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「クラウディオさんはどのドレスがいいですか?」
「マルガレーテの王子様、最初はあたしと挙げてからですから!!」
「……ナスターシヤ、二番」
「うう、クロ助、わたしは三番で」
「それなら、あたいが四番かい?」
「私が最後ですね」
シャルロッテがギルドから帰ってくると、ナゾの本を持っていたのだが、会話からどんなモノかが知れた。知りたくもなかったけれども。
「おい!!ナニ持って帰った?!」
「これですか?マルガレーテちゃんがフォレボワで取り寄せしていたウエディング・カタログです」
しれっとシャルロッテがのたまる。お前、本当にキャラどこ行った。
「凄いね!!ネーベルってやっぱり都会なんだね!!」
アリスがのほほんと言うが、全く気が緩まない。
「マルガレーテの王子様任せてください!!あたし愛妻としてみなさんを纏め上げます!!」
マルガレーテがゲッソリした俺を見て言うが、余計に精神的ダメージを食らった気分だ。
「クラウディオさん、恋と戦争においてはどんな手段も許されるそうです」
「許されるワケないだろう!!」
俺が言うと、シャルロッテが動きを止めて、じいっと俺を上目遣いに見てくる。あ、これ結構クルものがある……じゃない。
「クラウディオさんは私が嫌いですか?」
じいっと緑色の瞳が俺を見つめてきた。不安に揺れる大きな目に、庇護欲を掻きたてられる。
「いや、好きか嫌いかって言われれば、好ましいとは思っているが」
ちょっとどころか、かなりぶっ飛んだコトをしでかしても、許容できるくらいには好意を持ってはいるのだ。
「なら問題ありませんね」
きっぱり言い切るシャルロッテに先ほどの面影はない。か弱そうな外見にだまされそうになるが、こいつ結構したたかだ。
「ちなみに、あたしのことは愛してるんですね!!もう、マルガレーテの王子様、早く子沢山になりましょう!!」
「おい!!」
いやーんとしなだれかかってくるマルガレーテだが、恐ろしいことにわりと通常運転だ。アレ、俺、感覚が麻痺してるかも知れない。
「おやおや、にぎやかでいいねぇ。マイアレット・アッロストを焼いてみたから、おあがり」
ぐったりしていると、祖母が子豚の丸焼きを持ってやってきた。持っているのは親衛隊のじいさんたちだが。
「ありがとうございます」
「おやおや、コルンバーノは他人行儀でさびしいねぇ」
しょんぼりする祖母に良心が痛まないワケではないが、婚姻の書類に本人代筆でサインしてくれた祖母に現状の責任はないとは言えないのだ。怒っているのだとアピールしている積もりである。多分、通じてないだろうけれど。
「ああ、ジョルジェットたん悲しまないでくれぇえええ」
「ほら、コルテッロ君もおばあちゃん大好きっ子じゃよな?!それはもう、おばあちゃんのためなら命捨てられるくらいに!!」
親衛隊のじいさんたちが祖母を慰めていると、Mのじいさんが湧いて出てきて、じいさんとは思えない力で俺の頭をぐぐと沈めて、無理矢理肯かせた。その連携プレーに「お前ら、昨日の険悪な空気ドコに捨ててきた」と言いたい。
そして、駄目だ相手は老齢、暴力駄目絶対と俺は耐えたわけだが。
「なにやってるんだい!!」
Mがじいさんを吹っ飛ばした。おい、年寄相手になにやってやがる。
「メロディ……ぐは」
芝居がかった動作でMのじいさんが崩れる。あ、これほっといて大丈夫なヤツだ。
「まあまあ、おなかが空いているのねぇ。さあ、召し上がれ」
そんな光景をスルーしてにっこり笑う祖母はかなりのツワモノだった。




