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場が収まったところで、Mのじいさんに青年たちを引き渡す。
褒められたと思って、誇らしげに筋肉を動かすMがいるからか、青年たちはおとなしくしていた。
「彼らも悪気があったわけじゃないんじゃ。許してくれの」
俺からことのあらましを聞いたじいさんが、シャルロッテとマルガレーテを見ながら言った。別にMのじいさんが悪いわけでもないので、シャルロッテもマルガレーテもふるふると首を横に振る。
「……人に謝ってもらう。人間のクズ」
俺のローブの裾を掴んでちょこんと立っていたナスターシヤが、青年たちに聞こえる音量の絶対零度の声で言った。
まともに言葉の氷柱を喰らった青年たちが床に突っ伏す。
どうでもいいが、未だにチュニック覆面のため、他人の家の床に上半身裸で転がっている絵面は健在である。
「あのな、そろそろその覆面どうにかしないか?」
うねうね動くので、床掃除に丁度いい気もするが話がすすまないので、声をかける。
「これだからリア充は!!」
「外を歩けば通報される気持ちが分かるのか!!」
「ぷーくすくすとロリに笑われる快感が貴様に分かるのか!!」
「そんな格好で歩いて通報されないと思うほうがおかしいって、分かりたくねーよ!!」
駄目だこいつら。プリヘーリヤとはまた違った方向で駄目だ。
「……社会のゴミ」
ナスターシヤが抑揚もなく淡々と言う。無表情のなかに蔑みが見えるのが怖い。
「うは……ょぅじょ……つよい」
がくっと、青年たちが小芝居をしてくれる。放置したいところだが、俺にはこいつらに話があるのだ。
「ナスターシヤ、使い物にならなくなるから、少し静かにな」
「……する」
俺は嘆息すると、青年たちの側にしゃがむ。立ち話をしたいが、相手が転がっているので仕方がない。
「お前らが管理しているあの天然洞窟は、ちゃんとマッピングしたりして調査済みなのか?」
そう声をかけるとぴくっと青年たちが反応する。
「貴様!!まさかギルドに!!」
「赤の怪人が来るんだぞ!!」
「恐ろしいことをしてくれたな!!」
駄目だ話が通じる気がしない。
「ギルドには伏せておいた」
一応そう言っておいてやるが、わーわー言うばかりで、どうしようもない。
「Mのじいさん。こいつらは地形を把握しているんですか」
一番話が通じそうなMのじいさんに訊ねる。ぶっちゃけ、最初からMのじいさんに話を振っていた方が良かったかもしれない。
「保管場所以外は知らんだろうなぁ。ワシも本のある場所とテント周辺とここに来るまでの道しか知らないからのぉ。保管場所は湿度温度日照時間ともにベストじゃから安心するんじゃ」
最後が余計だ。しかも、安心できるトコなんぞ一切なかった。
「マッピングを頼めますか?」
本当は青年団に頼もうとしていたことをMのじいさんに言う。
「メロディの夫の頼みごとじゃ、任せるんじゃ」
頼もしそうにじいさんが言うが、結構不安が残る。
「その、ケロの字、あたいが監視するから、安心しておくれ!!」
「いや、ありがたいが、余計不安というか」
「それならば、私がそっちの調査に参加します。迷宮内だと足手まといですから」
俺が言いよどんでいると、シャルロッテがそう申し出てくる。まあ、シャルロッテがいれば大丈夫だろう。
「じゃあ、頼む。MのじいさんとM、シャルロッテがあの洞窟の調査な」
「はいはいはい!!マルガレーテの王子様、プリちゃん動員させれば、迷宮内からの調査も二手に別けられます!!」
どうにか決まったあたりで、マルガレーテが発言する。
「……プリちゃん」
「じゃあ、あたしとナスターシヤちゃんがプリちゃんと一緒に調査します!!」
「ああ、任せた」
そうなると、俺とアリスが調査することになる。アリスと二人での迷宮調査は結構久々かもしれない。
「じゃあ、夕飯食ったら、調査を始めるぞ」
俺はそう言って、祖母に食事を頼みに行った。




