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とりあえず、小麦粉はシャルロッテに売ってもらうことにして、宿屋に戻ると、キッチンでそのシャルロッテがニョッキとパテを量産していた。誰がこんなに作れと言った。
「あ、マルガレーテの王子様!!おかいりなさい!!あたしにします?あたしにします?やっぱりあたしにします?」
そこまでが、「おかえり」のテンプレと化しているマルガレーテが出迎える。
「ただいま。それと、シャルロッテ。リンゴを買ってきたから、キッチンを使いたいんだが?」
「分かりました。私はいつでもいいのでどうぞ」
既にどうするんだと訊ねたい量を作っていたシャルロッテがあっさり言う。視線で礼を示すマルガレーテが本当に洒落になっていないのが恐ろしい。あれだ、アリスとは別の意味でキッチンに入れたら駄目な感じだ。
「その前に、小麦粉を売ってくれないか?」
「夫婦間に金銭のやり取りは、私の趣味ではないので、自由に使っていただいてかまいません」
俺が帰らなければ、どれぐらいの量のニョッキとパテが出来たのか考えたくもない量の食材を指しながらシャルロッテが言う。
大食いのアリスとMですら救世主を見る目で俺をみてくる現状が、すべてを物語っている。
「ありがたく使わせてもらう」
「マルガレーテの王子様!!ジャガイモとか肉とか使いませんか?!」
「そうだ!!あたいも手伝うから、ジャガイモと肉を使った料理を作らないかい?!」
大量生産を間近に見ていた二名の必死さがイロイロ酷い。
「アップルパイのついでにミートパイでも作るか」
「じゃあ、ジャガイモはわたしとエっちゃんがマッシュポテトにするね!!」
俺が言うと、アリスまで参加してくる。潰す作業ならば、任せても大丈夫だろう。他の作業をしかけたら、スキルでの静止も考慮に入れて俺は頷く。
「……ナスターシヤ、街道の話してる」
「そういや、冬の道って言ってたな。シャルロッテの方が、そういうのに詳しそうだし頼んでいいか?」
「そうですね。クラウディオさんはフォレボワから出たことがなかったんでしたっけ。分かりました」
「……うん」
そういって、シャルロッテとナスターシヤが部屋に戻って行く姿に達成感を覚えてしまった。それは俺だけではないらしく、マルガレーテとMの表情にも表れていた。なお、皮がついたままのナマのジャガイモを潰そうとしているアリスは除くと言うか、マジで待て。
「マルガレーテ、そいつら任せてしまってもいいか?このままだと、食材だった毒物的なナニカになる!!」
「そんな、任せるだなんて!!あたしなら、いつでもどこでもマルガレーテの王子様のオーダーに答えます!!特に夜だとか夜だとか夜だとか!!」
「アリス、M、マルガレーテの言う通りにしてくれ。本当に頼むんで」
Mは不明だがアリスは破滅的センスの持ち主なので、それはもう心から言う。
「了解!!みんなで料理って楽しいね!!」
「単純作業なら、あたい、得意なんだ!!」
多分、きっと俺たちの昼食は食べられるものになるハズだ。




