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魔王が俺にとりついた!  作者: むのた
第一章
10/50

第10話 もどかしさ

 アリーシャが魔王のことを知っている? 俺は知らないのに、何故だ? 次に出るアリーシャの言葉を聞くと、その疑問はなくなった。


「この前、学校で習ったよ! お兄ちゃんも習っていると思うんだけど? もしかして、お兄ちゃんは学校に行ってもずっと寝ていたから、知らないのかな!?」


 確かに、俺は学校に通っていたときはずっと寝ていた。もう、一年も前の話だが。


「なんで、そのことを知っているんだよ!」

「アリーシャの想像だよ? お兄ちゃんが起きているところなんて、アリーシャは想像出来ない!!」

「本当のことだけど、失礼だな」

「100年前に、人間と魔王が戦争をしたんだよ!」

「そうなのか!?」


 学校の授業でそんな話聞いたことがない。ずっと寝ていたから当たり前だが。


「なんで、戦争なんかしたんだよ?」

「えー? 詳しいことは知らないよ。学校の授業でも詳しいことまでしていないから」

「それで、魔王と戦争をして、魔王はどうなったんだよ?」

「うーん。戦争は人間が勝ったみたいだけど、魔王がどうなったかなんてアリーシャは知らないよ。何でもかんでもアリーシャに聞かないで! お兄ちゃんが何も知らないのは、勉強をしていないお兄ちゃんが悪いんだからね!」

「ごもっともだが……」


 そう言って、アリーシャは俺の部屋にある目覚まし時計の針を見た。


「あー!! もう19時!? 大変だよ!! アリーシャは21時までに寝なくちゃいけないから、急いでお風呂に入ってこなくちゃ!! そういうことだからお兄ちゃん、おやすみなさい!」


 アリーシャはそう言い残し、扉が無くなった俺の部屋の入口から、ドスドスと音を立てて出ていった。

 俺はとりあえず、応急処置として重たい扉を部屋の入口に立てかけた。


「あー。腰が痛い。また母ちゃんに言わないとな」

「おぬしも随分、慣れておるのぉ」

「そりゃあ、五回もされたら慣れるだろ」


 サラファは扉をまじまじと見つめていた。


「しかし、あのような華奢きゃしゃな体つきの娘がこのような重たそうな扉を投げるなんて、想像も出来んかったのじゃ」

「ギャップ萌えってやつだろ?」

「うむ? ギャッ……それはどういうことじゃ」

「簡単に言ったら意外性があるっていうことだ。やっぱり、120年の差は大きいな」

「ふむ。わしは今の言葉はあまり理解ができぬな」


 俺がそう言うと、サラファは腕を組み、少し頬を膨らませていた。サラファもギャップ萌え要素はあるよな……と思ったりした。外見は10歳でも中身は120歳なんだもんな。そういう年齢のギャップが需要があるかと言われればそこは何とも言えないが……。


「おぬし、聞こえておるぞ」

「あ、また俺の心の声が口から出ていたか」


 チラッとサラファを見ると、サラファの頬はさっきより一層膨らんでいて、食べ物を頬に詰めすぎたハムスターのようになっていた。


「そういえば、アリーシャはサラファのことを白いふわふわ~っとしたものと言っていたな。サラファのことが見えているっていうことは、アリーシャも魔力が多いということか?」


 どんどん膨らんでいくサラファの両頬を見て、俺は話題を変えることにした。


「む……。確かに、人間にしては多い方じゃな。しかしあの娘、変わった目の色をしておるな」

「そうだろ。俺と母ちゃんの目の色は茶色なんだが、アリーシャだけは、茶色に紫色が混じっているだろ? 俺は、綺麗な色だと思うんだが、周りから見たら不気味みたいで…アリーシャはよくそのことで友達と喧嘩していたんだ」

「ふむふむ……。あの目は生まれつきなのか?」

「そうだよ。何か、やけに聞いてくるな? そんなにあの目の色は不思議か?」


 サラファは顎に手を当てて、10秒程間を空け、「そうじゃな」と呟いていた。


「まぁ、わしの気のせいじゃろう。気にするな」

「そうか? それならいいんだけど……」


 サラファとこうして話をしている間、俺は先ほどの妹との会話を思い出していた。サラファに聞いていいものかと迷ったが、気になるので聞いてみることにした。


「なぁ、サラファ。やっぱり、お前は人間に負けたから、あの屋敷の中にずっといたのか?」


 そう質問すると、サラファの目は大きく見開き紅い瞳は揺れ、その後にゆっくりと目を細めた。

 サラファは下を向き、黙ってしまった。


「あ、あの……」

「いや、そうではないのじゃ」


 もしかして俺は、聞いてはいけないことを聞いてしまったか……? そう思い、話を変えようと言葉を発したが、その言葉はサラファに遮られた。



「わしはあの戦争には、参加しておらぬ」



 サラファはゆっくりと上を向き、俺の方をじっと見つめた。俺に何かを訴えるような瞳をしているサラファ。サラファの様子がいつもと違う。やっぱり、聞いてはいけないことだったのだろう。

