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食事をとった後は、夜まで時間があるので、ヴェントの町の地下のどのあたりに洞窟があるのか把握するために、町のマッピングをすることにした。その際、マルガレーテが昨夜投げたクナイがいい観測基点になってくれた。
クナイのある場所が迷宮と地下洞窟の境界だったことも幸いして、順調に地図をうめていく。
「それにしても、町の地下には迷宮が入り込んでなさそうだな」
俺が地上をマッピングし、それをシャルロッテが迷宮の地図と見比べておおよその目星をつけ、マルガレーテがスキルを使って、正確に位置を紐付けする作業をしていたのだが、完成していく地図を見ると、見事に町を避けて迷宮が広がっている。
「そうですね。街中に出現したら、それはそれで大惨事になりそうなので、いいことですけれど」
シャルロッテが恐ろしいことをぼそっと述べる。
「……町の位置同じ」
すると、今まで黙って俺たちの後ろを歩いていたナスターシヤが俺のローブの裾を掴んで言う。
「迷宮の出現する場所は今も昔も無人の場所ってことか」
ヴェントは畑が大惨事だったが、人的被害はなさそうだ。
そう言えば、フォレボワも迷宮が出現した場所はもともと森だったな。
「酔っ払いの超テンションで町が滅びるのも嫌ですけどね」
うんざりとした様子でシャルロッテが言う。しかし、
「いや、ウダール・モールニ村が結構ピンチだぞ」
今は迷宮内に逃げ込んでいることを信じて、救出を考えているが、全滅している可能性だってあるのだ。
「そうですね。クラウディオさん、酔っ払いに殺意が湧くので、禁酒志向でお願いします」
「それ、現在進行形でエール飲みながら博打やってるアリスとMに言ってくれ」
親衛隊のじいさんと言う、良い遊び相手を見つけたアリスとMは現在宿屋で賭博をやっている。多分、このマッピングが終わったら、じいさんたちの脱臼した肩を治す作業が俺を待っているにちがいない。
「でもでもマルガレーテの王子様、迷宮内に居たとして、モンスターは大丈夫そうですけど、食料って確保できるんでしょうか?」
遠い目をし始めた俺にナニかを感じたマルガレーテがいい感じに話題を変える。
「ナスターシヤちゃんは、プリちゃんが確保してたんですっけ」
プリちゃんを顎で使ってキッチンでイロイロ大量生産していたシャルロッテが、そういえばと考える素振を見せる。
「……得意料理ボルシチ」
そして、突然知らされるプリちゃんの得意料理になんともいえない気分になる。何気にハイスペックな藁人形だよな……じゃなくて。
「日数かけられないってことか」
せっかく迷宮内に逃げ込んでいても、餓死は笑えない。
「テンペスタがいつ出るか分からないが、出現次第速攻で山越えか。食料も調達していくべきだよな」
「……真冬の山越えは無理」
ナスターシヤがのそっと言う。
テンペスタが春先に出ることを祈るしかない。
「まあ、今は洞窟が差し迫った問題だよな」
未定の予定は考えないことにして、俺たちはマッピングを進めた。




