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マルガレーテの活躍で、食卓にはおいしそうなミートパイとマッシュポテトが並んでいた。
俺が作ったアップルパイはデザートとしてキッチンに置いているが、ヴェントの子供たちがつまんでいくため、食後まであるかは神のみぞ知る。
さて、シャルロッテとナスターシヤを呼んでくるかと思ったところで、慌てた様子のシャルロッテが部屋から出てきた。
「どうしたんだ?」
「そのことは後で説明します!!今はギルドへ行ってきます!!」
一刻の猶予はないと飛び出すので、俺もシャルロッテを追ってギルドへ行く。
「遅くなるようだったら、先に食ってろ!!シャルロッテはニョッキとパテがあるから大丈夫だろうし!!」
そう言い置いて行くのも忘れない。視界の端に映ったアリスとMの様子を見るに、確実に全部食われるんだろう。ここはマルガレーテが取っておいてくれることに期待するしかない。
ギルドに行く途中、シャルロッテと無事合流した俺は二人でギルドに駆け込んだ。
「どうしタ?」
テキパキ高速で書類を片付けながら、フォレボワ・ギルドの受付嬢が言う。つか、目の前のカウンター越しにも分かるアリエナイ量の書類に、ヴェント・ギルドの受付嬢の仕事のしなさが見えた。あのヒト、本当にどれだけ仕事を溜め込んでいるんだろうか。それ以前によくクビにならないな。
「今すぐに一般人に探索を止めてください!!」
前置きもなくシャルロッテが言うが、鬼気迫る様子にフォレボワ・ギルドの受付嬢は即座に了承した。
「話ハ後ダ。止めニ行くゾ」
カウンターを飛び越えて俺たちの前に降り立った受付嬢は、巨躯からは想像もつかない素早さでギルドを飛び出す。出掛けに「本日臨時休業」の札を出すことも忘れないあたり、受付嬢の鑑だ。
ヴェント・ギルドの受付嬢所有の畑にいくと、数人の足跡を見つけた。
俺たちは急いで中に入ると、途中でフォレボワ・ギルドの受付嬢が足を止める。
「恐らク、ワタシが行かなイ方ガ、いいのだろウ?」
シャルロッテの様子で色々察したらしく、そういって待機を申し出た。
「はい。クラウディオさん、黙って進みましょう」
「ああ、理由はあとで頼む」
シャルロッテの様子、受付嬢がいないほうが良い状況と音を立ててはいけないことを考慮すると、思い当たることはある。
おそらくは落盤の危険性があるのだろう。
そもそも、水流があるので冬季限定と言っていたが、山越えよりも安全ならば、水流を変えて使用したはずなのだ。それが、山越えのできない冬に限定して使われるということは、山越え以上の危険性があると思ってしかるべきである。
小規模の落盤ならば、対処もできるが、大規模のモノとなると厳しいというか、純土属性でもなければどうにもならないと考えて、俺は歩を緩めた。
駆け出しそうになっていたシャルロッテがそれに気がつき、立ち止まる。
「アンジェリカさんは純土属性だったよな」
小音量ならばそんなに危険もないだろうと、小声で俺は言う。
「もしかして、探索に参加されているんですか?」
そういえば、シャルロッテはヴェント・ギルドの受付嬢が探索に参加していることを知らなかったのだ。
「それなら、最悪の事態にはなりませんね」
どこかほっとしたように言うと、今度はゆっくり歩き出す。
「それなら、説明をしながらって、もう察してますよね」
「落盤か?」
「はい」
やはり落盤の危険性があるのだろう。
「ナスターシヤちゃんが言うには、ここを通過する商隊は必ず数隊に分けて全滅を避けていたそうです。それでも、運が悪いと数年に一度は全滅もあったそうです」
危険すぎるだろう。つか、そんな場所を商隊に通過させるなと言いたい。
数分後、はっちゃけながら探索する受付嬢と親衛隊のじいさんたちを目撃した俺たちは、落盤を心配したことが馬鹿らしくなる。




