78
途中でMとじいさんを回収すると、俺たちは天然洞窟を通って、外へ出ることにした。
Mのじいさん曰く、徒歩数分でヴェントの町中に着くとのことだった。
「罠がないのはありがたいな」
ここに至るまで、アリスのトラップ踏みを全力で阻止していた俺は、天然洞窟のなにもなさに、しみじみとそう言った。
「やっぱ、歩きやすいね!!って、あ」
普通の小石につまずいてアリスがこける。当然とばかりに俺を巻き込んで。間一髪、腕に絡み付いていたマルガレーテは逃げることができたらしい。
「うひょ。お若いの、おっぱいは良いじゃろ」
「じいさん!!何を言っているんだい!!」
「メロディがむっちむっちなら、あんなハプニングもできるんじゃがなぁ」
アリスに潰された俺を見てどんな感想を持ってやがるんだ。
「ナスターシヤちゃん、淑女たるもの夜のために筋トレを頑張りましょうね」
「……頑張る」
そして、シャルロッテとナスターシヤは夜間にナニやらかす気だ。
「マルガレーテの王子様もアリスさんも大丈夫ですか?」
そう言って、アリスを起してくれたのはマルガレーテだった。一番まともな反応のマルガレーテに思わずコロッといきそうになる。あれ、コロっといっても問題なくないか。
「それでは、騎乗……」
「言わせねぇよ!!」
やっぱ、ない。これはない。
「おおー。うらやましいのぉお。ワシも五十年早ければ」
「もう、なにを言っているんだい!!」
深刻な突っ込み不足に全俺が泣く。
そうこう騒いでいると、少し先に人口の灯りが見える。本当に町まで数分でつくらしい。
出口は狭いので、一列になって出ると、そこは掘っ立て小屋の中だった。
マリアさんの店よりはマシくらいのボロ加減に、何で明かりが灯っているのか疑問に思えるくらいには荒れた小屋だった。
「ふう、お前さんらはちょっと待っておれよ」
じいさんは言うと、一人で小屋の外へ向かう。外には数人の男がいるのだろう話し声が聞こえた。
「出て来ても大丈夫じゃよ」
じいさんが言うので出れば、じいさんの隣に脱いだチュニックで顔を隠す三人の男がいた。
「若い女の子に見られでもすれば、彼らのピュアなハートは壊れてしまうからの。詮索はせんでやってくれ」
意味が分からないが、分かりたくもないのでスルーする。
「普通に民家の近くか。やっぱり危ないな。ギルドに報告す……」
「貴様、それでも男かぁあああ!!」
「血も涙もない所業ぉおおおお!!」
「これだからリア充はぁあああ。爆発しろぉおおお!!」
俺が言い終わらない内に、上半身裸でチュニックの覆面という変態クサイ三人組の絶叫があがる。内容もアレだが、普通に近所迷惑だ。自警団にしょっぴかれても同情はできないだろう。
「まあ、待ちなさい。ここは彼ら、ヴェント青年団が管理しておるから、ギルドに報告せんでも大丈夫じゃよ。むしろ、不都合なんじゃ」
「その青年団ってのは男ばっかりなんだよな?」
これ、アレだ。この地下洞窟がヴェント男子のベッド下的なやつになってやがるんだ。
察した俺が言うと、じいさんが分かってくれたかと、握手をしてきた。
「まあ、今のところ、出口にはじいさんが住み着いているし、この場所に関してはそっとしておく」
繋がる天然洞窟はここだけではないので、無駄に時間を食いそうなことは避ける。調査も短縮できるなら、そっちの方が良い。
「そうですね。面倒ですし、そっとしておきましょう」
シャルロッテが蔑む目を変態三人に向けていたが、覆面のおかげで彼らのピュアなハートは守られた。
時間も時間のため、俺たちは一旦宿屋に戻ることにした。




