳴ったのじゃ」

「このベルは休み時間が終わりって合図だ」

「ふむふむ……」

「このまま、放課後まで待ってみるか」

「完全な不審者じゃな……」

「うるせぇよ」


 サラファは俺を小馬鹿にしているようにニヤニヤと笑っていた。






 俺たちはあれから2時間弱授業が終わるのを待ち続け、ようやく最後の授業が終わったことを合図するベルの音が聞こえてきた。


「む……。これで終わりかの?」

「授業はもう終わりだな。長かったな~」

「そうかの? そうは思わんかったが」

「サラファは100年屋敷の中にいたからじゃないか?」

「そうかもしれんの」

「それにしても、アリーシャは授業中は特に変わりなく、授業を受けていたな」

「勤勉な学生といった印象じゃの」

「問題はこの後だ! もしかしたら、アリーシャがイケメンとデートをするかもしれない……!」


 俺はアリーシャの行動を見逃さないようにじっと見つめた。

 すると、昼休みに一緒にいたアリーシャの友達(仮)と、な、なんと、イケメン男子がアリーシャに話しかけていた! 更に、イケメン男子の後ろには、もう3人イケメンが立っていた!


「な、なんてことだ。妹がモテモテだっただなんて……」

「まだそう決めつけるのは早いのではないか?」

「そ、そうだな……。ちょっと待て、それは妹に対して失礼だぞ」

「すまぬ……。悪意を持って言ったわけではないぞ……」


 俺がサラファの言葉に抗議している間にアリーシャ達は教室を出ていってしまっていた。


「やばい! 見失った!!」


 俺は慌てふためき、みっともなく手足をばたつかせてしまった。


「落ち着くのじゃ! まだ遠くには行っておらんじゃろう」

「そ、そうだな。わりぃ……」


 俺は、アリーシャ達の後を追うために校門へ行こうとした。その時、前方から女子と男子の声が聞こえてきた。俺は反射的に木の陰に隠れた。


「危ねぇー。今見つかったら不審者としか思われないよな」

「いつ見つかっても不審者じゃがな」


 女子と男子はそのまま俺たちの方へ向かってきて、俺が隠れている木の近くで立ち止まった。

 もしかして、俺がいることがばれているのか……?


「ふむ。あれは、おぬしの妹の友人とさっきの男たちじゃ。おぬしの妹はおらんようじゃが……」

「なんだと!」


 俺は、小声でサラファの言葉に反応した。

 アリーシャの友達(仮)とイケメン男4人衆の会話が聞こえてくる。


「アオイちゃん。これから俺たちと遊びに行こうよ」

「え? でも、アリーシャちゃんは……」

「別にいいじゃん! 俺達アオイちゃんだけでいいし!」


 なんということだ。あの腐れイケメン共はアリーシャを除け者にしようとしている。


「私は止めておくよ……。アリーシャちゃんと一緒に帰りたいし」

「アオイちゃんさー。何でいつもあの変な子にべったりな訳?」

「ちょっと変わってるよなー」

「アリーシャって何か怖いじゃん?」


 あのイケメン達め……。好き勝手言いやがって……。


「お前たち、女の子のことを悪く言うなよ」

「ケイン君……」


 ケインと呼ばれた金髪碧眼の男は、イケメン4人衆の中でも最もイケメンだった。

 顔も良ければ、性格も良いってことか……。


「アオイちゃん」


 ケインと呼ばれたイケメンは優しく微笑み、アリーシャの友達(仮)のあごを持ち上げた。


「一晩だけでいい。俺と遊ばないか?」


 ケインというイケメンはキザで最低な台詞をいとも簡単に言いやがった。


「最低じゃな……」

「最低だろ……」


 どうやらサラファと気が合ったようで、俺達は口を合わせてそう言った。


「やめてっ……!」


 アリーシャの友達(仮)は嫌がり、ケインというイケメンの手を払いのけた。拒絶されたイケメンは眉をひそめ、口を歪ませた。


「この俺の手を払いのけるなんて、君はぁ、なんてことをしてくれたんだ!」


 さっきまで、優しく微笑んでいたイケメンが打って変わり、すさまじい形相ぎょうそうでアリーシャの友達(仮)の手を掴んだ。


「これが、学校というところなのか!? 変な奴ばかりではないか!」


 俺は驚くサラファを尻目に少しずつ後ずさりをしていた。何のためかって?

それはもちろん……





 逃げるためだ。





「おぬしは、なにをしているのじゃ?」


 俺の考えが凄まじい速さで伝わったのか、サラファは低い声を出し、目を細めながら俺を見ていた。

 涙で枯れ果てたはずの水分は今度は背中から、顔から、ダラダラと流れてきた。






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