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受付嬢と愉快な青年団と分かれたあと、露天を見ながら俺はふと気がついたことをナスターシヤに訊ねる。
「なあ、地下の街道って知っていたりするか?」
俺のローブを掴んで、蕎麦の実を眺めていたナスターシヤが少し考える素振をして頷く。
「……ウダール・モールニに行く道、冬の道」
「冬って」
「……凍ると通れる」
「なるほどって、あれ?これ、地下街道で行ったほうがよさそうなのか?」
俺が考えていると、露天商のおやじにリンゴを貰っていた。なんてこった。
「おい、アリス、貰ったら買わなきゃならなくなると、何度言ったら分かるんだ!!」
「大丈夫だよ!!ちゃんと、お金ないって言ったもん」
「おうよ、兄ちゃん、これ、端が痛んで処分するとこだったヤツだから、引き取ってもらえてよかったってくらいだ」
言いながら、俺とナスターシヤにもリンゴをくれた。なんていい人なんだと感動しそうになったのは、この町に来て会う人会う人みんな突っ込みどころ満載な人たちだったからだろう。
「ありがとうございます」
「……ありがとうございます」
俺とナスターシヤがお礼を言うと、露天商のおやじがにかっと爽やかに笑う。
「あれだ、手前もアノ大食い見てたんだ。このネエちゃん、えらい食うから食費が大変だろう?」
なんという理解者。思わずおやじの両手をひしっと握ってしまった。俺、絶対に疲れている。
「凄いね!!わたしが借金だらけだって、見ただけでわかるんだね!!」
アリスも感心して、俺同様におやじの手を握る。
「いや、アリス。アノ大食いを見たら、大抵の人が想像するっていうか、そこまで言われてないだろ!!」
「本当に面白いネエちゃんだな。ほれ、これも持ってけ」
ぽいっと、もう三つリンゴをくれた。これ、アリスのコント的な言動に対する報酬でいんだろうか。
「やった!!ありがとうございます!!」
満面な笑みでリンゴを抱えるアリスを見るおやじの目が楽しそうなのでよしとする。
「……リンゴ」
ずっと静かに見ていたナスターシヤが呟く。
「おっと、ごめんよ、嬢ちゃん。ほれ、これやるよ」
すると気がついたおやじが姫リンゴだろう、小さなリンゴをナスターシヤにくれた。本当にたかりに来たようで申し訳ない。
「すみません、このリンゴ、十個ください」
「おっ、にいちゃん、お買い上げありがとよ」
結局は買うことになってしまったのだが、まあ、このおやじがいいヒトなので、よしとする……したい……していいんじゃないかな。
「帰ったら、アップル・パイでも作るか」
小麦粉を買おうとして、シャルロッテに買い占められたことに気がつくのは、それからスグのことだった。




