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ふんふんと鼻歌を歌いながらアリスが進む。
途中の雑魚も鼻歌を歌いながら滅多切りにしていた。
俺とシャルロッテとマルガレーテは、そんなアリスの数歩後ろを歩いている。
「悪いな」
結局、アリスの金稼ぎに強制参加になってしまった冒険者二名にわびる。
「いいえ、私も助けてもらいましたし」
「あたしはマルガレーテの王子様についていくだけですから!!」
きゃっきゃっ言うマルガレーテだが、迷宮内でしがみつく真似はしない。こいつも、色々ぶっ飛びながらも冒険者なのかと感心してしまった。だが、近道(物理)を思い出してしまい、そうでもないなという結論に落ち着いた。
「それに、もともと、私もマルガレーテちゃんも、本当にサンプルが採取できれば良かったんです」
「ああ、研究タイプの冒険者なのか」
「そんな感じです」
冒険者の中でも図鑑作成だとかを目的にする人たちを、俗に研究タイプと呼ぶ。正確にはマッピングする測量タイプ、図鑑の中でもモンスターを主に調査する生態系研究タイプなど細分化しているみたいだが、詳しくは知らない。
シャルロッテはまだしも、意外とマルガレーテも研究タイプっぽいのには驚く。
などと、アリスから目を離したのが悪かった。
ふっと、前を見ると、まさにアリスが思いっきりトラッップを踏んだ瞬間だった。
「逃げろ!!」
全速力で駆けて、勢いのままアリスに飛び蹴りを入れる。
「あう、痛いよ!クロす……」
ずどんと重々しい音が、俺の背後でする。背後というか、背中スレスレだ。ついでに言えば、ローブの端が後ろのナニかに巻き込まれたようだ。危ないなんてレベルではない。
「アリスさん!クラウディオさん!」
「おー、無事だ」
首を回して、後ろのナニかを確認して、顔が引きつった。決して狭くは無い通路がふさがるくらいに太い杭が刺さっていた。これ、純闇の<回避>の高さがなければ、脳天からペッタンコなトラップだ。
「あっぶねぇな。誰が仕掛けたんだよ」
「うーん。作ったのはマリアさんだよね!」
誰が仕掛けたかは知らないが、こんな迷惑なモノを作るのはあの武具屋しかいまい。いて欲しくない。
「とう」
と、マルガレーテの声がして、枝が絡み合ってできた壁に穴があいた。抜け道(物理)は今はグッド・ジョブだ。
「マルガレーテの王子様は無事ですか?かすり傷があってもなくても舐めて治します!」
「すっごい、トラップですね」
飛び出てきたマルガレーテは言いつつも、短剣で巻き込まれたローブの裾をブチブチ切り離していく。さすが土属性持ち、器用にこなす。アリスがやったら、たぶん、俺が負傷するところだった。
「このトラップは……」
「さわるな!」
トラップにふれようとしたシャルロッテを止める。
あのマリアさん製造と思われるトラップだ。何が仕込まれているか分からない。
俺は闇属性スキルのカース・ガイドを使って、何が仕込まれているか調べる。状態異常に対して、除去するスキル一切持たず、中和で解除していく純闇のクレリックにとってなくてはならないスキルだ。普段は複数の状態異常が含まれたスキルなどで攻撃されたときに、どの状態異常をくらったのか解析する。
「…………マリアさん確定」
「うわぁ」
「睡眠・麻痺・凍結・猛毒・出血・衰弱などだな。即死以外は全部あると思って良い」
「それは……」
シャルロッテも絶句している。
そうこうしているうちに、マルガレーテがローブの端を切り離し終わっていた。
「ちょおっと、待っててくださいな、マルガレーテの王子様!」
言うと、土属性スキルのアース・プローブを使う。アース・プローブは地中のトラップや、待ち伏せする人間やモンスターを察知するスキルだ。地味にこのスキルもそこそこの熟練度がなければ習得できないスキルである。シャルロッテと同じく、マルガレーテもアサシンとしてはそこそこなのだろう。
「うげ。あの、マルガレーテの王子様。この先、トラップだらけです!」
どんだけ、迷惑なモンを作ったんだ。あの武具屋。
「回収できそうか?」
「マルガレーテの王子様の愛に応えたいんですけど、無理です」
純土属性製作トラップだからだろう。もう、俺の中でマリアさんは真っ黒だ。
どうしたものかと考えていると、トラップが霧散した。使いきりタイプらしい。
「アリス、お前のトラブル乱造スキルを生かせるときが来たな」
「え?クロ助、いくら、わたしでも、全部トラップ踏みながら歩かないよ?!」
「歩いたことがあるよな、数え切れないぐらい!!」
「そんなにないもん。数十回くらいだよ!」
「充分多いだろう!」
初っ端の頃は、俺自身も駆け出しの餓鬼だったので、死に掛けた。
「庇ってやるから、やるぞ。あと、探索に支障が出る人為的なトラップの回収解除はギルドから報奨金が出るはずだ」
「あ、はい。私とマルガレーテちゃんが報告します」
「んー、アリスさん。土属性持ちのあたしが回収できないトラップだから、報奨金も結構良いと思うよ」
マルガレーテがまともなことを言っているだと。俺の中で衝撃が走る。
「え、本当?!やってやるよ!!」
「お前、何気にチョロいよな」
やる気にまんまんなアリスに複雑な気分になった。