83
夕方、調査を終えて帰ろうとしたところで、ヴェント青年団に出くわした。
小脇に子供には見せられない本を持った青年たちは、俺たちを視界に入れると、往来でチュニック覆面などという格好をとる。こいつらの頭が心配だ。
「な、なんだ貴様らぁあああ!!」
「ロリは世界の宝ぁああああ!!」
「好きなタイプはぁああああ!!」
覆面の野郎どもがナスターシヤに詰め寄るので、シャルロッテが道具袋で男どもをぶん殴った。昨夜大量生産した冷凍食品のせいで、ちょっとした兵器くらいの威力のそれに、青年たちのHPが一撃で一桁になる。本当にあの道具袋は洒落にならない。
「ぐはぁあああああ!!」
「くっそ、ばばあにやられ……」
あわてた俺がサイレンスで強制的に黙らせるが、時既に遅し。
シャルロッテがおどろおどろしい闇を背負って立っていた。
「クラウディオさんどいてください。そいつらころせません」
「殺すな!!殺人駄目絶対!!」
とりあえず、手遅れっぽいので、サイレンスを解くと、青年たちはひいっと野太い悲鳴を上げる。悲しいかな、Mより可憐な悲鳴だった。
「う、こ、これだから、び……」
「だから、余計なこと言うな!!」
こいつらに学習能力はないのだろうか。
「だがしかし、十四歳以上は年増だぁああああ!!」
あ、これプリヘーリヤ並みに触れてはいけないタイプの人間だ。
「クラウディオさん、ヴェントの養育環境的にギルドに突き出しても大丈夫だと思います」
シャルロッテの言う通り、突き出してやるのが町の平和のためかもしれない。
「くっそ、これだから女は……」
「ロリは正義!!ロリこそ至宝!!」
「……犯罪予備軍」
覆面のままナゾの主張を始めた青年たちに対して、ナスターシヤが容赦なく言い放つ。
「くっそぉおおお!!」
「これだから、現実は駄目なんだぁああああ!!」
「紙面だけが正義なんだぁあああああああ!!」
うあああああっと、人通りのある場所で迷惑な奴らである。
通行人がスルーしているあたり、通常運転っぽいのがイロイロとアウトだ。
「あのなぁ」
余りのみっともなさに、俺が嘆息すると、青年たちがぴくっと止まる。三人同時は結構、気持ち悪い。
「はぁあ?!これがリア充の余裕ってか?!」
「適齢期過ぎとは言え女侍らせやがって!!」
「これだから、女のことしか考えてない野郎は嫌なんだよ!!」
いきなり復活しやがた。そして、無駄に強気だ。しかし、チュニック覆面が全てを台無しにしてくれるので、腹も立たない。
「マルガレーテ、アサシンのスキルをここで発揮しようとするな!!」
「もう、マルガレーテの王子様ってば、あたしにやらせてください!!きっと上手くできますから!!」
「殺らせるか!!」
静かにしていると思っていたら、青年たちの背後で針やクナイを持って立っていた。
絶対絶命の青年たちに対して、なんで俺だけが慌てているのかと思わないでもないが、人通りの多い場所での戦闘は常識的に駄目だろうと思うことにする。
「……時間の無駄」
そんなこんなしていると、ナスターシヤが俺のローブを引っ張ってきた。大きな黒瞳が俺をじいっと見上げてくる。この大きな目で見上げられるのに弱い俺は、ナスターシヤの頭を撫でると青年たちにシャドウ・バインドをかけておとなしくさせる。
宿屋にいるMのじいさんにでも預ければ良いだろう。
荷物をシャルロッテとマルガレーテに任せると、俺は三人の覆面部分を掴んで、引きずって宿屋へと帰った。




