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気をとりなおして入ったつもりだった。
木漏れ日がやさしいクセに闇属性モンスターばかり出没するとかの疑問は、フォレボワ周辺がそもそも闇属性の曲者ぞろいばかり出現するので、解決済みだ。
などと、現実逃避したくなるような光景が目の前にあった。
そもそも、マルガレーテが空けた穴の処理をするべく、デス・スコーピオンの出没地点に向かったことが間違いだった。ほっておいて、広場で雑魚狩りしておけばよかった。
「……あのさ、これ、どう見える?」
「うん?デス・スコーピオン頑張ったね!!に見えるよ!!」
俺の目の前には、マルガレーテが空けた穴に無理矢理入り込んでおとなしくしているデス・スコーピオンがいた。きついってレベルではなく、最早、圧縮かなんかだ。
デス・スコーピオン。お前は何を思ってそこへ入り込んだんだ。
「これで、素通りできますね。でも、念のために、アクア・ベールかけます」
「マルガレーテの王子様、戦闘回避させた、あたしをホメてください!!ほら、頭なでなでとか、ふっかぁーいキスだとか」
「これ、スルーできるお前ら凄いな。さすが冒険者だな」
アリスですら、まじまじと嵌まり込んだデス・スコーピオンを見ている。
「ねえ、クロ助」
「なんだ?」
「デスがついているとは言え、蠍だから、食べられるよね!!」
「お前、まだ腹減ってんのかよ!」
生唾飲み込むあたりが冗談に見えない。と言うか、食い物として見ていたのか、アリス。
「アリスさん。夕飯は私が作りますから、今は我慢してください」
「シャル子ぉおおおお」
アリスが叫びながら、がばっとシャルロッテに抱きつく。このままいくと、シャルロッテが餌付けしてくれそうだ。
「もう、デス・スコーピオンについて突っ込むのは諦めるとして、奥行くか?戻るか?」
「お任せします」
「マルガレーテの王子様に一生ついていきます」
「んー、稼がないと出禁にされたから、奥行くしかないよぉ」
「……お前、一晩でドンだけ損害出したんだよ!!」
いくら請求されたか知らないが、アリスが奥に行こうと希望するあたり、PTフルメンバーの六人全員の装備をレア素材製一式に買い換えられるくらいの額はいっているかもしれない。
「違うよ!累計で請求されたんだもん!だから、ウチが半壊したときのも込みだよ!」
「改めて、酷いな!!つか、よく勘当されないよな!」
ここまでやって、稼いでくればチャラにしてやるチャンスを与えるウィンザー夫妻が凄い。
「うう、クロ助にも返済しないといけないし、わたし、貧乏だよぉ」
「自業自得過ぎて、同情できないんだが?!」
泣きまねをするアリスをシャルロッテとマルガレーテが可哀相な目で見ている。そいつに同情は身の破滅を招くぞ、目を覚ませ、二人とも。
「アリスさん、しっかり狩りましょうね」
「まあ、あたしもシャルロッテも一種類ずつ素材があれば良いから」
「シャル子!マル美!」
「二人とも甘やかすな。とは言っても、基本的に一人で狩るんなら、俺も良いけどな。回復はしてやる」
「うん!」
意気揚々とアリスが返事をする。
俺は嘆息すると、とりあえず、奥へと向かった。