 憂いを帯びたその紅い瞳は俺を映す。俺は、その瞳から目を離すことが出来ない。その瞳に引き込まれ、ゆっくりとゆっくりと、サラファと俺の距離が縮まる。


「サラファ……」

「アクト」


 サラファは俺から視線を外し、俺との距離を離した。サラファの顔を見ると頬は赤色に染まり、視線は横に逸らしたままだった。




「わ、わしは、戦争が始まったときも、終わるときも、終わったあとも……! ずっと、ずっと……!」




 サラファはそう言った後、瞳を潤ませながら唇を噛みしめた。


「ずっと……あの屋敷の中におったのじゃ……」


 サラファは溢れそうになる涙を自身の手で拭い、垂れ下がった眉毛を手で上げて、いつもの調子で喋り始めた。


「わしは戦争中、外には出ておらんかったから、あまり戦争の様子は知らぬ。だが、戦争を起こしたのはわし以外の魔王じゃ」


 俺は、サラファに拒絶されたことを引きずらないように、必死に平静へいせいを装った。


「サラファ以外の魔王? 魔王ってサラファだけじゃないのか?」

「魔王はわしだけではない。北の魔王、東の魔王、西の魔王、わし以外に3人おる」

「北、東、西……。ということは、お前は……? 南……?」

「そうじゃ。わしは南の魔王と呼ばれておった。わしの屋敷が南にあったから、そう呼ばれておるのじゃろう」


 そう言い終わるとサラファは手を叩いた。


「もう、この話は終わりじゃ! おぬしももう疲れたであろう。今日はゆっくりと休むのじゃ!」

「あぁ、そうだな」


 俺は部屋の明かりを消して、ベッドの中に入った。


「サラファ。一緒に寝るか?」


 俺が冗談交じりにそう言うと「ふん!」と鼻で笑う音が聞こえた。












「ピピピ……ピピピ……」

「う~ん」

「ピピ……」


 7時にセットをした目覚まし時計が俺に起きろと言ってくる。俺は目覚まし時計を止めて、もう一度布団をかぶり目を閉じた。


「なんじゃ? 起きぬのか?」


 サラファの声が俺の耳を通り抜ける。


「う~ん」

「もう朝じゃぞ。起きるのじゃ」

「う~ん」

「おぬしの母もご飯が出来たと言っておったぞ」

「う~ん」


 俺は能力『ノイズキャンセラー』を使い、サラファの言葉を聞こえなくした。


「むむ……。もうよい……」


 サラファは諦めたのか、俺に声をかけなくなった。

 これで、ゆっくりと寝ることが出来る……。再び、夢の世界の扉が開きかけた。その時――


「いつまで、寝ているんだい!! 早くご飯食べなさい!」

「うわっ!」


目 覚まし時計より大きな声とともに、俺の布団がはぎ取られた。


「あぁ! 俺の至福の時間が-!!」

「早く起きるんだよ!」

「母ちゃん! なにするんだよ!」

「あんたを起こしているんだよ。さっさと起きな!」


 俺は、しぶしぶベッドから起き上がり、ご飯が用意してあるリビングに移動した。

 母ちゃんとアリーシャはもう食べたのだろう、机の上に皿に乗った一人分のスクランブルエッグとウィンナーとパンが置いてあった。


「母ちゃん、アリーシャはもう学校に行ったのか?」

「そうだよ。今日は日直だから早く行くって言っていたよ」

「ふーん。そうなのか」

「毎日、遅刻ギリギリだったあんたとは大違いだね」

「うるせぇよ。アリーシャがまた俺の部屋の扉を壊したぞ」

「また修理頼まないといけないね~」


 そうして話しているうちに朝食を食べ終えて、汚れた食器を台所へ持って行く。台所にキラリと光る物が目に入った。その光る物――包丁を手に持った。


「やっぱり、短剣より家の包丁の方が重いな……」

「包丁を持ったままブツブツ言って、どうしたんだい?」

「い、いや、重たいなと思って」

「そうかい?普通だとおもうけど」


 母ちゃんは頭に?を浮かべた表情をしながら、通り過ぎていった。


「ま、まぁ、普通の重さか……」


 俺はそっと包丁を元の場所に戻した。






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