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脱臼したじいさんたちの治療を終えた後、ギルドに行って天然洞窟の報告をした。
今現在、天然洞窟と迷宮を見分けることができるスキルがカース・ガイドしかないため、この調査はギルドから俺に依頼されることになった。
純闇の僧侶職以外はまず使うことはない地味スキルが、フォレボワの一件以降えらいことになっている。カース・ガイドに呪われた気分だ。
「ふぁああ、じゃあ、お孫さんヨロシクね」
半分以上寝ている受付嬢がやっつけに言う。本当に仕事しろ。
「あ、申請はどうなりましたか?」
俺と一緒に来ていたシャルロッテが唐突にそんなことを聞き出した。
「ああ、アレね。この依頼報酬からで良いかしら?」
「はい」
シャルロッテが嬉しそうにしているので、悪いコトではないんだろうが、嫌な予感しかしないのはなんでだ。
「なあ、なんの申請をしたんだ?」
「勿論、家族間報酬の一括振込みです」
しれっと、シャルロッテがのたまうが、イロイロ待て。
「誰と誰が家族なんだ?」
「私たち全員です。ヴェントは重婚の申請ができるので助かりました」
おい。今なんかおかしなコトを言ってなかったか。
「重婚…」
「ほら、アリスさんは許嫁、Mさんは内縁の妻、マルガレーテちゃんは愛妻、ナスターシヤちゃんと私は配偶者じゃないですか」
なに事実みたいに言ってるんだ。
「ああああ、うらやましねぇええええええ」
俺とシャルロッテが二人で話しているのを見て、受付嬢が妬みのこもった視線を向けてくる。
「とりあえず、一旦戻るぞ」
「はい」
宿屋の自室に戻るなり、五人に尋問した俺はわりと普通のハズだ。
「あ、申請通ったんだ!!」
「マルガレーテの王子様、これでギルド公認の夫婦ですね!!」
「そのなんだい。あたいが人妻……」
「……ナスターシヤも」
それぞれの反応に頭を抱えたくなる。
「クラウディオさん。外堀とはこうやって埋めるものです」
「いや、いきなり落城してるよな?!開戦前から、全部終わってたよな?!」
「あ、シャル子、これって、キセイジジツかな?」
どうしてくれようと、思っていると、アリスがとんだ爆弾発言をかます。
「そうですね。申請出して通した辺りで、いまさら変更できませんし」
「やったぁ!!クロ助とキセイジジツ作ってこいって言われたんだよね!!」
「誰にだ!!」
「お母さんとお父さんだよ!!」
ウィンザー夫妻、どんだけ娘を押し付けたかったんだ。数年帰ってくるなと頼んでくる辺りが必死すぎて笑えない。
「って、そもそも、宿屋がタダになるからの方便じゃなかったのかよ!!」
「クラウディオさんは私が冗談で異性と婚姻関係にあることをほのめかすような軽い人間に見えますか?」
ノンブレスで瞬きもせずに言うシャルロッテが怖い。
「クラウディオさんは私が好意もないような異性に同衾を許すと思っていたんですか?クラウディオさんは……」
「分かったから!!今のは俺の言い方が悪かったな!!だからストップ!!」
「分かってくれたのならいいです」
にっこり笑うシャルロッテに冷や汗が出るのはなんでだ。
「クロ助、これでみんなとずっと一緒にいられるね!!」
わーいと喜ぶアリスの天真爛漫さに癒される日が来るとは、人生なにがあるか分からない。
「では、ネーベルのギルド直営店の通販で家族割引使えるので、カタログ頼んじゃっていいですか」
さっきまでの病み具合がウソのようにしれっとシャルロッテが言うが、今度は俺も見える地雷は踏まないように黙って頷く。
反対意見がないのを見届けると、シャルロッテとアリスが楽しそうにハトを借りに行ったのだった。




